第19話「贖罪の眠り」


~???~



「さぁ創造神様! 俺に罰をお与えください!!」


『良い心がけだ。さぁ、汝が罰を受け入れるがよい!!』


「っ!!」


 創造神様の持つ杖が光を発する。しかし、身構えてはみたが何も起こる気配がない。恐る恐る目を開けると、創造神様が微笑んでいた。


「………?」


『……と、言いたいところだが、汝には神の摂理を犯し者、錬金術師グリュンストン=マスカレイドを討伐した功績もある。それもある程度考慮せねばなるまい』


『! それじゃあ、クロードさんの罪は…』


『うむ、そこまで重くない償いで済ませてやろう。その償いとは…5年間の贖罪の眠りだ』


「贖罪の眠り…ですか?」


『これから汝は5年間眠り続ける。そしてその魂は我の作り出した虚数空間に捕らえられる。そこで神の禁忌を犯したことを悔い改め、二度と同じ過ちを犯さぬよう猛省をしてもらうことになるであろう。それと、汝が錬金術師との戦いで使った【无限創成むげんそうせい】は危険すぎる。悪いが元に戻させてもらうぞ』


「それは…仕方ないですね。でも5年も寝てたら、俺の体はどうなるんでしょうか?」


『贖罪の眠りの間は肉体は休眠状態になります。外見上はただ寝ているように見えるはずですし、栄養とかも消費されませんから大丈夫です。それにクロードさんのご家族もお世話してくれるでしょうから心配はいりませんよ』


 要はコールドスリープみたいなもんか? みんなにはめっちゃ心配かけるかもしれないけど、これも俺がやっちまったことが原因なんだから俺に選択肢はない。甘んじて罰を受け入れるしかないだろう。でも5年も延々と1人で猛省だけって…精神的にヤられそうだよな。大丈夫かな?


「わかりました。贖罪の眠りを受け入れます」


『……仕方ない。特別処置として、我が虚数空間での贖罪の時間以外は鍛錬をするのを許可しよう。そのための相手も用意してやる。もし我の用意した相手を倒すことが出来たなら、汝に新しい力を与えてやろう。励むが良い』


「! 本当ですか!」


『いきなり元気になりおって…現金なやつじゃな。クロード=グレイナードよ。確かに罰は与えるが、汝は自分の心に従い後悔なき道を選んだのだ。汝の仲間を想う清く純粋な心、これからも忘れるでないぞ』


「はい、創造神様。ご迷惑をおかけしました」


『クロードさん、5年後にまたお会いしましょう。頑張ってくださいね』


「ええ、女神様にもご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。それと、おやすみなさい。眠りから覚めた時は抱きしめて出迎えてくださいね」


 その豊満な胸で。


『……考えておきます。それではおやすみなさい。良い夢を』






~リューネ視点~

 

 クロちゃんはダンジョンから帰ってきてからずっと眠り続けている。お医者様や法術師の人に見てもらったけど、体温などの体の機能は低下しているが寝ているだけで他は特に問題はないと言われた。まるで冬眠でもしているかのようで、いつ目覚めるかはわからないとも。


「クロちゃん、ほら、今日もいいお天気だよぉ」


 毎朝部屋のカーテンを開けて窓を開らき、空気を入れ替えながらクロちