最終話二人の絆は永遠に

(遥)

アリエル祭のメインイベント、競技大会が終わってしまいました。

わたくしは時折モニターに映るお姉様しか見ることができませんでした。

騎士のお姉様方の戦いはとても素晴らしかったです。

わたくしは以前のお姉様と一緒に観戦した練習試合を思い出します。

お姉様はわたくしにいろいろ技を教えてくださいました。

「お姉様・・・会いたいですわ・・・」

後夜祭になってしまいました。

私は居場所がなく、しかたなく図書館にきました。

好きでもない詩集のページをめくります。

「お姉様は・・・ラノベなんて・・・読みませんわ・・・」

新刊で入った、読んでいたシリーズ・・・続きが気になりますけれど。

いっそのこと、クラスの方をお誘いして後夜祭のダンスに参加するべきだったでしょうか。

お姉様は今頃円香お姉様と踊っている頃でしょうか。

「・・・・意気地なしですわ」

周囲に誰もいないことを確認して、ぶつぶつつぶやきながら読んでもいないページをめくります。

・・・・お姉様。

「来てくれるわけ・・・ないですわ」

わかっています。

避けられています。

「くすっ・・・当然ですわね・・・」

虚ろに微笑むことしかできませんでした。

きっと、この笑みもお姉様から見たら不気味に見えるんでしょうね。

・・・もう、本当に終わりなのでしょうか。

わたくしは、何もかもなくしてしまったのでしょうか。

一体・・・どこで間違えてしまったのでしょう。

「もう、何もかも忘れて・・・」

この学園もやめて、実家に帰りましょうか。

・・・きっと、両親だけはお人形に戻ったこのわたくしを喜んでくださるでしょう。

そんなことを思って、早速連絡しようとスマホを取り出すとーー

「え・・・、あ・・・?」

誰からなのかメールの着信が鳴りました。

「・・・天音お姉様、から?」


(葵)

「・・・よし、準備は万端です」

後夜祭の今、使ってない体育館に着替えを済ませて入ってくる。

今のこの時間は私の貸し切りにしてもらった。

・・・なので大丈夫。天音さん達以外は誰もいないから恥ずかしくない。

「あの、天音さん、結衣さん・・・どうでしょう?」

「どう・・・と言われても・・・似合っている?かしら」

何故に疑問形?

