彼女の望む願い
九里方 兼人
彼女の望む願い
気まぐれで呼び出した悪魔は本物だった。指を鳴らすだけでどんな願いでも108つだけ叶えてくれると言う。
ただし叶えられるのは他人の願いだけ。そして願いの数は変えられない。
まあうまい話は無いという事だろう。
僕には昔から狙っていた彼女がいる。その彼女の願いを叶えてあげればきっと振り向いてくれるはずだ。
僕は彼女に近づいた。
もちろん最初は信じてくれなかったけど、嘘だったら二度と近づかないという条件で聞いてもらえた。
「さあ、何か君の欲しい物を思い浮かべて。浮かべたね?」
僕は指を鳴らす。すると空中からどこかのブランド物のバッグが出てきた。
目をパチクリさせて驚く彼女に僕の心は躍った。
恐る恐る次の要求を出す彼女にも惜しみなく応える。彼女はこれまで見た事もないような笑顔で喜んでくれた。
以後も宝石、車、家、旅行、昇進、人間関係、どんな願いも叶えてあげた。
そしてここからだ。僕は少し望みを叶えるのを渋る。彼女は甘えた声で擦り寄ってきた。
焦らしに焦らして願いを叶える。度が過ぎると彼女は離れてしまうのでほどほどに。
半分ちょっと願いを使った所でついに僕は切り出す。
「僕と、結婚してくれないか」
僕の願いを伝えたのはこれが初めてた。だがこれから立場は逆転する。残りの願いを小出しにして僕の願いを全て叶える。
もう彼女は、僕の力無しでは生きられないはずだ。
彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、もう一つ願いを叶えて。そうしたら……いいよ」
もちろんだ。この力を最後に後は年に一回だ。
さあ、君の願いを思い浮かべてくれ、僕の力はどんな願いでも叶えてくれるんだ。
僕は指を鳴らす。
その瞬間、僕の心臓は止まった。
彼女の望む願い 九里方 兼人 @crikat-kengine
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