その後


 とある都市、とある大神殿にて。

 ヴェンツェルは友人から届いた手紙を読み返していた。

 おしまいまで読み終えると、彼は低く呟いた。


「あともう少しだ……」


 手紙をしたためた晩、エリアーシュは殺された。望み通り、少女の身代わりに。

 彼の遺体の周りには、《暗殺者の指》が生えていた。彼の遺体は焼かれ、金色の炎となった。

 エリアーシュの訃報を伝える手紙に、そう書かれていた。



 《獣》は神殿に封じられた後、必ず神官たちに復讐をすると誓った。

 神殿が建てられて数十年が経ち、聖具であるかめこわれた。それにより封印に綻びが生じると、《獣》は村人たちに取り憑き、数世紀かけて風習を変えていった。

 まず、儀式に細工を加えて《獣》への生贄を捧げるようにし、それによって少しずつ力を取り戻した。《獣》は神官たちに加担した人々を許さなかったので、生贄にはその子孫を選び、毒草で燃えるような痛みを味わせた。騒がれては厄介だと思い、はじめは死を予期させないようにしていたが、近頃では事前に徴を与え──例えば家畜を殺す、など──死への恐怖を感じさせて楽しむようになった。

 儀式に疑念を抱く者が現れては困るので、巡礼者たちが多いのも、それはそれで問題だった。折よく別の町に巡礼者が流れるようになったのは好都合だった。

 ある程度回復して力の及ぶ範囲が広くなると、《獣》は人の肉体を乗っ取り、神官たちが最も重要視していた総本山までやってきた。はじめはその地を踏むだけで苦痛に苛まれたが、やがて大神殿にまで入りこめるようになった。

 今や《獣》は人の形をとってヴェンツェルと名乗り、大神官の役を担うまでになった。誰も彼が忌まわしい《獣》だとは気づかない。そして数年に一度、あの神殿に巡礼者を送って生贄を捧げさせているのだ。


 エリアーシュが初めて総本山にやって来た時、《獣》はすぐに彼の中の古い血に気がついた。あの村の古い血は小娘が二人だけで、殺すにはまだ早い──《獣》はこの男を次の生贄にすることに決めた。

 《獣》はことさらにエリアーシュを可愛がり、自分に絶対的な信頼を置くように仕向けた。《獣》はしょっちゅう病に侵されたふりをし、体が弱く巡礼に行くことが叶わないという話に説得力を与えた。

 エリアーシュはどこまでも善良で愚かだった。友の代わりに険しい巡礼の旅路に耐え、少女の代わりに生贄になることも辞さないほど。


 自分の策略が上手く運んだので、《獣》はご満悦だった。

 完全に自由の身になるには、あと何人の生贄が必要だろうか。次の生贄はイレーンという娘に子どもが生まれるまで待つべきだろう。あの神殿を嗅ぎ回っている小僧にはイレーンに惹かれるよう呪いをかけてあるから、そう時間はかからないはずだ。

 自由になった日には──《獣》は甘い想像に酔った──この街は金色の炎に包まれることになるだろう。

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暗殺者の指 f @fawntkyn

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