「何言ってるんですか?お似合いですよ?可愛いです!」

「可愛くちゃ駄目なんですけど・・・」

「なら、びっくりするくらい似合ってないわ」

「ええー・・・」

「まあ・・・衣装そのものの雰囲気を狙ってらっしゃるなら、全然それっぽくはないですね」

「そ、そこはこれから覚醒するところですので・・・」

「こんなので、本当に大丈夫なの?」

「が、がんばります。それに、失敗しても私が恥ずかしいだけですから」

「成功しても恥ずかしいのでは?」

「目的を達成できるなら、どうでもいいです!」

「愛ですねぇ」

などと話している間にも。

「あ、円香さんからメールきました!遥さん図書館を出たそうです!」

偵察に行ってくれていた円香さんから待っていた報告のメールが届く。

「至急で呼び出したから、すぐに来ると思うわ」

「なら・・・そろそろスタンバイですね」

大きく深呼吸をして、覚悟を決める。

「天音さんは照明を、結衣さんは煙幕装置をお願いします。せっかくのアリエル祭、こんなことに巻き込んですみません」

「いえ、意外と楽しいですから、構いません♪」

「私もよ・・・頑張って!」

「はいっ!」

優しく微笑みかけられて、大きく頷いた。

「遥さん、喜んでくださるといいですねっ」

「大丈夫だと思うわ。あの子、なんだかんだでこういうの大好きだもの」

「・・・では、舞台に行きます」

「裏方はお任せくださいっ」

うなづきあって、私達はそれぞれの持ち場に移動した。

・・・便利なことに、電動で窓の暗幕が閉じる。

体育館の中が、非常灯だけの真っ暗な空間になる。

そうして、待つことしばしーー

重たい鉄扉が開いて小さな人影が入ってくる。

「あのぉ・・・天音お姉様?な、何故真っ暗なんでしょう?すみません、誰かいらっしゃいませんか?」

天音さんに呼び出された遥さんがキョロキョロと辺りを見ながら戸惑っている。

「あら・・・?舞台のほうで・・・なにか」

どうやら、私の気配に気づいた様子。

「どなたか、いらっしゃいますの?」

ちょっぴり不安そうに、一歩、二歩と近づいてくる。

・・・さあ、いよいよだ。

本当にこんなことで解決なんてするのか、正直自信はない。

ドン引きされたら、恥ずかしいだけの黒歴史になる。

ーーでも、それでもいいのだろう。

だって、今の私が求めるのも、恥ずかしいだけの黒歴史なのだから。

「すみません、これって一体?」

そして、決めてあったラインをーー彼女は踏み越えた。

パっと照明が私にあたり、足元から煙幕が現れ、真っ黒な衣装に身を包んだ私はポーズを決める。

「ククク・・・ハハハハ!!よくぞここまで辿り着いた!堕天使ミハエルよ!!」

「ふにゃっ!?え、ええっ!?」

「ようこそ、我が王座へ。そなたならば、いずれ馳せ参じると信じておったぞ!」

「も、もしかしなくても・・・お姉様ですの?」

「愚か者がっ!!我はそなたの姉などではない!」

私は、舞台の上からの遥さんを見下ろす。

堂々と、胸を張って、嫌味なくらい偉そうに。

「我が名は暗黒神アオイ!!千年の眠りを経て、今こそ目覚めの時を迎えた・・・!」

「え・・・、えっと?暗黒神・・・って」

ぽかんとした様子で見上げてくる遥さん。

一瞬、恥ずかしいって気持ちがこみ上げるけどーー今更だ。

「フハハハハハハ!!!左様!そなたらの求め、聞き入れるとしよう!我は今こそ、この場に降臨せり!!四天王が一人、堕天使ミハエルよ!我に従え!今こそ明かそうーー我こそがそなたの主であるぞ!!!」

もう開き直って、ノリノリで『覚醒』を宣言した。

「暗黒神・・・降臨・・・」

「クク・・・覚えているぞ?覚醒前とはいえ、この我を従えようとしていたこと・・・。知らぬこと、などと言い訳は通用せぬぞ?フハハハハハハ!四天王?笑止千万!!我こそが全ての悪の頂点!暗黒神だというのになァっ!?」

「〜〜〜〜っ!か、カッコいいのですっ!」

ーーよし、きた!心の中でガッツポーズを決めた。

「フッ・・・我がカッコいい・・・?そんなことは当然であろうっ!」

どうしよう、気持ちよくなってきた。

『可愛い』ではなく『カッコいい』と言われることがこんなにも快感だなんて。

・・・・ああ、やっぱり僕は男の子だ!

「ああ・・・暗黒神様ぁ・・・♪」

「フフ・・・だがそのような美辞麗句で過去の罪が償えるとでも思ったかっ!」

「つ、罪と仰いますと・・・?」

「我を下僕扱いしたであろうが。

愛玩動物と言い切ったこともあったなァ?」

「あ、あ・・・申し訳ありません暗黒神様っ!」

「まぁよい・・・過去の罪は一旦保留としておこう。

我が傘下に加わるのであればな・・・!」

「そんなの、当然なのですっ・・・!暗黒神様の復活は、我らが四天王の悲願っ!」

「よかろう・・・しかし、我が暗黒の波動は流石であるな。こうも簡単に干渉できるとはな・・・ククク」

「干渉・・・と申されますと?」

「そなた・・・真の力を取り戻しつつあるだろう?」

「へっ・・・?」

私の指摘を受けて、遥さんが目を丸くする。

「全てを思い出すのだ、堕天使ミハエル・・・!」

「あ・・・あ・・・」

ちょっと混乱した様子で、自分のほっぺたをつまんだりしてあたふたする遥さん。

我に返ってしまったらしく、大きく深呼吸をして。

「・・・これは、何の御芝居ですの?」

しとやかな笑みを貼り付けて、お嬢様に戻ってしまった。

「クク・・・未だ天使共の洗脳が抜けておらぬようだ。だが、そろそろ頃合いであるぞ?目覚めよ堕天使ミハエルッ!!」

「お姉様・・・恥ずかしくないんですの?」

「恥ずかしい・・・?恥ずかしいだと?そなたはそう尋ねたのか?小さきものよ・・・!」

「はい・・・お尋ねしましたわ」

「恥じらいなど・・・!!!

