第3話 恋模様は曇り模様
ライブ出演が決まった時は3人で勉強会をしている時だった。
「あ、わりい消しゴム忘れた。悠太貸してくんね?」
「相変わらず忘れ物多いなぁ、はい。」
「サンキュー」
数学の宿題を終えたのと同時に、玲奈のスマホが鳴った。
「はい、はい、そうです。え、ほんとですか!?ありがとうございます。はい、はい。わかりました。失礼します。」
「どうしたの?」
「なんと、little bees初のライブが決定しました!」
「本当か!やったな!」
すごい嬉しい。嬉しいけど。
「やばい、本当に緊張してきた。」
ギターの練習とカラオケでボーカルの練習をしてきたけど、知らない人の前で歌う事を想像すると声が震えてしまいそうだ。
「それで、いつやるの?」
「えっとね、ちょうど3週間後の日曜日だね。」
「俺ちょっくらトイレ行ってくるわ。」
なぜか淳也は、カバンを持ってトイレに行った。見られたくないものでもあるのだろうか。しばらくして淳也が戻ってきた。
「トイレにカバンってなんか見られたくない物でも入ってるの?」
玲奈が単刀直入に聞く。
「まぁ俺も男だし?玲奈も見てみる?」
「馬鹿!」
それで笑ってこの話はなんかどうでもよくなった。
「よし。あと3週間後に向けて頑張ろうね!」
それで、もう勉強会は解散した。その帰り道僕はよく行くカラオケ店に寄った。とりあえず、ライブで歌う予定のミスチルとRADWIMPSの曲を入れる。ただ歌うだけじゃなくて、表現力ってやつを磨けるようにする。
ライブが決まってからの2週間はあっという間だった。ただ淳也が週に2日くらい無断で練習に来ない日もあった。でも、その日は玲奈と2人きりで練習ができるから僕としては嬉しかった。玲奈は家に電子ドラムを置いたらしく、日に日に上手くなっているのが素人の僕でもわかった。
「んー。やっぱりギターとドラムだけじゃしっくりこないね。」
「そうだね。」
「やっぱ淳也が必要だよ。」
この言葉はバンドにとってってことはわかってる。けど、すごくモヤモヤした。醜い独占欲が出てしまう。
「ね、この後時間ある?」
「え?あるけど悠太からのお誘いって珍しいね。」
「僕の家に来ない?」
「悠太の家かー。すっごい久しぶりな気がする!うん!いいよ!」
そういえば、淳也は玲奈をどう思ってるのだろうか?もし、淳也も玲奈を好きだったら…。
それから、練習が終わり玲奈が家に来るまでの時間はとても長く感じた。
「お邪魔しまーす。えっと悠太の部屋は確かここだったよね?」
確か最後に家に来たのは、8年くらい前なのによく覚えているな。
「うわぁ、なんか男の子って感じ。」
僕の部屋には、壁いっぱいにバンドのポスターなどが貼られている。もっとも、この部屋もバンドを始めた時から変わっていったのだが。
「麦茶でいい?」
「全然いいよ。ありがとう。」
麦茶を持ってきたら、玲奈は無防備にもソファで寝ていた。僕の中で何か黒いものがぐちゃっと弾けた音がした。寝ている玲奈の肩を掴むとびっくりして起きた。そして…。
という妄想がリビングで麦茶を注ぎながら出てきてしまう。いけない。ここで欲望のままに動いてしまったら、全てが崩れて無くなってしまう気がする。麦茶を持っていくと、玲奈はソファに座って僕の漫画を読んでいた。なぜか安心した。
「そういえばさ」
玲奈が漫画を読みながら聞いてくる
「なんでいきなり悠太の家に呼んだの?」
「なんでって、なんとなく?」
「悠太はなんとなくで女の子を部屋に連れ込むんだー。へー。」
玲奈はちょっと僕に対して引いたようだ。でもふざけ半分だから、あまり真に受けないようにする。
「玲奈はさ、」
聞くなら今しかない。
「本当は淳也の事どう思ってるの?」
「え、淳也?んーとね」
ちょっと考えてからゆっくり口を開く。
「いなきゃ私として完成しないものかな。」
え?それは好きを超えているって事じゃないのか?落ち込むとかじゃなく脳が色んなことを考えていて、なにも反応できなかった。
「あ、これはもちろん悠太にも言えるよ。私は淳也と悠太がいてこその私なの。どちらかでも欠けてしまうと私の3分の1も死んでしまうの。」
なるほどそういうことか。やっと理解できた。いや待てよ。それって恋愛感情についてはどうなんだ?
「そうじゃなくて、れんあ」
まだ言ったところで玲奈のスマホが鳴った。
「はいもしもし、はい、はい、分かりました。」
「ごめん!バイトのヘルプ行かなきゃ!お疲れ様!今日はありがとうね!」
と言って僕の家を飛び出してしまった。後には誰もいない家に1人ぼっちの僕と、玲奈の残した柔軟剤の匂いが残った。
それから1日後の大雨の日やっと淳也がきたのでライブに向けて僕たちは練習を積み重ねてきた。
「淳也すごいね。あんまり来れてないのにすごく上手になってる。」
「まぁ体調が良い時は部屋でも弾いてるしな。悠太もすげぇよ。なんか歌に感情?が込められてる感じがする。」
それを玲奈が後ろでにこにこしながら見つめて
「やっぱりこの3人好きだなぁ。」
と呟く。通し練習が終わり帰宅している時ちょうど淳也の家の近くの公園で、僕は忘れ物に気がついた。
「ごめん。明日提出する国語の宿題学校に忘れちゃった。今から取ってくる。」
「わかった。待ってるね。」
僕は学校に向かって駆け出した。学校に着いて職員室により教室の鍵を借りる。さすがに残っている生徒はいなかった。目的の物を回収し、また公園に向かって走る。公園の入り口に2人はいなかったので、中の屋根がある場所にいるのだろう。公園の中に入ったところで僕は息が止まった。
ー玲奈が淳也に抱きついていた。ー
止まった呼吸がだんだん荒くなり視界がぐらぐら動いて倒れそうになる。体が勝手にその場から立ち去り、気がつくと僕は自分の部屋のベットの上にいた。
数秒前の君へ。 白河 星夜 @seiyanohon
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