第3話 お嬢様、通販番組で売る
「イルワーク、私やってみたいことがあるの」
「承りましょう」
「サァサァミナサンオタチアイイイ!!!」
「……突然どうなさいました、お嬢様?」
「イマナラコチラノショウヒン、キンリハスベテ『チャチャネット』フタンデ!!」
「お嬢様? お嬢様?」
「オペレーターヲサンジュップンフヤシテオマチシテオリマス!!」
「お嬢様?!」
「どうだった?」
「どうだった、と言いますと?」
「買いたくなったでしょう?」
「ええと、その肝心の商品とやらを聞き逃してしまったようでして……」
「まぁ、なんてこと」
「お嬢様、少々早口が過ぎるのでは」
「おかしいわね、私が調べたところによると、この手の番組はとにかく早口でまくし立てるものだったと思うのだけど」
「この手の番組、と言いますと――」
「通販番組よ! 私、通販番組でものを売ってみたいの!」
「何と、お嬢様が販売に興味を持たれるとは!」
「どうやらいまはその会社の社長が自ら出演するのがトレンドらしいわ」
「何と、トップが自ら、でございますか。その姿勢、大変素晴らしゅうございます」
「そうでしょう。売り上げの全責任を負うのだという気概が否応なしにも伝わって来るわね。だから私自らが番組に出演して商品を売りまくってやろうという算段よ」
「何という経営者の鑑でしょうか。お嬢様なんと立派になられて……後光が差しておられま――違いますね。お嬢様、ちょっとそちらの人工的な後光、どうなっているのでしょう」
「どうなってるって、何のことかしら」
「そろそろお嬢様の姿をとらえるのが難しくなってきたのですが。これ、何ルクスございます?」
「最大出力でざっと100000ルクスってところかしら」
「ほぼ直射日光ではありませんか」
「女優ライトよ」
「だとしたら向きが逆でございますし、これをまともに食らったら目がやられます。おやめください、直ちに」
「仕方がないわね」
「さて、そういうわけだから、私、通販番組をやろうと思うの」
「『アデレナ3分クッキング』に続く番組シリーズ第2弾というわけですね」
「そうよ。番組名は『チャチャネットタッタカタ♪ テレビショッピング』よ」
「かしこまりました。では、お嬢様、私はスタジオの設営の他に何をすればよろしいでしょうか」
「むろん、アシスタントよ」
「かしこまりました。てっきり増員されたテレフォンオペレーター役かと思っておりましたが」
「そうは問屋が卸さないのよ」
「そのようでございますね」
チャッ、チャネット♪ チャチャネット♪
チャッチャーネット♪ チャチャネット♪
チャッ、チャネット♪ チャチャネット♪
チャッチャーネット♪ タッタカタ~~♪
「『チャチャネットタッタカタ♪ テレビショッピング』のお時間でございます。社長、本日の商品は?」
「本日ご紹介するのはこちらの商品! 暗いところでもばっちり見えちゃうライト付き眼鏡型拡大鏡、その名も『奥さん、あんなところもこんなところもばっちり見えちゃいますよ君』!」
「お嬢様、ちょっとカメラを止めてもよろしいでしょうか」
「何かしら」
「そのネーミングはいかがなものかと」
「あら? 何かおかしい? 30分という短い時間の中で商品をアピールするためには名前にインパクトがあった方が良いと思ったんだけど」
「いまのところ、インパクトしか確認されておりません」
「じゃあ狙い通りね」
「そのようでございますね。ただ、受け取る側の精神状態によっては少々卑猥な印象を与えかねないかと」
「まぁ、この程度の言葉を卑猥に受け取るなんて、世も末ね」
「現代社会の闇でございます」
「仕方がないから第二案の方の『アデレナびっくり拡大鏡』の方にするわ。もうばっちり見えちゃってこの私ですらびっくりする、という意味よ」
「そちらの方がすっきりしていてよろしいかと」
「わかったわ。じゃ、続きから始めるわよ」
「かしこまりました」
「さて社長、こちらの『アデレナびっくり拡大鏡』の説明をお願いいたします」
「はい、皆さん、スマートフォンでWEB小説を読んでいる時、字が小さくて読みにくいなぁって思うこと、ありませんか?」
「ありますねぇ。それ以外にも、新聞や文庫本なんかもそうですし、手芸やネイルアートなどなど細かい作業って、年々しづらくなるんですよねぇ」
「そうでしょう、だけど、ルーペだと片手がふさがってしまいますし」
「そうなんです。それにちょっとオシャレじゃない、というか……」
「そこでこの『アデレナびっくり拡大鏡』なのです。眼鏡型ですので、両手が使えるんです」
「デザインもオシャレですね」
「若い方にも使えるよう、カラー、デザインは30種類ご用意致しました。シックなモノトーンに、ポップなキャンディカラー、スタイリッシュなメタルフレームと、フレームが気にならないノンフレームタイプ。そしてレンズは紫外線やブルーライトをカットする特殊レンズを採用。あなたの目を守ります」
「これなら長時間のパソコン作業やスマホゲームでも目に優しいですね」
「そうなんです。さらにLEDライトもついていますから、夜、暗いところでもばっちり見えちゃうんです」
「わぁ、とても明るいですね。これなら薄暗い寝室でも読書が出来ますね」
「そうなんです。このLEDライトはボタン電池を使用しており、取り外しも可能となっています。今回はこの『アデレナびっくり拡大鏡』を、なんと拡大率の異なるものをもう一つお付けして――」
「ええっ?! 2本ですか、社長?!」
「そうです。それから、専用のケースと――」
「さらにケースまで?!」
「そしてそして、いまから30分以内にお申込みいただきますと、こちら、オプションパーツと致しまして、通常のLEDの100倍の明るさのLEDライトを――」
「お嬢様、ちょっとカメラを止めてもよろしいでしょうか」
「何かしら」
「通常のLEDもかなり明るかったんですけど」
「そうね。通常のLEDは1000ルクスにしたわ。停電時でも針に糸を通せるわよ」
「そんな非常事態に針に糸を通す作業って必要でしょうか。しかし、1000ルクスの100倍というと――」
「ざっと100000ルクスかしら」
「ですからそれはほぼほぼ直射日光でございます。おやめください、直ちに」
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