20・そして今。

 花束が落ちる音がした。


 そして。


 彼女の肩にかかっていた、ストールも落ちて。


 彼女は、僕の胸に飛び込んだ。


 僕も、最後にマリと会ったあの家での、あの日よりも、いやあの日よりは、ずっと大人になって。


 彼女とあまり変わらなかった背丈をしていたあの頃よりも、ずっと背が高くなった。


どきまぎはするけど、今の僕なら、裸の彼女の肩と、背中と、とっても偉大な存在で、でも小さな君の事をすんなりと受け止められる。


 彼女は変わった。本当に、自信がなくて何をしても落ち込んでばかりいた彼女が。でも、何を言われても毅然としていた彼女の強さが。

 今の彼女を造ったのか。


 僕は、昔から。彼女を見ていただけで、何もしてあげられなかった。

会えなかった何年間は、僕はずっと罪悪感に襲われていた。あの時。不誠実にキスをしたのも。後悔した。もしかしたら、マリは二度と僕に近づいてくれないと思った。


 それでも、マリはまた、僕のところに来てくれた。するりと僕の所からぬけてしまったけれど、今度は、いつもの自信のなさそうな泣きそうな顔ではなく、こんなにも輝いた姿で、僕の所に戻ってきてくれた。


 それだけで、良かった。


「ところでさ。」


僕は言った。


「宝くじ・・・あれ、結局、当たったん?。」


整形はしてないみたいだが・・・、彼女の顔をひとつひとつ確認して、なぜかほっとしたそんな僕をマリは、じっと見返したまま、口角をあげ、にやり、とした表情で、こういった。


「それは・・・・・・。ご想像にお任せしますよ。?」


 ええ~!!!!!


そこって、結構気になる所なのでは・・・・・。読者は。


そう突っ込みたかったが。


 まあいい。それはまた追及したらいい。気になるから。笑



僕は、あの日のキスの続きをする事にした。楽屋に誰も入ってこないのが奇跡的だった。

大きな鏡の、ホテルのように磨かれた白い大理石の壁の、女優となったおさなじみと、この部屋でするキスは、とても特別感があった。

ふんわりとした髪に触れ、つるりとした肩や背中に触れ、


そして重なった。

手も。キスするだけでドキドキするのは久しぶりだった。唇だけの感触ははっきりしていて、重ねた手以外はまるで宙に浮いたように、溶けていくのを感じていた。


夕陽の中で衝動的に交わした高校生のころのキスも一生忘れないけれども。


 これから、僕たちは、できるだけの時間を作り、できるだけの距離を埋め、そして、距離なんてない関係になるのだ。


 今は、まだ。マリは仕事しにいって、僕も仕事中だけど。今は仕事でしか堂々と会えないかもしれないけれど、そんな事なく会えるようにしてやる。どんなに君が遠い所に行っても。


 僕は、そう誓っていた。


  

 

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女子高生、宝くじを買う。 夏戸ユキ @natsuyukitarou

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