第21話「目覚め」
……どのくらいの時間が流れたんだろう。俺は師匠から卒業したあと、感謝の気持ちを伝えるために女神様に祈りを捧げていたら唐突に意識を失い、この暗闇の中を漂って夢(走馬灯?)を見ていた。
リューネ母さんに魔法を骨の髄まで叩き込まれた
過去に俺が出会った人達との思い出がゆっくりと俺の頭の中を流れていった。夢は記憶を整理するために見るって言うけど、おかげで色々な事を思い出すことが出来た。
たとえば前世で俺が中学生の頃、隣の席で仲の良かった秋野さん(仮名)に恋して懸命に仲良くなれるように努力し、そんな俺達の仲を羨んで周りの男子からはやし立てられる様になった頃、俺が部活でいなくなった教室で彼女が他の女子と俺のことを話をしていた。
その話を、俺は密かに隠れて聞いていた。好奇心に負けて聞いてしまったのだ。
「あっぴ(あだ名)って坂本と付き合ってるの?」
「えっ、付き合ってないよ?」
「そうなの? でもめっちゃ仲いいじゃん。まぁあんなオタク野郎と噂されても、私だったら気分悪くなるだけだけどねw」
「あはは…まぁ坂本は話してたら結構面白いし、良い人だとは思うけど……私の好みのタイプじゃないかな。たまに変なこと言って気持ち悪いし」
「ひどっw まぁそうだよねぇ。あっぴって超面食いだし。ジャニーズ大好きもんね」
「うん! 坂本が私のことが好きなのは態度で分かってはいるんだけどね。それでも私は滝○くん以外の人と付き合う気なんて微塵もないよ! 滝○くんになら私の全てを捧げてもいい!」
「あはははww」
そう、彼女は重度のジャニオタだった。そしてたまに気持ち悪いと思われていたようで、告白する前に振られてしまった。俺はその晩、涙で枕を濡らしつつ妄想で彼女を陵辱して一発抜いた。こうして俺の初恋は告白もせずに終了した。
この時の経験から、女の子と仲良くなったとしても相手がこちらに対して好意を持っていると勘違いしてはいけないと悟った。それは俺の悲しい妄想だと思い続けることにしたのだ。
他にも高校の時、同じ部活で一緒になった井上さん(仮名)という女の子に恋をした。その時俺は写真部で、部室は6畳間ほどの広さの暗室になっており、その奥に黒幕で仕切られた3畳程の広さの現像室がある。現像中に部室のドアを開けると光が入る恐れがあるので、他の人は入ってはいけない決まりになっていた。
そんなある日、私用で少し遅れて部室に入るとその場には誰もいなかった。他の人はまだいないのかと思い、椅子に座ってしばらく静かに待機していたら、現像室の方から誰かの声が聞こえてきた。
「先輩…だめですよ。さっき誰か来た音が…あっ」
「いいじゃん。音もしないし誰もいないって。それに入口に使用中の看板掛けておいたんだから誰も入って来ないよ。だからちょっとだけ。な?」
使用中の看板なんて掛かってたか? 気付かなかった。
「もぅ、少しだけ…ですよ?」
俺が恋した井上さん(仮名)と、当時の部活の先輩である宮沢先輩(仮名)が現像室で乳繰り合っている声が聞こえてきたのだ。俺は息を殺して現像室に近づき、その艶かしい声を聞き続けた。あんな狭い空間で一体どんなプレイをするんだろうと興味が沸いてしまったのだ。
だが、その選択は間違いだった。なぜか乳繰り合いながら俺のことを話し始めたのだ。プレイ中に話す内容じゃないだろうとは思いつつ、聴覚への集中力が高まっていく。
「そういやさ…井上(仮名)って…坂本と仲いいじゃん…んっ! あいつと、付き合わねーの?」
「坂本はぁ! ただの友達…んあっ! 私は先輩がぁ…好きなんですよぉ! んうううっ!」
「そうかぁ…なら俺と…くっ! 付き合おうかぁ。体の相性もいいみたいだし♡」
「はいぃ!! よろしく…お願いしまあああ!!」
……どうやら俺は寝取られたらしい。いや、寝取られたっていう表現が合っているのかはわからない。別に付き合っていたわけじゃないし。その場から隠密の如く静かに脱出した俺はその夜、枕を涙で濡らしつつ先輩達のプレイ中の声をオカズに一発抜いた。
……思い出してみると碌な思い出がないな前世の俺。
嬉しかった思い出といえば、制服のスカートが風で捲れて井上さん(仮名)のモロパンを拝んだことや、デレ○テで俺の担当だった前川み○にゃんのSSRが、10連で同時に2枚ゲットしたことくらいか。
本当に碌でもない前世だったが、これからはもっといい思い出を作っていこう。異世界でならそれも可能なはずだ。とりあえず成人前までに彼女の一人くらいは欲しい。そしてこのいい加減賢者になってしまいそうな俺の童貞をその彼女に捧げてしまいたい。そんなことを思いつつ、俺の意識は暗闇の中から浮上していった。
「んっ…ここは…」
周囲を見渡すと、何やら見慣れた家具が置いてある部屋のベッドに寝かされていた。どうやらここは俺の部屋のようだ。贖罪の眠りの期間が終了し、無事に現世に戻ってくることが出来たらしい。体を起こそうとすると、ちょうどタイミング良く誰かが部屋の中に入ってきた。
「クロード様~、体をおふき……クロード……様…?」
「…やぁフィリス。久しぶり」
「クロード様……クロードさまぁ!!」
持っていた水の入った洗面器をその場に投げ出し、フィリスが猛烈な勢いで俺に抱きついてくる。だが、長年寝ていた俺の体は筋肉がガチガチに固まっているらしく、思うような反応が出来なくなっていた。そのままフィリスの成すがままに抱きしめられる。
