激辛麻婆豆腐
赤赤サササ
激辛麻婆豆腐
「辛っ!」
僕はあまりの辛さに声を出してしまった。
「舌が、舌がまるで鉄板の上で焼かれているように熱い。これ、マジもんにヤバいやつだろ」
僕はこの時少し後悔した。
今日は、休日だ。
「あーなんか辛いもん食いてぇー」
僕の消化器官が辛みを欲していた。
なので、最近超激辛と噂になっている麻婆豆腐を食べに行った。
何故って? 全部食べられたら0円だからだよ。
貧乏人は無料という言葉に目がないのだ。
「おまたせしました。こちら超激辛麻婆豆腐です」
若い女店員に麻婆豆腐を渡された。めっちゃタイプだった。結婚したいくらいに。
てっ! そんなことはどうでもいいわ!
肝心な麻婆豆腐が届いた。女店員からやっと目を離せた僕は改めて麻婆豆腐を見る。
「!?」
これ、ヤバいわ。
ただでさえこの店は辛いメニューが多いのだが、この麻婆豆腐は格が違った。
大きさは直径約二五センチの大きい器だった。中の麻婆豆腐はグツグツと猛烈に泡を出して、血のように赤く染まっていた。これ、食べきれるやついるの。
いや、これを食べきらなきゃ五千円も支払わなくてはならない。食費節約の為に、必ず食べきるぞー!!
と、気合いは入ったものの、
「はぁー、はぁー、はぁー。やっぱり無理だ。食べきれねぇー」
麻婆豆腐はまだ十分の一も減っていなかった。口にしたのは三、四口ほど。
「これは体に悪い。よし、もう諦めて五千円支払うか」
もうこれは無理だ。この挑戦は無駄だったのか。そう思い、椅子から立ち上がろうとする、その時!
「おー、あのお姉さんすげぇー」
「あの激辛麻婆、半分も食い終わってるぞ」
僕は驚愕した。
またしても僕のタイプの、しかもさっきとは別の女が僕と同じ麻婆豆腐を食っていた。
しかも、もう半分も食い終わっている。
その時、僕はこう思った。
こんな若い女性に辛いもの好きの俺が負けていいのか。漢としてどうなのか。良い? いや絶対良くない。
僕は決心した。
「よし、絶対にこの激辛麻婆を食い終わるぞーー!」
そこから僕は四口、五口目と麻婆を巨大スプーンで大量にすくい、まだ辛みが染みる口に恐る恐ると入れた。辛みは全く変わらないが、何故かさっきとは苦しくなかった。
だってライバルがいるんだもの。人間はライバルがいると自然と競い合って頑張ってしまうものなんだ。
僕はさらにスピードを上げ、激辛麻婆を口に運んだ。
時間は二時間。結構長い。だがその分辛みも最大級だ。
今で半分の一時間が過ぎた。量はまだ三分の一しか減っていない。
「どうしようこのままじゃ時間に間に合わない」
僕はさらにスピードを上げた。掬っては、食べる。掬っては、食べるの繰り返しだ。そろそろ味覚にも変化が起きていた。
これ意外にいける。
といっても、辛いという事実は変わらなかった。だが、最初の時の辛さに比べたら断然辛みが抑えられていた。
僕はちらっと隣の女を見たが、女は既にいなかった。
「あれ?」
僕はひゅいっとレジの方を見てみると、
「激辛麻婆豆腐チャレンジはきつかったですか?」
「当たり前でしょ。あんなのできる人なんていないわよ」
さっきの女だ!
あれ? さっきの話を聞いてみるに、この女、まるで激辛麻婆チャレンジを失敗したような感じなんだけど。
僕は一旦食うのをやめ、ライバルの女を見た。すると、
「はっ!?」
女はなんと、五千円を払っていた!
「嘘、あの女でも無理だなんて」
俺は今度こそ諦めた。あの女に無理ならそれ以下の僕には無理だ。
しかし、諦めかけた僕にこんな言葉が上から降ってきた。
麻婆豆腐は飲み物だ
それを見て僕は、
「麻婆豆腐は、飲み物だーーー!!!」
と、叫び、再び麻婆豆腐を食い始めた。
辛い、辛い、けどこんなの飲み物だ。ただの辛い水だ。
僕の手は止まらない。いや止まれない。
止まろうとしても、手は動き続けていた。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」
僕は覚醒したのだ。
周りの皆が注目してる。だがそれ以上に僕は麻婆豆腐に集中していた。
残り三分の一、時間は残り二十分。
皆の「頑張れー」や「いけー」の声援の中、僕はこれ以上にない速さで麻婆豆腐を食い続けていた。
残り十分。大きな壁が僕を困らせた。
「うそ、だろ」
最終兵器、それは残り汁!
今までは豆腐で辛みが抑えられていたが、汁となると、辛みを抑えるものはなく、辛み成分だけが入った毒に化してしまうのだ。
どうする、僕。
そんな僕に、やはりこの言葉が降ってきた。
麻婆豆腐は飲み物だ
そう、残り汁だけとなった今、麻婆豆腐は完全に飲み物になった。
僕は汁が入った大きい器を両手で持った。
そこから、
「うおぉぉぉーー」
器を傾かせ、
「ごくごくごくごく」
残り汁を飲み物ように飲んだ。
熱い、そして辛い。今までに味わったことのない辛さだ。
あれ、何だか視界がぼやけて……。
バタッ。
僕は、その後の記憶を憶えていなかった。
んんんっ……
僕は目を覚ました。
「あれ、僕さっきまで麻婆豆腐食べてなかったっけ」
僕が今いる場所はあの中華料理店じゃなかった。
病院だ。
「おいー、お前よくあの麻婆豆腐を食いきったなあ」
そう話したのは僕の職場の同僚だった。彼とは同じ大学で学年が一緒だった。しかもクラスもいつしょだったため、とても仲が良いのだ。
まあ、年は十個ほど離れているんだけどね。
それにしても、僕、あの激辛麻婆豆腐食いきれたんだな。
「ニュースになってたぞ、お前のこと、激辛麻婆豆腐を食べ、病院搬送って。そんなの滅多に起こらないよな」
え、僕なんで病院送りになってるの?
はっ!
そっか
僕は目がぼやけて、その後意識が遠のいて、あっ! 全部分かった。
「お、ようやく思い出したようかな」
僕は辛いものを取りすぎたせいで胃にダメージを与えたらしい。それにその時僕は、麻婆豆腐のことに集中し過ぎて精神の方も情緒不安定だったらしい。それで倒れたのこと。
「いやーでもそれで死ななくて良かったよ」
「いや、流石に死なないよー。でも食べる前は本当に死ぬかと思ったけどね」
「あははは」
「あははは」
この出来事は今ではただの笑い話になったとさ。
みんな、何事にもやり過ぎには注意しよう
激辛麻婆豆腐 赤赤サササ @rikuto089
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