第4話 音の聞こえる場所

 家を出た真はいつものように近所のコンビニへ立ち寄る。昨日食べれなかったハムレタスのサンドイッチを今日こそ食べたい。サンドイッチの棚に目をやると、今日もハムレタスのサンドイッチは無かった。今日もないのか〜!ついてねーな俺。ふぅーっ小さなため息を吐き、残念そうに他の何か……と歩きだそうとした瞬間だった。


 カシャッ!


 また音がした。なんの音だ?この音、凄い俺の近くで鳴ってるように聞こえるな。そう思った真はキョロキョロと周りを見渡す。朝のコンビニには数人の客は居たが、その時真の側には誰も居なかった。何だか不安になる……まるでカメラのシャッター音のような音が自分の側で聞こえる不安。……盗撮?いやいや、俺はそんなにモテないし、悪さもしていない。そんな不安な気持ちになった真は、コンビニの中で真顔で立ち止まって考え込んでしまった。


 カシャッ!


 また音がした。一体何なんだこの音……心臓の鼓動が早くなる。ドクンドクンドクンッ……こんな短時間に不穏な音が聞こえてくる事に不安を覚えた。……恐る恐る音がした方を見る。自分の胸の辺りから音がした気がしていた。スマホはカバンの中にある。この日の真の服装はスーツ姿にマフラー。スーツの胸ポケットには何も無かった。立ち止まったまま、じっと自分の胸を見下ろしている真。すると昨日と同じ店員が声を掛けてきた。

「あの……どうかなさいましたか?大丈夫ですか?」

「あっ……!すみません大丈夫です」

 ハッと我に返った真は、その店員にうっすら笑顔を浮かべて、目の前にあった商品を見もせずに掴み取り、足早にレジに向かった。


 会社に着いても真は考えていた。自分のデスクに座って右ひじをつき、まだ電源の入っていないパソコンに向かってただ、顔を強ばらせた。なんの音が分かればな。と音の正体が気になって仕方がなかった。そんな真に同僚の修哉が声をかけてきた。

「おす!なんだよ、具合悪いのか?」

「おーおはよっす!何かボーとしてたわ」

 笑って返した。何だかよく分からないし、まぁ気のせいって事で忘れよ。そう真は切り替えて仕事モードの自分を作り出した。


 そして昼休み。修哉が真をランチに誘ってきた。会社を出てランチに行こうとした時だった。

「おい真!ちょっといいか?」

 声を掛けてきたのは上司の齋藤係長。

「お前、田中の面倒少し見てやれ。アイツ、営業先からクレームきてたぞ?」

 田中は今年入社した新入社員。仕事が出来ない訳ではないが、プライドが高く、あまり人の言うことを聞かない。真は半年間、田中の新人担当として仕事を教えていたが、この頃の田中は一人でもこなせるようになっていた。真は田中が自ら尋ねる時のみ、相談に乗ったりしていた。

「田中は自分のミスを認めないから、お前のせいになるからな?頼むぞ?」

 齋藤係長はそう言い残して立ち去った。隣に一緒に居た修哉が、真の肩をぽんと叩いて励ました。

「はー田中か……」

 真は修哉に少し笑みを浮かべながら答えた。こちらから言うと素直に聞かない部下の田中。真は田中に対して、自分から注意するのが苦手だ。はぁ〜……と小さくため息をついた瞬間だった。


 カシャッ!


 身体がビクっとなった。またあの音だ。また胸の辺りから聞こえた。過去に数回聞こえた時は一人だったが、今は隣に修哉がいる。真は軽く修哉に聞いてみる。

「修哉、今何か写真撮った?」

「は?今からランチ行くんだろ?スマホいじってねーよ?」

「じゃあ、今写真撮った音したよな?」

「いや?なんも?早く行こーぜ飯!」


 修哉はきょとんとした顔をしていた。……修哉には聞こえていない。でもまた気のせいって事も……でもこう何回もあると気持ち悪いな。色々な思いもよぎったが、短いランチタイムだ、早く行こう、と気持ちを切り替えた。














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