第20話「師匠からの卒業」


「うぅぅりゃああああ!!」


「ふんっっ!!」


 ズゴオオオオンッ!!


 試行錯誤を繰り返し、何とかデストラーデ師匠の100%を引き出せたのは良いが、そこからが地獄だった。100%になったデストラーデ師匠は70%の時とはまるで違う。身体能力も魔力も反射神経も全てが化物になってしまった。化物っていうか、さすが神様って感じだ。


「ふっ、昨日より出来るようになってるじゃないか。さすがだよクロード」


「っはぁ、はぁ、ありがとう、ございます!!」


「そうだ。どんどんかかってこい! 諦めたらそこで試合終了だぞ!! 『神の閃光ゴッドフラッシュ』!!」


「ぐぼはぁぁぁぁぁ!!!」


 デストラーデ師匠の繰り出した拳の速度が光速まで届き、拳筋が一本の線になる。それが一本だけならなんとか躱せるかもしれないが、複数になってしまったらとてもじゃないが躱せる気がしない。師匠の拳が一瞬光ったかと思ったら俺の体に抉り込み、吹き飛ばされて頭から落ちた。


「車○落ちとか初めてやったわ…がくっ」


「…ふぅ。今日はここまでだな。俺の『神の閃光ゴッドフラッシュ』をまともに食らって生きてるだけでも大したもんだよ。今日は俺が治療してやるから、明日からも頑張れよ」





 デストラーデ師匠の治癒の光に包まれ、完治してから神殿に戻って『神の閃光ゴッドフラッシュ』の攻略法を考える。あんなもん人間の知覚で感じ取れるもんじゃない。ここはやっぱり魔法でどうにかすべきだろう。


「あれも一応物理攻撃なんだよな。それなら…」


《魔法創造起動。

 術式構成:相手の物理攻撃を1分間無効にし、相手の攻撃力を自分の魔力に変換するフィールドを作り出す。攻撃の威力が過剰だった場合、その過剰分魔力が消費される。

 術式名:物理変換障壁フィジカルコンバート


物理変換障壁フィジカルコンバートを創造するコストとしてMPを45000消費します。よろしいですか? Y/N


 コストが今の俺のほぼ全魔力ですか。まぁこれが一分間の制限をかけなかったら、コストが50倍近く掛かっているんだから高くても仕方ないだろう。YESっと。

 一気に体内の魔力が消費され、俺は気を失うようにベッドに倒れた。今日はもうこのまま寝よう。おやすみなさーい…Zzz…


 



~数日後~


 あれから100%の師匠と何度も対戦し、そろそろ贖罪の期間である5年が経とうとしていた。初めて100%の師匠と戦ってからずっと師匠の動きを研究したおかげで、なんとなく攻略法が見えてきた。


 昨日もボッコボコにされてまだ全身痛いが、なんとか体を起こして今日の日課に手を付ける。写経と反省文を終わらせて女神様にお祈りを済ませたら、師匠との対戦が待っている。対抗策も何個か作ったし、今日こそ一本取れるかな?


 外に出ると、いつもと同じように師匠が仁王立ちで待っていた。


「本日もよろしくお願いします、師匠!!」


「おう! 気合充分って感じだな。それじゃ……100%で行くぞ!!」


 師匠が100%になるには少し時間がかかる。筋肉が徐々に膨張して行って、最終的には元の体積から2倍近くに膨れ上がるのだ。分かりやすく言うなら戸○呂(弟)の筋肉操作みたいな感じだ。


「……ふぅぅぅぅ。待たせたな。それじゃ始めよう」


「お願いします! 『冥王の黒炎ハーデスブレイズ』×10!!」


「ふんっっ!!」


 先制攻撃で上級炎魔法を連打する。それを拳の風圧だけで軌道を逸らすのはやめてもらえませんかね?


「そんな魔法が俺に効かないのはもう分かっているはずだが?」


「当然分かってますよ! それでも俺は攻めるしかないんです! 『超閃光ギガフラッシュ』『業雷重縛鎖ギガライトニングチェイン』『極限の氷霧ダイヤモンドダスト』!!」


 目潰しで視界を奪った上で全身を雷の鎖で拘束。その上で上級水魔法で氷り漬けにする。さらに休みなく攻撃魔法を連打し、魔法の弾幕を張って少しでもダメージを稼ぐ。今日は出し惜しみは無しだ!


「うーりゃりゃりゃりゃりゃああ!!!」


「……そんな小手先の魔法じゃ、俺にダメージは与えられんよ? はぁぁぁぁぁあああああ!! フンッッッッ!!」


 バチコーーーーンッ!!


「ちょっ!?」


 師匠が気合を入れて全身の魔力を放出すると、それまで打ち込んでいた弾幕があっさりと弾き返されてしまう。しかも結構ヒットしていたにも関わらず全くダメージが通っていない。ホントに化けもんだなこの人!!


「それじゃこっちからも行くよ。『神の閃光ゴッドフラッシュ』!!」


「! 今だ!【物理変換障壁フィジカルコンバート】発動!」


 昨日創造した魔法を発動すると、俺の前に銀色の膜が張られる。すると、師匠の『神の閃光ゴッドフラッシュ』を吸収し、それを俺の魔力に変換して多少回復することが出来た。師匠がこの技を放った後、少しだけ硬直時間があるのはこれまでの研究で分かっている。そこが勝負の分かれ目だ!


