気付いた時には

チタン

第1話

 遠く水平線に赤灼けた太陽が沈んでいく。


 埠頭公園のこのベンチからは、綺麗な夕焼けが見えるから、以前はよく君と一緒に来ていた。


 僕はベンチに座りながら、ずっと君のことを考えている。

 ああ、どうして、なんでこんなことになったんだ?

 いつから僕らはすれ違ってしまったんだろう?


 いや、分かってるんだ。こうなってしまった原因は全部僕にあるんだから。

 僕はずっと君に寂しい思いをさせてきた。忙しいからと、まあいいかと言い訳して。

 それでも君は僕と会うと、不満も見せずに笑いかけてくれていた。


 だから僕は気づかなかったんだ。


 君から別れを告げられたとき、僕は「なんで?」と言いかけたけど、声には出せなかった。だって思い当たることばかりだったから。


 二人でいると僕ばかり話してしまっていた。

 僕は君の話をちゃんと聞いていただろうか?


 君は僕のために色んなことをしてくれた。

 僕は君に何かしてあげただろうか?


 いつからだろう、君が出会った頃の笑顔を見せなくなっていたのは。

 君が別れを告げる時、涙を浮かべながら微笑んだのを見て、初めて気付いたんだ。君が本当の笑顔を見せなくなっていたのを。

 そんなことすらさっき気づいた僕なんかには、君を引き止める資格は無いのだろう。


 君は「今までありがとう」と言って立ち去った。

 僕は「ありがとう」も「ごめん」も言えずに、ただ君の離れていく後ろ姿を見つめていた。


 刺すような西日が、責めるように僕に降り注いでいる。

 僕はベンチに座って、君のことを考えている。


 君の代わりがいないなんていう当たり前のことを、僕はさっき思い知ったのだ。


 何もかも遅過ぎたんだ、気づいた時には……。

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気付いた時には チタン @buntaito

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