煙草

ピピピピピピピピピピ


鳴り響くアラームの音。

当てもなくさまよっていたあの世界から強制的に現実に引き戻される。

まだ思考がおぼつかない


「おはよ」


吐息交じりのかすれた声が僕の耳元でそうつぶやく。

彼女の甘い声が機能しかけている僕の前頭葉に幸せを流し込む。


ほんのりと暖かさが残る布団を彼女が抜け出すと同時に冷たい朝の風が流れ込む。

おもわず僕は縮こまり、わずかに残る彼女のぬくもりにしがみついた


何分かたったのだろうか。香ばしく焼けたトーストのにおいを頼りに僕は布団を出た。


乾ききった煙草に火を灯す。勢いよく吸った煙は喉を通り、肺を通り、僕の体の一部となる。幸せを感じさせる彼女の笑顔に頭がくらりとした。

少し焦げ付いたトースターをひとちぎり放り込み思いっきりコーヒーを流し込む。いまだになれない苦みの中に少しだけ甘さが残る。


煙草の白い煙は彼女のもとへと見みちびかれていく。

朝日に照らされた白煙は彼女の影を残す。

光に移るその影が消えないうちにと手繰り寄せ、手繰り寄せ、そして抱きしめた。


よほど怖い夢を見たのだろうか。ゆらゆらと白煙を炊き続ける煙草をよそに僕は強く彼女を抱きしめていた。


困惑しながら、でも少しうれしそうにはにかんだ彼女は

「もう行くね。遅刻しちゃう」

そう言い残しあわただしく家を後にした。


一人になった僕は孤独感とじわじわとした幸福感、そして焦燥感に包まれていた。

八割くらいにしか減っていなかった煙草は残りの半分以上が灰になっていた。


惰性でしかい聞いていなかったテレビの音がふと耳に入ってきた。

聞き覚えのある名前だ。

ふとテレビに目をやる。


「交差点で交通事故 意識不明の重体」


途端に脳裏に今までの思い出がフラッシュバックする。

膝から崩れ落ちた僕の足元は涙でぬれていた。



投げ捨てられた煙草から出る煙はもうなく、だんだんと暖かみを無くしていく灰だけが床を汚していた。

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煙草 ピッピ @pippi2003

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