初めてスカートを履いたあの日に捨て去ったわ!!!」

一条葵ーーこれだけは魂の底から叫ばせていただいた。

「あの日の屈辱に比べればっ!むしろ今の我は最高だっ!カッコいい・・・!可愛いなどと言われたくなかった!!」

「な、何も言えませんわっ・・・」

「だが、そんな我に比べて・・・今のそなたはどうだ?忌むべき姿ではなかったのかッ!己に満足していると断言できるのかっ!」

「それは・・・」

遥さんは、言葉に詰まっている。

揺れる瞳が、明らかに不安に満ちていく。

「・・・それでも、これでいいんですの」

剥れかけた笑顔を、もう一度貼り付ける。

お嬢様としての遥さんが、抵抗を続ける。

「お姉様も、わたくしと一緒に大人になりましょう・・・?くだらない演技はもうおしまいですわ」

「笑止ッ!!!」

私は、遥さんの言葉を鼻で笑いとばした。

「愚か者がっ!!今のそなたが演技をしておらぬとでも?かつて自ら否定した、滑稽な芝居に過ぎぬではないかッ!!」

「そ・・・それは・・・」

「否と申すなら、心から誓って宣言してみせよ!今のそなたが、真実の皆本遥であるとなッ!」

「い・・・今の・・・わたくし・・・が」

「声が小さいぞォ?ああん?」

「・・・どうしろと、仰るのですの」

「どうもこうもあるまい!我は今のそなたを否定するのみ!!!」

「ぐすっ・・・、そんなこと、言われても・・・」

悪しき暗黒神に虐められ、遥さんはじわりと涙ぐむ。

「もう、わからないです・・・わからない・・・。はるかっ、自分がどんな人なのか!わかんないもんっ!」

ーーようやく、本音が聞けた気がした。

だから、私は一旦『暗黒神』を中断して・・・遥さんに向き直った。

「しょうがない人ですね・・・遥さんは」

「ぐすっ・・・お姉様ぁ・・・」

きっと、この人は小さい頃から演技ばかりしていて、それが日常だったから・・・混乱しているのだろう。

だから、いつも側で見つめていた私には簡単な・・・当たり前のことがわからない。

「お嬢様が、違うなら・・・はるかって、どんな人?堕天使は・・・嘘だもん・・・お芝居なんだもん」

「そうですね・・・どっちも本当の遥さんではありません」

「全然っ!わかんないよぉ・・・!助けて・・・。からっぽなの・・・見つからないのっ!」

「・・・そこに、いるじゃないですか」

「ぐすっ・・・えぐっ・・・ふぇ・・えっ?」

「今そこで泣いている、あなたが、本物じゃないですか」

「ほん・・・もの?本当の、はるか・・・?」

あまりにも簡単すぎる事実。

だけど、遥さん自身には近すぎて見えなかったんだ。

「泣き虫で、甘えん坊で、子供っぽくて・・・自分がわからくて、悩んで、迷走ばかりしていて・・・そんな、中二病の迷子の女の子。今のあなたが、私が好きになった女の子・・・遥さんです」

「・・・今の、はるか・・・。ぁ・・・ぁうぁ・・・、な、なんか、恥ずかしい・・・」

本当の自分をさらけ出すのは、誰だって恥ずかしい。

だから、恥ずかしくない自分というのは、大なり小なり、嘘が混じっているものだろう。

・・・でも、それでいいのだと私は思う。

「誰だって、ちょっぴり演技をしながら生きています。きっと、それは裸の心に纏うお洋服みたいなものです」

「お姉様・・・?」

「だから、ちゃんと本当の自分を見つけたら・・・お気に入りの服を着てもいいんじゃないでしょうか?」

「でも・・・でもぉ・・・」

「それが好きなら、いつまでも子供服を着たっていいじゃありませんか。気に入らない、似合わない演技をずっと続けることはありませんよ」

「だけど、そんなのみっともないのです」

「はい、だからTPOに合わせて着替えましょう。大人なんて、きっとそんなものです」

「・・・そう、なの?」

「例えば、学園長先生、学園ではいつも偉そうにしていますが、家では奥さんに頭が上がらないって話ですよ?いつも、同じ自分でいる必要なんて、どこにもありません」

「・・・そっか」

「だから、遥さん・・・。今は私と同じ服を着て遊んでくれませんか?」

にこりと微笑んで、それから大きく息を吸い込んだ。

「お、お姉様?」

「フハハハハハハッ!!さあ、選ぶがよい、偽りの姿をっ!我は来るものは拒まぬっ!去るものを追うこともせぬ!」

遥さんが、自分をどう演出したいのか。

それを決めるのは遥さん自身だから、選択は委ねて尋ねてみる。

「ま、まったくもぉ・・・、はるかがノッてあげないと、今のお姉様、すっごく間抜けになっちゃうよ?」

「理解されぬというのもまた一興!

孤高という悲劇に、我は骨の髄まで浸るであろうッ!」

かつて遥さんが得意にしていた、特有の愉悦を語る。

「くすっ、お姉様、めんどくさい人なのですっ」

「ククク・・・自己紹介かな、それは?」

「だよねー?理解されない自分、最高だよ・・・。でも、だからこそ、一緒に遊べる人と出会えたのは、本当の奇跡みたいで」

遥さんは照れくさそうに微笑んで・・・。

ゆっくりと、息を吸い込んだ。

「クク、お姉様・・・否、暗黒神様よ。きっと我らの歩む道は黒歴史になるのだぞ?」

「フッ、そなたと歩めるなら望むところである!」

「作用か・・・ククク。ならばよかろうッ!」

ーーそして、遥さんは壇上へと駆け上がってくる。

私達はスポットライトが当たる中、背中合わせに立つ。

相談するまでもなく、自然とポーズが決まる。

「ククク・・ファーハハハハッ!刻は来たり!暗黒神さまは復活なされた!民草よ、恐怖に震えるがいい!命を乞うのだっ!魂くらいは残してやるぞッ!」

「して、堕天使ミハエルよ。世界はすでに掌握しているのだな?」

「天使共の残党はおりますが、ただそれだけのこと。表向きは人間共に任せておりますが、すでに世界の全ては暗黒神様のもの!」

「ククク、よくやった!褒美をつかわす・・・世界の半分をそなたにくれてやろうッ!」

「ハハッ!光栄の極み・・・!人間共に、ぬるま湯のごとく地獄を見せてやりましょうぞ!」

「お手並み拝見といこうか・・・ククク、フハハハハハハッ!!」

ああ、これだ・・・と思った。

気分が高揚する。楽しくてたまらない。

遥さんと一緒に遊ぶのは、他の何よりも・・・!

「ええっと、これで仲直り・・・でよろしいんしょうか?」

盛り上がってきたところで、サポートしてくれていた天音さんと結衣さんが口を開く。

「いいんじゃないかしら。イチャイチャしてるみたいだから」

「私の知ってるイチャイチャとはかなり違います・・・」

「・・・実は私も理解不能よ」

いつの間にか天音さん達が出てきていたけど、ちっとも恥ずかしくない。

「ミハエルよ、観客まで揃ったようだな!」

「ククク、我らの禍々しい力に怯えているようですぞ。無視してよろしいかと」

「然り!フハハハハハハッ!征くぞ、我が覇道を・・・!我にはそなたの力が必要だ!」

「暗黒神様に忠誠を・・・!このミハエルに委細お任せあれ!」

「否ッ!ただの忠誠など我は求めぬ!身も心も・・・そなたの全てを我に捧げるのだッ!!」

「ふぇ・・・?暗黒神様・・・?」

と、ちょっぴり素に戻りながらあたふたする堕天使。

「あの、あの・・・それって、プロポーズなのです?」

若干緊張しながらも、暗黒神は頷いた。

「・・・さ、作用ッ!返事をするがよい!」

「え、えっと、あの・・・」

ほんの数秒、台詞を考えているのか、沈黙を挟んで。

「えへ・・・暗黒神様に、生涯の忠誠を・・・!」

「・・・よろしく頼みます、堕天使ミハエル」

「うんっ♪」

こんなにもおかしなプロポーズは他にないと思う。

・・・現に舞台の下では天音さんたちがあっけに取られている。

でも、これでいい。私達はこれでいいんだ。

いつか二人の間に子どもが生まれ、プロポーズの言葉を聞かれたら、二人揃って枕に頭をうずめてバタバタするだろう。

だけど、私達の黒歴史はーー大切なものだから。

ここから、私達の未来は始まるのだ。

他の人が笑おうが、周りにドン引きされようが、遥さんと一緒なら、きっと楽しい未来しかありえないのだから・・・。

「暗黒神様、大好きっ!なのです♪」


ーー完ーー


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ボクがお姉様と呼ばれるなんて いもサラダ @yui01120927

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