おにぎりは世代を超える。

絵之旗

おにぎり

机におにぎりが三つ。

私はそのおにぎりが大好きだった。

一人一つずつ。

故郷の味とでもいうのだろうか。

舌が踊り、心が満たされ、至福のひととき。

米の一粒一粒が美味しい。

何より家族で食べるから味は何倍にも増して美味しいと来たもんだ。


×××


机におにぎりが三つ。

全てコンビニで買ったものだった。

美味しいが子どもの頃食べていた味には勝てない。

私の舌はいつでもあのふるさとの味を思い出す。

なんでだろう。心が満たされない。

美味しいのに、なんでかな。

寂しいな。

おにぎりを三つ、一人で食べた。


×××


机におにぎりが二つ。

一つ足りない。

私は随分と歳をとった。

それは親も同じで…。

父の手を見るとしわしわで、それを見て涙を流す。

母には恩返しできたかな。

父が作ったおにぎりはあまり美味しくはなかった。

でも一人の時よりずっと美味しく感じたのはなんでかな。


×××


机におにぎり一つ。

どんなに悲しいときにでも、お腹は空く。

それが腹が立つ。私は怒りと悲しみと後悔と絶望と。

いろんな感情で、自分の作ったおにぎりの味はよくわからなかった。


×××


机におにぎり三つ。

私が好きだった味に近づいただろうか。

そんな不安を吹き飛ばす呪文の一言。

「美味しいね。」


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