第10話:幼馴染とずっと一緒

 ある日のこと。

 私が制服のままでいると、リョウくんが突然入ってきた。

 そのまま居座り、漫画を読み始めてしまった。


 制服から着替えたかったけど、リョウくんの前だと少し恥ずかしかった。

 あれこれ言い合ってると、リョウくんが居るのに着替えることになってしまった。

 結局、リョウくんの背後で着替えはじめることになった。


 リョウくんの目の前で下着姿になるという緊張感。この時は謎の高揚感に包まれた。

 少し変な気持ちになったのを覚えている。

 もしかしたら突然振り向き、襲われるかもしれない。

 リョウくんにだったらいつ襲われてもいい。だから少し期待してしまった。

 そんな期待をしつつ、わざと遅く着替えるようにした。




 またある日のこと。

 リョウくんがゲームソフトを持ってきて、私の部屋でゲームを始めてしまった。

 しばらく待っていると、リョウくんがコーラを持って来いと言ってきた。いつもこうやって私を使い走りにしてくる。

 けど私は嫌ではなかった。むしろ嬉しかった。

 リョウくんのいいなりになれば、私のことを構ってくれる。それだけですごく幸せな気分になれた。


 飲み物を持っていくときはペットボトルのままではなく、あえてコップに注いで持っていくことにしている。

 理由は簡単。おかわりをするときも、また私に命令してくれるからだ。

 何度もおかわりすれば、それだけ私に命令することが増える。だからいつも面倒な方法を取ることにしている。




 またまたある日のこと。

 リョウくんが私の髪を触り始めたのだ。

 いつも時間をかけて手入れしている髪を、リョウくんが褒めてくれた。もうそれだけで胸いっぱいの幸せに包まれた。がんばった甲斐があったんだ。


 次にポニーテールにしろと言われた。これはチャンスだと思い、買ってきたリボンを見せびらかすことにした。

 けど人前で付けることを禁止されてしまった。

 ちょっと残念だったけど、リョウくんはこの姿を独占したかったのかもしれない。

 そう思うと買って正解だったと感じる。




 またまたまたある日のこと。

 学校で帰りの準備をしていると、突然、知らない女の人が二人やってきた。

 付いて行ってひとけの無い場所までやってくると、いきなり罵倒してきたのだ。


 話を聞いてみると、どうやら竹中くんが関係しているみたいだった。

 そういえば前に、竹中くんが告白してきたっけ。でもリョウくん以外の人には興味無かったから、断ったのを覚えている。

 けど目の前の二人はそれが気に食わなかったらしい。


 聞いていて呆れてしまった。心底呆れた。

 たいした努力もしてないくせに、竹中くんを取られたと思っている。

 そんなに好きなら、好かれるように努力すればいいのに。

 勝手に人のせいにされても困る。


 私はリョウくんに好かれるために色々な努力をしたよ? 本当に何でもした。

 料理も勉強したし、スタイルも維持するようにしたし、髪も伸ばして手入れもしたし、胸も大きくなるようにしたし、性格もリョウくん好みに合わせた。これら以外にも色々なことをやった。


 私はリョウくんのために存在している。

 私はリョウくんのためなら何だってする。

 私はリョウくんに全てを捧げる覚悟がある。


 それに対してこの二人はどうだろう?

 気を引こうとして失敗し、そこで諦めてしまっている。しかもそれを人のせいにしている。

 あまりにも馬鹿馬鹿しくて、呆れてものも言えないというのは正にこのことだろう。


 そんな心境だったからか、思わず呟いてしまう。


「何も努力してないくせに……」

「は? 何だって? 聞こえねーよ!」


 私があれこれ言っても通じ無さそうだし、適当に流してやり過ごそう。

 そう思ってしばらくそうしていると、リョウくんが助けにきてくれた。

 いつ見てもリョウくんはカッコいい。力づくではなく、言葉で解決してしまった。

 昔からこうやって助けに来てくれる。私にとっての王子様。


 やっぱり私にはリョウくんしかいない。

 リョウくん以外には考えられない。

 ずっと一緒に居たい――


 けど卒業式が迫ると同時に、焦りが出てくるようになった。


 何故なら、私は未だに処女だからだ。


 いつかはリョウくんが奪ってくれると思っていた。

 だけど、いつまで経ってもそんな素振りは見せなかった。

 その気があれば、こっちはいつでも受け入れる覚悟はあった。

 だけど結局、もうすぐ卒業を迎えるのにも関わらず処女のままだった。


 これだけは何度考えても原因が判明しなかった。

 向こうからその気にさせようとして裸姿を見せたり、体を密着させたりと、色々な手段を使った。

 しかしどれも成果は出なかった。


 もしかしたら本当に飽きられたのかもしれない。

 それとも私は遊びとしか見られていなかったのだろうか。

 ……分からない。どれだけ悩んでも全く分からなかった。


 卒業したら私のことなんて見捨てられるのだろうか。

 ……それだけは絶対に嫌だ。


 今までリョウくんが居てくれたからこそ頑張れたんだ。

 リョウくんのために色々頑張ってきたんだ。

 もうリョウくん無しの人生は考えられない。


 もし……このままリョウくんと何も進展が無かったら……


 私は――




 とうとう迎えた卒業式。

 結局、あれから関係が変わることも無かった。


 私には魅力が無いのだろうか。

 やはりただの幼馴染としか見られてないのだろうか。

 都合のいい存在としか思われてないのだろうか。


 いっそのこと、私の方から押し倒してみようかと思った。けどその考えはすぐに却下することにした。

 何故なら嫌われたくなかったからだ。

 嫌われるぐらいならこのままでいい。そう思った。


 幸いなことにも、リョウくんは私と同じ大学に行くことが決まった。

 まだチャンスはあると言えばあるということだ。

 けどここまで手を出してこないのに、待てばチャンスがくるとは考え難かった。


 時間が経てば経つほどリョウくんが遠くなっていく。

 そんな思いだった。


 もう打つ手がないのかな。

 ずっと幼馴染のままで終わっちゃうのかな。

 そんなの嫌だよ……


 部屋でそんなことを考えていると、リョウくんが訪れてきた。


「あっ……リョウくん。どうしたの?」

「…………」


 もしかしたら別れ話をしにきたんだろうか。

 そんな考えが頭をよぎり、胸が苦しくなる。


「あの……さっきから何でダンマリなの……?」


 リョウくんは何も言ってこない。

 本当に別れ話をするつもりなんだろうか。

 身が引き裂かれる思いで待っていると、徐々に近づいてきた。


 目の前までやってきて体を押され、そのままベッドに押し倒される私。

 突然の出来事に困惑していると、リョウくんはある物を取り出してきた。


「これ。何だか分かるか……?」

「え?」


 あれは見覚えがある。

 見せてきてきたのは……コンドームと呼ばれる物だった。

 これを出してきたってことは……つまり……


「な、何で……リョウくんがそんなものを……」

「決まってるだろ。今から使うからだよ」

「…………」


 やっぱり……


 嬉しい……

 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!


 やっとこの日が来たんだ!

 ついにリョウくんと一つになれる日が来たんだ!


 夢にまで見たこの日。もう天にも昇る気分だった。


 感激のあまり、つい押し倒してしまった。


 それからは我を忘れて、言いたかったことを色々とさらけ出す。

 長年の思いをぶつけるかのように喋り続けた。


「ねぇ。リョウくん」

「な、何だ?」


 この時の私は、人生の中で一番の笑顔だったかもしれない。


「大 好 き だ よ」


 これからもずっと一緒に居ようね。


 リョウくん――

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幼馴染は俺のいいなり 功刀 @kunugi_0

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