嵐の前触れ
ありえない出来事に言葉を失った3人だったが、しばらくすると島原組が帰還したとの連絡が入ったため、急ぎ襲撃事件について報告をするため、土方の部屋へ向かった。
「何だと!?またやられたのか!」島原から帰って来て早々、藤堂、斎藤、沖田から襲撃の報告を聞き、土方は頭を抱えた。
「...ったく!厄介事ばかり起きやがる!」
「役人との話でも、何かあったのですか?」
「あぁ。やはり、俺たち新選組が以前から目をつけていた通りだった。どうやら攘夷志士の中にも見える奴がいて、そいつが何かを企ててるって話だ...。」
「どうやら今回の襲撃でも、ただの攘夷志士とやつらが混在していたようです。隊士が3人やられました。」
「3人の容態は?」
「それが...既に熱も下がり、快方に向かっております。」
「なに?それは本当か!」土方は斎藤の返事に目を見開いた。
「はい。我々も未だに信じられません。まだ、3名とも目を覚ましておりませんので、はっきりとはわかりませんが...」
「そうか...そっちの方も調べる必要があるな。回復し次第、確認してくれ。さっきの役人の件は、後から幹部を招集して、改めて話をする。ご苦労だった。とりあえず、部屋に戻って休んでくれ。」話が終わり、三人とも部屋を出るため立ち上がりかけたが「総司は残れ。」と土方が声をかけた。沖田はあからさまに嫌な顔をしつつも、土方の前に座り直した。
「僕だけ残して、何のようですか?」土方は目の前の資料に視線を落としながら、話を始めた。
「...総司お前も気づいてんだろ?このところ襲撃に遭ってるのは、一番隊が巡察の時、お前の隊だ。何か心当たりはねえのか?」
「心当たりねえ...ありすぎて、そんなのいちいちわかりませんよ。」
「...お前なぁ。例の件も、山崎に調べさせてはいるが、決定的なもんが掴めてねえ。だが、ここ最近の襲撃にも関与してる可能性がある以上、もう待ってられねえ。早いとこケリをつける。」
「じゃあ、あの女の件も一緒に片付けちゃうって事ですか?」
「あぁ...その予定だ。この件は、後で幹部連中にも話を通す。準備しとけよ。」
「わかりました。もうそろそろ我慢の限界だったんですよね。平助なんて簡単に信じちゃいますし、あの一君ですら、部屋から出すのを許可するなんて...あ...」沖田はしまったという顔をしたが、時既に遅し。
「はあ?あの女、部屋から出たのか?!」思わずガバッと顔をあげて、土方が目を見開いた。
「怒らないで下さいよ〜僕だって、襲撃の後処理して、屯所に帰ってから驚いたんですからね。」
「まさか、あの斎藤がな...」
「まぁ、今回は負傷者も多かった上に、島原の警護や先日の襲撃で負傷した隊士がまだ回復してなかったのもあって、人手が足りなかったんで...」
「はぁ〜...俺から二人には話しておく。今後計画を進めるに当たって、情けは無用だ。仮に、あの女が白だったとしてもな。」
「さすが、鬼の副長。血も涙もありませんねえ?」そう言いながら、沖田は「よいしょ」と立ち上がった。土方はそんな沖田の顔をじっと見つめた。
「...総司、お前大丈夫か?顔色悪いぞ。」
「そりゃあ、悪いに決まってますよ。徹夜ですよ?おまけに、朝から土方さんのお説教なんて...」
「けっ。それだけ憎まれ口が叩けるなら大丈夫だな。もういいぞ。」それを聞いて、はぁ〜疲れた疲れた、とわざとらしく呟き、沖田は部屋を後にした。その様子を、後ろから土方は意味ありげにじっと見つめていたのだった...
土方の部屋を出た途端、身体の力が一気に抜け、沖田は思わず壁に手をついた。自身の状態に内心舌打ちしつつ、ふらふらながら何とか部屋にたどり着くと、その場に崩れ落ちた。"土方さんには、バレたか..."そのまま力なくゴロンと仰向けになると、額に手を当てた。身体の内側から火が出そうなくらい全身が熱く、呼吸も荒くなっていた。"まずいな..."そう頭では思うものの、もう身体を動かす気力は残っていなかった。そして、そのまま意識が暗闇の中へと引きずり込まれて行ったのだった。
桜の季節〜新選組とともに〜 @minon
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