やめちゃった

naka-motoo

河川敷にて

 ふう。

 タバコ吸うかな。


「エレさん」

「よお。垣根くん」


 わたくしがね、一身上の都合によって会社を辞める、って言ったらね。

 ひとりだけ惜しんでくれてんだよね。

 彼が。


「なんで辞めるんすか?」

「小説、書いてんだ」

「・・・初めて聞きました」

「まあ、そういうわけだから」

「・・・売れるんすか?」

「さあ。とりあえず投稿サイトでは全然読まれてないし」

「無謀、しょ」

「キミもそう思う?」

「働きながら書けないんすか?」

「そういうのはもう疲れたんだよ」

「ああ・あ。エレさんが居なくなったら、女の人、ゼロすよ」

「社長の奥さん、いるんじゃん」

「ええ・・・?」

「いいひとだと思うよ」

「どう恋愛の対象にすればいいんすか?」


 シーッ


「はあ・・・」

「ため息で煙、吐いてるすよ」

「そういう気分さ」

「小説、読ませてくださいよ」

「ええ・・・?」

「なんすか」

「恥ずかしいよ」

「恥ずかしい小説、書いてんすか。エッチなやつすか」

「精神的にエッチなやつもある」

「高級すね」

「どこが」


 まるで交換詩みたいなやりとりだな。

 荘厳だわ。


「じゃあ、タイトルひとつ教えてあげる」

「お願いします」

「『シーズ・ザ・ロックンロール・バンド』」

「バンドっすか」

「うん。ヴォーカルの子は14歳」

「男?女?」

「女」

「美人?ブス?」

「くだらない質問すんじゃねえよ」

「はは」

「美しいんだよ。性根が。紫華シハナっていうんだよ。名前が」

「ハッピーエンド?バッドエンド?」

「読めよ」


 わたくしは会社を辞めたらそれでも書くことに専念はできないだろう。

 会社よりは時間のとれる仕事を探すだろう。

 でも結局書くことで生きて行くことはできないだろう。


「エレさん。応援して欲しいすか?」

「垣根くん。幾つになった?」

「21す」

「若いなあ。いいなあ」

「晩には死んでるかもしれないすよ」

「でもやっぱりいいなあ」

「応援して欲しいんすか。要らないんすか」

「応援して」

「力の限り」


 そうか。


 力の限りか。

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