仮島

銀輪2号

第1話

「そのカードは使わないで」

清涼飲料水2本と惣菜パン2個の会計にクレジットカードを取り出そうとすると隣にいた楓にそう言われた。

「ああ、そうだね、現金で払おう」

このクレジットカードは2人でいるときは大抵使っているのだが、滞在中何度も買い物をするのに使っていたら明細がズラっと並ぶし楓が後で管理するのに手間が増えるだろう、少額なら現金で済ませちゃっていいよな。

「ありがとうございましたー」

昔ドラマで聞いたようなシンプルな音が流れて僕らは店を後にした。

「ほら、クレジットってお店に手数料かかるって言うじゃない?なんだか、ね」

そういうものか。

すぐ目の前に停めたレンタカーに乗り込んだ僕はすぐにエンジンをかけて再び車内に涼しい風を送り込んだ。店にいたのはほんの5分ほどだと思うのだが、車内は早くも温い空気が感じられた。ぐるりと回り込んで助手席に座った楓は、そうそうにレジ袋から清涼飲料水を2本とも取り出していた。

「はい、こっちが翔太のね」

普段も飲んでる熱中症に効きそうなやつを受け取る。楓が選んだ、店で初めて見たパッケージの飲み物をあらためて眺め、

「それってなんの飲み物?すだちみたいな果実の絵がのってるけど」

と俺が尋ねた時の楓の目はキョロっとしてて可愛かった。

「すだち?あー実物見たことないもんね、翔太。んー、似てるねっ」

「いやすだちはあるぞ、定食屋行ったらサンマの塩焼きに添えてあるだろ、すだち」

「じゃなくて、この絵のだよっ、シークヮーサーだよ」

「ああーアレって沖縄のじゃん?この島にあるの?てかパッケージになんも書いてなくね?」

「あるんだなぁ、それが。これお店の手作りなんだってさ!てか棚のポップにシークヮーサーて書いてあったじゃん」

「見たような、見てないような」

「どんだけ注意散漫なんだよっ。ここも沖縄に近いからねー。台湾にもあるんだよ知ってた?」

へぇ。とにかく暑かったら栽培できるのか?果物のことなんて考えたことも調べたこともないな。

「せっかく来たんだから、この島のこといろいろ知ってこうね、翔太」

楓はクシャッと笑う、異性と出会うたびに笑うと八重歯が覗くかどうかなんて一々気にかけることはなかったが、彼女に至っては思いっきり歯を見せてくるしそれでいて下品な感じは全然しなくそれどころか気品を、いやそれは違うか、とにかく上品な感じが不思議としてくる笑顔なんだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仮島 銀輪2号 @Gin_Rin2go

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る