第6話 英雄の卵─旅立ち─

「どうしよう……」


 困り果てました……。彼女にとって、その事実は完全に想定外だったのですから……。


「僕、地図が読めないんだった……」


 完全に盲点でした……。由々しき事態です! 何故なら、今後危険な旅に赴く彼女は、近くにいる大人に頼むことが出来ません……。周りの大人は英雄でも卵でもない、普通の人達なのですから……。


 それでもトウカちゃんは必死で考えます……。どんなに高い壁でも、立ち止まるわけには行かないのです。そう、それが英雄なのですから……。


「──そうだ!」


 トウカちゃんは、一つの名案を閃きました!


「な、なんだよ? そんな目で人の事見て……」


 断られるのが、少し怖かったけど……。ぬいぐるみを力強く抱き締めながら、一生懸命お願いするためにヌイお兄さんを見つめました。


「パーティー組んでくだしゃい……お願いします、ぐしゅん」

「ちょっと待て、何で俺なんだよ! 俺はリセマラするんだよ……こんな外れ武器……」


 ヌイお兄さんの言ってることは、難しくてトウカちゃんには分かりません……。ただ分かること……否定の言葉。困りました、このままだとトウカちゃんは──迷子になってしまうのです!


「ちじゅが読めないの……ヌイお兄さん……うっ……うっ……お願い……」


 ダメでした……不安になって、つい泣いてしまったのです。流れる涙を、ぬいぐるみで必死に拭います。


「こんな泣き虫じゃ……グスン、英雄なれないよぉ~」

「な、泣くなよ? なっ…なっ?」


 何も悪くない、ヌイお兄さんを困らせてしまいました。何故かそのせいで、より悲しくなってしまうのです。

 

「「あ~あ~、泣~かせた泣~かせた」」


 お姉さん達はヌイお兄さんを指をさして、からかい始めたました。


「ごめんねヌイお兄さん……本当にごめんね? うぅ……」

「な、何だこれ……運営の策略か……? こ、こんなの卑怯だろ。断れる訳無いじゃないか……」


 ヌイお兄さんはそう言いながら、大きな針を手に取ったのです。

 口は悪い様ですが、実は心は優しいのかもしれませんね。


「分かった! 分かったから泣き止め!」

「うん……いいの? ヌイお兄さん……」


 ヌイお兄さんは、乱暴にトウカちゃんの頭を撫で回します……。顔を赤らめながらも、トウカちゃんから首から上を背けて。


「「クスクス……。話は……まとまった様ね……クス」」

「あぁ~……。残念ながらな? なんであんたらは嬉しそうなんだよ……」


 お姉さん達は、近所のおばさん達が見る様な目で、トウカちゃんとヌイお兄さんを見ています。まるで、微笑ましい姿を見せてもらったと言うかの様に……。

 しかしトウカちゃんは「きっとコレが、期待の眼差しなんだね!」と勘違いをするのです。


「「さぁ、行きなさい! 貴方達二人が世界を救うのです!」」


 お姉さん達は、物語の中に登場しそうな台詞を言葉にしました。トウカちゃんは大興奮です!


「いくぞ……トウカ?」

「うん……よろしくね? え~っと……ヌイ君!」


 ヌイ君は「俺は年上だぞ? さん、だろ?」と言いましたが、トウカちゃんの君付けは直る事はありませんでした……。


 さて……彼女達の英雄鐔はひとまずここまでです。この後、彼女達はどうなるのでしょう? 


 ん? もう、トウカちゃんのお話が聞けないかもしれない? 心配しなくても大丈夫ですよ……。


──だって英雄は、皆が願えば現れるのですから。


 それではこれにて………………。──おしまい……おしまい。



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小さき幼女の英雄譚─短編─ リゥル(毛玉) @plume95

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