人間は、分かっていても実践できない生き物なのです、それは例外なく

本エッセイは読むと爆笑します。しかし描写される事実は、実に過酷で……

あれほど過酷な現実を、これほど笑いに包んで記述できる、すると著者は精神的に豊かな人なのだろうと想像するのですが、社会的には精神科に通う患者です。この矛盾しているような現実を著者は生きます。

分かっちゃいるけど、という歌の文句があります。正鵠を射ています。著者は、分かっていても、自らの病のために、思った通りに行動できません。それは、とにかく歯がゆい。

しかし本エッセイを読む私たちは著者を笑えるでしょうか。

人間は、分かっていても実践できない生き物なのです、それは例外なく。皆が思い通りにならない現実をどうにか生きていきます。

その現実を著者は直視します。精神の病を抱えながら、健康と見做される人より遥に現実的な態度で。しかもユーモアに包んで。

人生が苦しくなるほどエッセイが面白くなる皮肉な状況に、エッセイがつまらなくなったらいいのに、とおかしな希望を抱きます。

しかし厳しい現実を生き抜くために生まれた本作は、珠玉です。

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