第4話 お嬢様、推しに課金したい
「イルワーク、私やってみたいことがあるの」
「承りましょう」
「あなた、『推し』って言葉を知っているかしら」
「もちろんでございます。ちなみに私の推しは『DIY48』の『牧田ドリル』ちゃんでございます」
「あなたの推しは聞いていないわ」
「申し訳ございません」
「でも、参考のために聞かせてほしいのだけど、その『推し』という存在に対して、あなたは何をどうするのかしら」
「何をどうする……でございますか? 普通に課金しておりますけど」
「それよ。私が仕入れた情報によると、その『推し』というものに『課金』をすることが流行っているらしいわね。私、その『推し』に『課金』というのをやってみたいの」
「成る程……。ていうか、お嬢様」
「何かしら」
「お嬢様はそもそもスマートフォンをお持ちではありませんよね」
「そうよ。お父様がまだ早いって。常にあなたがそばにいてくれるし」
「はい、そのために私はスマホを所持しております」
「まさかそのスマホでゲームに興じているとは思わなかったけれど」
「申し訳ございません」
「さて」
「はい」
「その『牧田ドリル』ちゃんのお話を聞かせてほしいんだけど」
「はい」
「『課金』をすることによって何がどう変化するのかしら」
「まず、この『DIY48』ですが、これはスマホゲーム『Do It Yourself!』に出てくる工具っ
「その辺はどうでも良いわ」
「申し訳ございません。ええと、このゲームに限ったお話をさせていただきますと……。まずはこちら、無課金状態の『牧田ドリル』ちゃんです」
「どこにでもいる庶民の女の子ね。セーラー服を着ていて可愛いわ」
「無課金状態ですと、この『牧田ドリル』ちゃんはこの基本コスチュームのままですが、課金致しますと――ポチっとな」
「あら、素敵な緑色のドレスになったわね」
「これは『牧田ドリル』ちゃんのAランク装備で、防御力が大幅にアップします。そしてさらに――ポチ」
「まぁ、何やら素敵なバッグを装着したわ」
「これはリチウムバッテリー・バッグと言いまして、工具っ娘の体力が倍になるアイテムなのです。さらに――ポチ」
「まぁ、何だかオシャレな髪飾りね」
「これはホールソー・カチューシャですね。こちらは攻撃力アップのアイテムです」
「成る程、課金をするとこの『牧田ドリル』ちゃんがさらに可愛く、そしてパワーアップするのね」
「このゲームに限って言えば、そうでございます。無課金でも長く続けていけばある程度強くはなるのですが、課金の方が手っ取り早いですし、何より無課金状態ではここまで強くはなりません」
「成る程ねぇ」
「しかしお嬢様」
「何かしら」
「旦那様からスマホ所持の許可は得られたのでしょうか」
「それがまだなの。私にはまだ早い、って」
「ということは、推しに課金が出来ませんね」
「そうなのよ。万策尽きたわ」
「いえ、ご安心くださいお嬢様」
「秘策があるの、イルワーク?」
「『推し』というのは何もゲームの中だけに
「詳しく聞かせてちょうだい」
「私の『推し』を聞かれたものですからついついスマホゲームの話をしてしまいましたが、そもそも『推し』とは推薦する、人に薦めるといった意味でございますから、他の人に薦めたいほど好いている人物であれば良いのです」
「成る程」
「ですので、例えば、実在する俳優や、アニメキャラクターなどでも良いのです」
「成る程、それなら私にも推せそうだわ。ちなみにこの場合、『課金』はどうすれば良いのかしら」
「そのコンテンツにもよりますが、例えば、原作本の購入であるとか、公式グッズというものがございます」
「成る程。彼・彼女らの売り上げに結び付けば良い、というわけね」
「その通りでございます。ですので、古書店の中古本ですとか、ネットオークションで購入する、というやり方ではいけません。正規のルートで、正規の価格で購入することが重要です」
「勉強になったわ」
「じゃあ、そろそろ何を推すかを決めなくてはならないわね」
「そうですね」
「しかし、この膨大なコンテンツの中から探すのは大変だわ」
「中には現在供給のストップしているものもございますので、お気を付けください」
「とすると、無難に人気作を選べば良いのかしら」
「確かにそれは無難な選択でございます」
「けれど、人気作ということは、私の力を借りずとも既にたくさんの人から課金されているのではないかしら」
「その通りでございます」
「困ったわ……」
「供給が簡単に絶たれず、且つ、あまり注目されていないコンテンツとなりますと……」
「そうだわ!」
「見つかりましたか、お嬢様。さすがでございます」
「イルワーク、あなたよ!」
「……はい?」
「私、あなたを『推す』ことにするわ!」
「……おっしゃっている意味がよく……」
「私これからあなたにもりもり課金するわ!」
「えっ……?」
「イルワーク、どうかしら」
「お嬢様の『課金』とても重とうございます」
「でもよく似合っているわよ」
「もったいないお言葉でございます」
「次はこれを『課金』するわね」
「うぐぐ。お嬢様、そろそろ限界が近づいてきたようでございます」
「あら? こんなもんなの? まぁ仕方がないわね。どう? 強くなったかしら?」
「純金のスーツに純金の蝶ネクタイ、純金の靴と、純金の時計。最後にいただきました純金フレームの眼鏡で現在私の総重量は軽く100㎏を超えてしまいました。私、ここから一歩も動ける気が致しません」
「あらあら、困ったわね」
「お嬢様、私を推してくださるそのお気持ちはありがたいのですが、これではお嬢様の身に何かあった時に動けません」
「そうなの? でも大丈夫よ」
「何を根拠に」
「男性は、ベッドに飛び込む時なんかにこう、すぽん! って服を脱いで下着一枚の姿になれるものなのでしょう?」
「……お嬢様、私の私室に忍び込んで日本のアニメをご覧になりましたね?」
「マデリーンが教えてくれたの」
「またマデリーンメイド長ですか、あの野郎」
「そして、とにかく重い服を脱いだら、戦闘力がぐぐっと上がるのよね?」
「……先日から私の愛読する少年漫画がごそっと本棚から消えていたのですが、犯人がわかりました」
「日本語の勉強よ」
「勉強なら仕方がありませんね」
「時にお嬢様」
「何かしら」
「もう脱いでもよろしいでしょうか」
「仕方がないわね。それを脱いだら次は純金で作った鎧を着てもらうわ」
「それはちなみに鎧ではなく――」
「間違えたわ。
「やっぱり。私のフィギュアコレクションが数点行方不明になっていたのはそういうわけだったのですね」
「私じゃないわ。マデリーンよ」
「あの野郎」
アデレナお嬢様はさらにやってみたい 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa
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