「目が……目が覚めたんですねぇ! よかったぁ……よかったよぉ!!」
「あぁ、なんとかね。フィリスは元気だった?」
「はい! 私はとっても元気ですよぉ。あ、奥様にクロード様が起きたこと伝えなきゃですね!! ちょっと待っててくださいねクロード様!! 奥様~! 奥様~~!!」
フィリスは俺を速やかにベッドに寝かせてから一目散に部屋の外に駆け出していった。5年経ってもフィリスのそそっかしさは変わらないらしい。
それからすぐに父さんと母さん達、フェリシア姉さんが俺の部屋に駆けつけてきてくれた。両親達は5年たってもそんなに変わっていない。フェリシア姉さんは今14歳か。子供っぽさが抜け、可愛さと綺麗さを兼ね備えた美人さんに育っている。
「くろちゃぁぁぁぁぁぁん、よかったぁぁぁぁぁぁぁ!! 起きてくれたぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「クロくん……おかえり……ぐすっ。よかったねぇ!!」
「クロード、よく目を覚ましてくれた!! 父さんは嬉しいぞぉ!! くぅっ!」
「クロード、おかえりなさい。あなたが起きるのをみんな待っていたのよ!」
「うん。ただいまみんな。俺が目覚めるのを待っててくれて、お世話してくれてありがとう」
そこからは俺が目覚めたお祝いにパーティをすると父さんが言い出し、全員がそれに賛成。翌日には全ての準備を整え、身内だけのクロードおはようパーティーが開催された。特別ゲストとしてシルビア先生やフラン先生、ユミナ先生を呼んだら駆けつけて来てくれた。
あれから5年経っているはずなのだが、シルビア先生とフラン先生の見た目はそんなに変わっていない。ユミナ先生はちょっと身長が伸びたかな? 胸は相変わらずだが。
「久しぶりです先生達。みんな元気でしたか?」
「あぁ、私もこいつらも元気だったさ。今日も冒険者の依頼を無事にこなして来たところだ。…それでな、クロード……私は、お前が目覚めたら言いたいことがあったんだ。あの時、あの錬金術師に殺された私達をクロードが助けてくれたと聞いた本当に…本当にありがとう!!」
「クロっちのおかげで今もこうして元気に生きているわけっすからね。わたしからもホントにありがとうっす、クロっち! この恩は私が死ぬ前に何とかして返すっすよ!」
「私からも、すっごくすっごくありがとう。クロードくんは私達の命の恩人だよ」
「いえ、俺もあの時は無我夢中でしたから。でもみんながこうして元気で居てくれてよかったです」
ホントに無事で良かったよ。5年も贖罪を頑張った甲斐があるってもんです。
「それで、クロードはこれからどうするのだ? その様子だとまだ動けないのだろう?」
「そうですね。しばらくはリハビリ…まともに動けるようになる練習ですかね。今のままだと体が固まってて動くことすら叶いませんから」
「そうか…。お前が5年も眠り続けたのは私達を蘇生してくれたからなのだろう? 本当にすまない。お前が動けるようになるまでは私がお前をサポートする。なんでも言ってくれ!」
ん? 今なんでもって言った?
「いやいや、俺が5年も寝てしまったのはシルビア先生達のせいじゃありませんよ。自分の限界も考えずに魔力を使いすぎてしまった俺自身の責任なんです。もっと上手くやれれば良かったんですけどね。俺の方こそ、心配をかけてすいませんでした」
シルビア先生の気遣いはありがたいが、そういうことにしておいた方が良いだろう。生き返らせた事に対する神様からの罰で5年も眠らされたなんて言ったら、シルビア先生が申し訳なさでどうにかなっちゃいそうだし。
「まぁまぁ、クロっちがちゃんと目覚めてくれたんだからそれでいいじゃないっすか。ねぇユミナっち?」
「うんうん。シルビアちゃんもあんまり気にしすぎたら、クロードくんにも悪いよ?」
「そうか……そうだな。わかったよ、もう謝るようなことはしない。これから何回でもありがとうと言わせてもらう。本当にありがとうな、クロード」
「はい、どういたしまして! 俺もまた先生達と会えて嬉しいです」
先生達と感動の再会を果たしたその後、俺が眠ったあとにあのダンジョンがどうなったのかの話を聞いた。どうやらあのダンジョンは錬金術師が死んでからすぐに崩落してしまい、内部の調査すら出来ない状況になってしまったらしい。まぁダンジョンマスターは完全に葬ったはずだから別に問題ないだろう。先生達が冒険者ギルドにそのことを伝えると最初は半信半疑だったが、父さんの口添えとダンジョンマスターの研究室で行っていた研究の情報などを伝えると、なんとか信じてくれたらしい。
ギルマスは俺がどうやってダンジョンマスターを倒したのか気になっていたようだが、シルビア先生が上手く誤魔化しておいてくれたようだ。あの人に情報を与えたらめんどくさいことにしかならないと思うので、シルビア先生GJと言わざるを得ない。動けるようになったら受付のソニアさんには挨拶に行かなきゃいけないな。心配かけちゃってるかもしれないし。ギルマスはどうでもいいけど。
異世界まったり冒険記~魔法創造で快適無双~ 南郷 聖 @mikunyan0917
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