第3話 マイナスポイント

 キッチンにストックしておいた割り箸を出し、買ってきたばかりのコンビニのお弁当を三分レンジで温める。待っている間、軽くスクワットをする。日々の運動不足の解消と称してレンジの前での恒例行事になっていた。食事が終わって、シャワーを浴び、テレビを観ながらソファーに座ると突然睡魔が襲ってきた。ウトウト……そのまますぅ……っと眠りに落ちてしまった。


 はっ!真が目を覚ました。何故か心臓が激しく動いている。バクバクバク……静止した真の体は動かない。ゆっくりと首を左右に回して周りを見渡す。特に変わった様子はない。時計が目に入った。時刻は午前一時半を少し回った頃。なんだ……この動悸は。額に汗もかいている。その額の汗を拭おうと右手を頭に向けた時だった。カサッ……!何かを右手の中に握りしめている。ソファーに座る時、何も持ってなかったよな?と思い返した。その紙は、A4サイズの紙を折り曲げた大きさ。なんだこれ?そう思いながらその紙を開いた。……何か沢山文字が書いてある。


『マイナスポイントの世界へようこそ』

貴方が心に傷を負う度にポイントが加算されます。どうぞ、沢山傷を負ってください。その度に貴方は潤っていけるのです。ただ、普通に生活しているだけでいいのです。

……貴方の幸運を祈ります。


 そんな文章が書かれていた。何だこれ。まず、何でこんなもの握りしめてんだ俺は。コンビニの袋にでも入ってたのかもな。そんな軽い思いでその紙をゴミ箱に投げ入れた。明日も仕事がある真はそのままベットに向かった。


 ガラガラガラッ……ガシャン!いつものように隣の雨戸を開ける音で目が覚める。眠い目を開けてスマホの時計を見ると時刻は五時半。……今日いつもより早すぎたろ……起きちゃったじゃん、はぁ〜かなり眠いわ。少しイラつきを覚えたが、二度寝すると遅刻しそうだと、真は体を起こしたその瞬間。


 ——カシャッ!


 何か音がした。カメラのシャッター音のような音が。起き上がった時に間違ってスマホの画面を触ったと思った真は、思わずスマホに目を向けた。画面は普通の待ち受け画面。隣の人の何かの音かね?そう思いながら気にする事なくいつもの朝のルーティンに入った。

 シャワーを浴びてコーヒーメーカーで作ったコーヒーを飲む。着替えをして準備が終わった。さぁ今日も行きますか。と家のドアを開けようとした時だった。何か会話が聞こえる。


「……!」「…………!」

 そろっとドアを押し開けてドアの隙間からキョロキョロしてみると、隣の住人が2人何か話している。

「お母さん雨戸あんまり早くあげんの止めてよー!まだ寝れんのに起きちゃうじゃん!」

「朝なんだから仕方ないでしょ!いいから早く行きなさいよ、あんた、遅刻多いんだから!気をつけてね〜!」

 母親と高校生の娘が朝から玄関先で、なかなかのボリュームで喧嘩するかのような大声で話していた。朝から近所迷惑なんですけど……と、家を出るに出られないと思った真は、娘が歩き去るのを待ってドアを開けようと思い、はぁっとため息をついた時だった。


 ——カシャッ!


 またカメラのシャッター音のような音がした。真は思わずキョロキョロと周りを見渡した。どこかで誰かが写真を撮ったのか?と感じて見るが、真はまだ玄関の中。さっきもしたよなこの音。と、何か不思議な感じがしながらも親子が居なくなった瞬間を見て家を出た。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る