EX Story 感謝Episode

※注意

この話はとある事情で、急遽用意させていただいたものになります。

本編のイメージを大きく壊す可能性があるものの、本編とは何の関係もごさいません。

そこをご配慮の上で、ご覧いただきますよう、宜しくお願い致します。


だって、スピンオフを壊すのは、いつだって本編なのだから。


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この話は、私が体験した、少しだけ不思議なお話。

だんだんと、夢と現実の区別がつかなくなってくる。

そんなお話。


いつもの時間、いつもの電車の2両目に私は乗り込んだ。

少しだけ混雑している車内で、いつもの2人を見つける。

「七海、昨日の宿題は大丈夫だったか?」

「う~ん…ちょこ、ちょこ、わからない所があったんだよね…」

「じゃあ、学校着いたら教えてやるよ」

「ほんと!?ありがとう、かんちゃん!」

「馬鹿っ、おいっ、抱き着くなって、電車の中だぞ!?」

その2人は、物凄いバカップルオーラを出していた。


私が土屋君を後押しした翌日、仲良く登校している2人を発見した。

彼が無事に仲直りできて、本当に良かったとその日は思った。

だが、日が経つにつれ、土屋君と椎野さんの距離が少しずつ、着実に縮まっているのがわかった。

そして人目を憚らずに、抱き着き始める椎野さん。

あの子ってあんなキャラだったっけ…?

この前の土屋君の話では、彼女は体が弱く、大人しめな子だと聞いた覚えがある。

きっとあの後、2人は恋仲になったのだろう。

それは見ていてわかる。

だけどあからさまに性格が変わりすぎている気がした。

恋はあそこまで人を変えてしまうのだろうか?と頭の中で考えていると、ふいに横から声が聞こえた。


「あらあら、通勤列車の車内だというのに、凄いカップルがいるのね?」

黒髪を肩まで揃え、まつ毛は長く、顔立ちは整っている。

色白で、背が少し高めな、そんな美人がそこにいた。

「貴方は、あの2人のお知り合いさんかしら?」

「えっ…あっ、あの…」

唐突に声をかけられて、思わず言い淀んでしまった。

「あっ、いきなりごめんなさいね。あの子達をずっと見ていたから、てっきり知り合いなのかなって思っちゃって…」

「い、いえ、大丈夫です。別に、あの2人は知り合いってわけじゃないんですが…」

私と土屋君の関係って何だろう?

友達…なのかな?

私は一方的に土屋君の情報を知っているけど、彼とは1度しか話をしていない。

「あら、そうなの?じゃあ何であなたは…」


「今にも死にそうな顔をしているのかしら?」


「……えっ?」


嘘だ…。

今の私がそんな顔をしているはずがない…。

だって、私は、それをわかっていて、あの人の背中を押したのだから・・・。

「ち、違います!私は、そんな・・・!」

「落ち着いて。今の貴方をそのままにしておけないの。学校へは私が連絡しておくから、ちょっと一緒来てくれるかしら?」

私は何も言い返すことができなかった・・・。

まるで、あの時の・・・。

そう、土屋君に助けられた、あの時のように・・・。



私が成すがままに連れて来られたのは、なんと北高の保健室だった。

あの後、どんな風にここまで来たのか、はっきりと覚えていない。

それ程までに、彼女から言われた一言がショックで仕方なかった。

そんな私は今、ベッドに腰掛けている。

「さて、自己紹介が遅れたわね。私は此見。ここで養護教諭をしているの」

「あの・・・私は・・・「坂下季帆さん、よね?」」

「えっ・・・」

名前を名乗った覚えはない。

だけど、間違いなく、此見と名乗った女性は、私の名前に確信を持っている。

それだけではない。

「貴方は今から約1ヶ月前、ここから遠方で自殺をしようとして、電車に座っていた所、偶然にも土屋君に声を掛けられ、自殺を踏みとどまった。そして、その恩を彼に返そうとするためだけに、彼のストーカーとなり、幼馴染の椎野さんと仲違いをして落ち込んでいる彼に声を掛け、その背中を押して、仲直りをさせることに成功した・・・」

冷や汗が止まらなかった。

私が自殺をしようとしていたことは、誰にも公言していない。

ましてや、その後の出来事など、知っているのは私と土屋君だけのはずだ。

初対面である彼女が知っているはずがない。

「なん・・・で・・・」

「私が何でその事を知っているのか、そんなことはどうでもいいの。今の貴方が幸せになれていないということの方が問題なのよ」

彼女は何の問題もないように話しているが、わたしにとっては大問題だ。

土屋君の目の前で「貴方のストーカーです」と言っていた私が言えることではないかもしれないが、彼女はそのレベルを遥かに超えている。

個人情報どころか、彼女に隠し事は一切通用しないということが、嫌でもわかってしまったのだから。

「貴方は間違いなく、無意識に、土屋君に恋をしていた。背中を押した時の貴方は、それを自覚していなかった」

「......」

違う。

否定したかった。

でも、できなかった。

彼の背中を押した日、遠ざかっていく彼の背中を見て、彼の名前を叫びたくなってしまった。

追いかけたくなってしまった。

自覚してしまった。

でも、それをすると、彼は、彼女は、きっと不幸になってしまうから。

それを口にすることすら諦めて、この気持ちに蓋をした。

気づかれないように。

気づかないふりをして。

だけど、こんなに早く、しかも初対面の人にばれるとは思わなかった。

「だったら、だったら、何だって言うんですか!土屋君はもう、椎野さんと付き合い始めました!私はこの気持ちを、吐き出す機会すらないっていうのに!」

私は柄にもなく叫んでしまった。

全てを見透かされているなら、隠しようがないと思ったから。

どうしようもない、この気持ちを、押さえることができなかった。

「機会が必要なら、私が作ってあげるわ」

「そんなこと...!」

できるはずがない。

私の気持ちなんかどうでもいい。

土屋君に迷惑をかけるくらいなら、本当に死んでしまった方が...。

「なら、問題ないわね?」

そう言うと、彼女は左手で私の目を覆う。

そして、私の耳元で、こう囁いた。

「私はこう見えて、世界的に有名な心理学者で、作家なのよ?」

世界的に...有名な...心理学者で作家...?

私も知ってる...そんなの...知らないはずがない...。

「嘘...貴方が...Eco...nomy...先生...?」

「そう、私は此見えこ。海外では「Eko Konomi」を繋げられちゃって、「Economy」なんて呼ばれちゃってるけど。気に入ったから、そのままペンネームにしちゃったの」

段々と眠気が強くなっていく。

身体中の力を入れることができない。

「貴方にとって、この世界は辛すぎる。大丈夫よ、貴方の舞台は、私が作ってあげるわ」

視界が真っ白に染まっていく。

私の意識はそこで途絶えた。



目が覚めると、私は電車の中にいた。

何をしていたのか、何をしようとしていたのか、うまく思い出せない。

ああ...そうだ...。

私は...今から...。

この、どうしようもない世界に、お別れを告げに行くんだった...。

いつも降りる駅を過ぎれば私は…。

「……あの、降りなくていいんですか?」

「えっ……?」

そこに立っていたのは、私と同じ駅で降りるはずの、北高の制服を着た男子生徒だった。

この感覚、何故だろう…。

私はこの感覚を知っているような気がする…。

だけど、思い出せない…。

それでも、私の直感だけが、そう告げている。


――そうだ、これが、きっと、私の…。


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物語を、貴方へお返しします。

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「きみが明日も生きてくれますように。」スピンオフ・七海編 麗羽 @silver_reiha79

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