『なにもできない状況』だからこそ可能な、読み手の物語への直接関与

雪の夜に自動車に轢かれ、余命幾ばくもない『あなた』の最期の物語。
事実上の二人称小説。作品紹介(あらすじ)込みで考えたら間違いなくそのはずで、なによりそのように読むことを想定されて書かれた作品だと思います。
故に登場人物の台詞回しが少し説明的なきらいはあるのですが、それは作風ゆえのケレン味の範疇というか、作品のコンセプト上絶対に欠くべからざる部分――『動くことも喋ることもできず、ただ自分の命が潰えるまで彼女の行動を見守るしかない』というシチュエーションを際立たせるための、まさしく最適解であるように思います。
『作品を通じて伝えたいもの』が最初から明確に設定されていて、すべてがそのために構築された物語。優先順位の付け方と、思い切りのよさ。何がしたいのかはっきりわかる作品は、それだけでもりもり好きになってしまいます。
『あなた』として直接物語に関わっているのに、結局なにもできない無力感。迫りくるタイムリミットと、その結末の無常感。好きな人にはたまらない作品だと思います。