第20話 やはり流行り逸り

 フィリシスもエルフリーデも、全く危なげ無く一回戦を圧勝し、ようやくオレの出番が来た。

 もちろん、試合時間はまちまちだったが、何試合も並行して実施可能なのは相当な時間短縮に繋がっているのが分かる。

 それでも最終の試合ともなると、かなりの時間を待たされたわけで、観戦の合間に何度かストレッチをやり直す破目になってしまった。


 フィリシスやエルフリーデの試合は完勝も良いところで、観ていた時間は両方を合わせても一分にも満たないだろう。

 それなりに仲の良い学友の試合も見るには見たが、そこまで面白い試合も無かった。

 それでも学生や、その両親や兄弟など、身内が観戦に来ていたし、学校関係者だったり、単に暇らしい人々が観客席に居て、かなりの盛り上がりを見せていた。

 娯楽の少ないこの世界では、素人の学生が行う模擬戦でも、立派な出し物として成立しているようだ。

 観戦中は商機に敏い物売り達の声や、中には賭け事をしているらしい者達の一喜一憂する声も聞こえて来た。


 オレの初戦の相手は、エリート達の取り巻きの筆頭格で、たしか何とかという子爵の七男坊の筈だ。

 仲間内ではトーマスと呼ばれていたが、それはいわゆるファーストネームだろう。

 この帝国では珍しい人族至上主義なのか、特にオレ達への当たりが強い嫌なヤツだった。

 五学舎の統合が無ければ士官学校の三席か四席目には入っていただろう準エリート……今は武術専攻クラスの次席……つまりエルフリーデの次に強いという評価の筈で、エルフリーデの並外れた実力を知るオレから言わせれば大したものなのだが、本人はそれが気に入らないらしいから、なおのこと始末が悪い。

 この国の貴族は、貴族だからといってあからさまに平民を見下す……みたいな部分は無いのだが、逆にエルフリーデが友好国の王族だから遠慮するみたいな部分も無いので痛し痒しというところだ。


 閑話休題それはともかく……


 トーマスの戦闘スタイルは、オーソドックスな盾と長剣を使う、騎士志望者に有りがちなものだった。

 馬上ではランスを巧みに使うという話を聞くので、なおさららしい。

 オレは槍を模した模擬武器の中でも最も短いものが、普段の訓練で使う短槍に最も近い長さだったので、それを使うことにした。

 これは一応は試験の筈なのだが、トーマスは試合開始の合図が出される前から、やる気満々のようだ。 

 ……目が血走っている。

 魔法も使って良いらしいが、トーマスは確か魔法が苦手らしいから、ここは武器戦闘でお相手しよう。


「始め」


 レフェリー役を務める講師の声が聞こえると、逸りに逸っていたトーマスは、勢い良く真っ直ぐに突進してきた。

 オレは繰り出された斬撃を槍で受ける振りをしつつ、おもむろに半身を下げ……足払い。

 見事に転倒したトーマスの後頭部に槍を突き付け、終わりの合図を待つ。


「そ、それまで! 勝者カインズ」


 ……終了だ。

 納得がいかなかったらしいトーマスが審判に食って掛かるのを後目しりめに、会場を後にする。

 逸り過ぎだよ、いくらなんでも。


 ◆ ◆ ◆


 結局のところ、トーマスの例は極端にしても、学生同士の模擬戦で、オレやフィリシス、エルフリーデと対等に戦える者は居なかった。

 最も盛り上がりを見せたのが、フィリシスとエルフリーデの準決勝で、最終的にはフィリシスが一瞬の隙を突いて、エルフリーデの股の間をスライディングで滑り抜け背後に回り、背中から短剣を心臓の位置に向けた段階で、審判からフィリシスの勝利が告げられた。

 相性的にフィリシスに分が良かったのも有るが、それでも長時間フィリシスの変幻自在な挙動に付いていっていたエルフリーデには、会場中から惜しみ無い称賛が、それこそ雨の様に降り注いだ。

 こちら側の準決勝なんて、誰も見ていなかったのでは無いだろうか?

 いやまぁ……対戦相手のエリート君に、見所らしい見所も作らせないまま完封したオレが悪いんだろうけどね。


 ◆ ◆


 不必要に感じる程、長い休憩の時間が取られ、そろそろ決勝戦の時間になる。

 エルフリーデと、エリート君の三位決定戦など、順位戦が多く行われたためでも有るのだが。

 エルフリーデ?

 あっさりと相手の武器を叩き折った後は、自らも武器を手放して、徒手戦闘でも圧倒……徹底的に折りにいっていたよ。

 ……色々と。


 フィリシスが本気になった姿を、実は学院の同級生も講師も、誰も見たことが無い。

 子供の様な可愛らしい見た目に反して、歴戦の傭兵として鳴らした腕前は健在で、武術系の授業では大半の講師よりフィリシスの方が強く知識でも上回っていたぐらいだ。

 ソホンさんや父を除くと、オレの知り合いで最も底が知れないのがフィリシスだと思う。

 素質的にはエルフリーデも相当なモノを持っているし、サナさんも見た目と強さが一致していないらしく、時折かなり怖い雰囲気を放つ。

 大半はエルフリーデのスキンシップが行き過ぎた時に放たれるプレッシャーなのだが、場合によってはオレより強いかもしれない同年代は、二人の美少女に限られていた。

 フィリシスは……年代的には父達の方が近いぐらいだが、学院ではオレと同級生。

 在学中はオレの一番のライバルになるだろう。

 直接対決はこれが初めて……さぁ、いったいどんな展開になるのだろう?


 いよいよフィリシス対オレの決勝戦が行われる。

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ワケあり半分エルフの成長記 高遠まもる @mamosayu2018

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