アカシックチートで異世界無双なんてのは夢

ちびまるフォイ

アカシック☆ヘルプ

学生時代に宇宙の万物の解明をした俺は

ついにアカシックレコードへアクセスする方法を見つけてしまった!


「これが万物の叡智の源、アカシックレコード!

 参照すればどんな魔法だって使えてしまうのか! 世界が変わるぞ!」


バン!!


変わらなかった。

俺が人智を超えるほどの知恵を得たと知った

世界を陰で操っている何者かが俺を暗殺してしまった。


そして、どうしてそのことを今こうしてモノローグできるのかといえば。


「異世界に来てしまった……」


アカシックレコードかここが異世界だとわかってしまったからだ。

幸いだったのは別世界でもアカシックレコードへのアクセスはできる。


「キャーー! 誰か助けてーー!」


アカシック台本に乗っ取り町娘が野盗に絡まれて俺に助けを求めた。


「フッ。お嬢さん、俺の後ろに隠れなせぇ。

 俺のアカシックファイアであの獣ものどもを炭素に変えてみせますよ」


「ナンダコラー! ヤンノカコラー!」


襲いかかる男たちに向けて人の命の重みを伝えるためにアカシックファイアを唱えた。


---------↓ここから

男たちは消し炭となって短い生涯を終えて、

町娘は助けた俺に尊敬から始まる恋愛感情を持ち、

ひいては異世界第13夫人としてハーレムやぐらを構成する人柱になった。

---------↑ここまで幻想


ボコッ!


「うぼぇあぁえへあぁ」


「ええ……殴られるのかよ……」


野盗にマウントポジションで袋叩きにされた俺は、

自分の今の全財産と町娘を奪われて事なきを得なかった。


「そんなバカな! アカシックレコードにあった呪文を読んだはず!

 なのになんでアカシックファイアが出ないんだ! えい! アカシックファイア!」


答えはアカシック通知で気がついた。



『今月のアカシックレコード通信量が限界です』



「し、しまった! 今月アカシック動画を見すぎてしまった!!

 くそう、これじゃ魔法どころかアカシックWikipediaで

 異世界のあらゆることを調べることもできないじゃないか!!」


アカシックレコードには森羅万象が書かれている。

知識チートに属するアクセス権があるから特別だったのに、

それを失ってしまった今の俺はただの独り言が多い自分語りおじさんだ。


異世界にあるアカシックショップに急いだ。


「ということで、この世界を救うためには

 アカシックレコードへのアクセスが不可欠なんです!

 通信上限をとっぱらってください」


「しかしお客様、あなたはアカシックマネーをお持ちでないんですよね?」


「ここに来る前に野盗に奪われたんです」


「追加でアカシック通信量を支払えばアクセス権を回復することもできますが……」


「あんたはバカか! アカシックレコードにアクセスもできないのに

 どうやってアカシック通信量を払えっていうんだ!!」


「それは地道に魔物を倒すとか」


「こっちは生身だぞ!? 間接殺人として訴えてやる!!」


啖呵を切ったもののそんなことはできるはずもなく

街から一歩出たところにいる芋虫をちくちく倒して工面することにした。


が。


「お前、こないだの雑魚じゃねぇか。こんなところでなにやってるんだ?」


「ひいい!」


街から一歩しかでないということは以前に絡まれた野盗とも遭遇しやすくなる。

まるで道で偶然であったかつての同級生のようなノリでボコられた。


「おのれ名前もないモブども……アカシックレコードさえつながれば……!」


「ハハハ。とにかくこの財布はもらっていくぜ」


弱い人間は強い人間に搾取されるしかない現実の厳しさを思い知った。

アカシップショップにまた向かったときは前と同様に無一文へと戻っていた。


ただし、俺には秘策があった。


「え? アカシック通信量を支払える方法があるんですか?」


「そうです。どうしてもっと先に気づかなかったのか。

 この世界にいる悪の大王をさっさと倒せばいいんですよ」


「……は?」


「察しが悪いですね。桃太郎をご存じない?

 桃太郎は鬼ヶ島から金銀財宝をたくさん持ち帰ったという話です。

 つまり、今は支払えなくても私が悪の大王を倒せば支払えるということです」


「簡単に言いますけど、あなたが勝てる見込みはあるんですか?

 悪の大王はあらゆる魔法に精通し、SNSのフォロワーも多いんですよ?」


「造作も無いことです。アカシックレコードさえあれば私は無敵です」


「はぁ……」


「ということで、早くアカシック通信を無制限にしてください。

 それともあなたは世界が平和になってほしくないんですか?」


「本当に世界を救ってくださるのでしたら……」


ついに俺の禁断の力がふたたびこの手に戻った。


「約束します。私はこの力で世界を救ってみせましょう!」


アカシックMAPを元に大王の待つ地下要塞へと向かった。

玉座の間にはいかにもな大王が待っていた。


「グハハハハ。またネズミが迷い込んだようだな」


「しゃべるネズミよ、最後の言葉はそれでいいのかな?」


俺は勝ちを確信した。

一番怖いのガン待ちからの不意打ちだった。

いくら最強最高のアカシックレコードでも不意打ちには対応できない。


しかしこうして余裕と威厳を見せつけるかのように待っていたことが、

俺にアカシックレコードへアクセスさせるチャンスを与えてしまった。


「いくぞ! アカシック……あれ? アカシック……アカシック! えい!」


何度唱えてもアカシックレコードは反応しない。


「ま、まさか……!? 地下だから!?」


「クククク。どうやらお前も我と同じ能力を有しているようだな」


「大王……貴様も夜間の頻尿に悩んでいるのか!?」


「そのとおり。我と同じアカシックレコードへアクセスできる者が来ることを想定し

 こうしてアカシックWifiが届かない地下深くに作ったのだ。

 一度でも試し打ちしていれば気がついたというのにな」


「く、くそ……!」


「貴様は自分の脳力を過信して準備を怠った。

 その注意力のなさが貴様の命運を分けたのだ! 死ね!!!」


大王は指先に魔力を集中させる。


「アカシックバーーン!!!」





『今月のアカシックレコード通信量が限界です。

 母さん助けてプランに変更しますか?』

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