エピローグ 八月三十一日

『これが、私の知る事件の真相です』


 録音されたかすれ声がスピーカーから響き、その後に無言の砂嵐が聞こえてくる。臥子署の刑事、古林はラジカセのボタンを押しこんでテープを止めた。


 益田彩音が穴に転落して四日後、彼女は捜査員によって発見され救助された。謎の死を遂げた藤堂涼子と塩田隆弘に対しての捜査の一環として、山狩りを行った結果だった。そして錯乱した彩音が面会謝絶になって約二週間。ようやく許可を得て聴取を取った結果がこれであった。


 古林はぎゅっと目を閉じ、目の間を揉んだ。


 ――結局、この事件には何の不思議も存在しなかったのだ。ただ、生きた人間が生きた人間を殺した。それだけの単純な事件だったのだ。


 今日は八月三十一日。夏もそろそろ終わりかけ、外ではヒグラシが鳴いている。古林はタオルで汗を拭き、窓の外を見た。臥子署の窓からは、あの学園のある山が一望できる。


 明日にはあの学園も始業式を迎える。あの衝撃的な事件は、生徒たちの間で語り草になるに違いない。


 ――だがそれだけだ。人間というものは存外に忘れっぽくできている。すぐにあの学園は事件のことを忘れるだろう。


 それでも、不思議が残っているとすれば一つだけ。





 捜査員たちが総出で探しても、黒魔女――竜崎千鶴の死体だけはついに見つけることができなかったのだ。




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黒魔女の繭 黄鱗きいろ @cradleofdragon

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