「…俺の『神の閃光ゴッドフラッシュ』を吸収しているだと!?」


「これが俺の切り札その1です。そしてこれが…もう1つの切り札です! 【魂の一撃ソウルクラッシュ】発動!!」


 腰から剣を抜き、俺の中にある体力、魔力、気力、精神力を一点に集中する。今日まで使う機会がなかったが、決め技にと創作しておいたのが功を奏した。一点集中した力を全て炎の魔法に費やし、俺の体が一匹の不死鳥と化した。


「くらえええええ!! 『|アァァ○シック・バスタァァァァァァ』!!!」


「ぬおおおおおおおお!!??」


 ズガガガガガガガガガッ!!


「貫けぇぇぇぇ!!!」


「バ、バカナァァァァ!!」 


 ズゴオオオオオォォォォン……――――


 俺の乾坤一擲の一撃が師匠の体をぶち抜いた。確かに手応えがあったが、これでダメならもう今の俺には勝ち目はないだろう。全身の力を使い切った俺は、そのままゴロゴロと地面を転がり倒れてしまう。…残念ながら…今日はもう立てません。


「はぁ…はぁ…」


 数分後、ギシギシ言う体をなんとか起こして師匠の方を見ると、そこには両腕が消し飛んだ師匠が静かに佇んでいた。全身消滅させる勢いで放った一撃だったのに、腕の消失だけで済んだのはさすが師匠神様としか言いようがない。


「いやいや、まさかここまでやられるとは思っても見なかった。『神の閃光ゴッドフラッシュ』の打ち終わりに出来る一瞬の隙を付いた上での渾身の一撃。実に見事だったよ」


 そんなことを言いながらあっさりと両腕を再生させる師匠。この人は何をしたら死ぬんだろう? 神だから死なないのか?


「ありがとう…ございます…」


「クロード、キミは100%の俺に一撃を喰らわせ、深手を負わせた。これで創造神様がキミに課した試練はクリアーだ。おめでとう」


「ほ、本当ですか!?」


「あぁ。約束通り、試練を乗り越えた褒美として新たなるスキルを授けるとしよう。キミからの希望とかはあるかな?」


 いきなり何のスキルが欲しい? とか聞かれても全く考えていなかったから言葉に詰まってしまう。今俺に必要なスキルってなんだろう? 大体は【魔法創造】でなんとか出来るし、特に何も思いつかないぞ。


「悩んでるようだねぇ。それじゃ【魔法創造】でも補えないものを見繕えばいいんじゃないかな? 例えば生産系スキルとかね」


「生産系ですか……。あ、それじゃどんな魔導具でも簡単に作れるスキルとかってお願いしちゃダメでしょうか? チート過ぎますかね?」


「んー…流石になんでも簡単には俺でもキツいかな。精々自分の思い浮かべた魔導具の作り方を瞬時に把握できるスキルが限界かな。材料は自分で集めないといけないから大変なんだけど、結構使えるスキルだよ」


「おぉ、それじゃそれでお願いします!」


 作り方さえ分かればあとは何とか出来るはずだ。イザとなったら金に糸目を付けずに買い漁れば揃えることは可能だろう。多分。


「分かったよ。それじゃ……ふんっ!!」


 師匠は俺の頭に手を当てて、気合を入れると俺の中に何かが流れ込んできた。それは俺の体に広がりながらじんわりと染み渡っていく。


《スキル『魔導具制作”極”』を習得しました》


 頭の中にインフォメーっションっぽい声が響く。『魔導具制作”極”』か。これも十分チートっぽいよね。まぁせっかく貰ったんだし、現世に戻ったら全力で使わせてもらおう。


「それじゃ、キミが現世に戻るまでもう時間もないけど、残りの時間は自由に過ごすといい。それと、今日までの鍛錬の結果はちゃんとキミの体に反映されるはずだ。はっきり言ってに近い強さを手に入れちゃってるから、あんまり現世の人に本気出しちゃダメだよ? 恐らく瞬殺しちゃうからね」


「あ、あはは、了解です。師匠…今日まで、ありがとうございました!!」


「うん。キミのような弟子が出来て俺も楽しかったよ。そうだ。せっかくだし、弟子の証明として俺の加護もプレゼントしちゃおうかな。ただし、強くなったからって現世に戻っても修行は怠っちゃダメだからね。俺はいつでも見ているぞ」


 再び俺の頭を撫でつけて、師匠の力が俺に流れ込んできた。これってさらに強くなっちゃう感じですかね? ありがたいけど。


「師匠…なんかストーカーっぽいですが分かりました。これからも精進します!」


「うん。それじゃ、元気でね」


 そう言って手を振りながら、師匠は光の彼方へと消えていった。師匠との対戦回数は1500回を優に超えているが、結局まともに攻撃を当てられたのは5回だけだったな。これからもっと強くなって、次にあった時は是非100%中の100%の師匠と戦ってみたい。


「師匠…また会いましょうね」


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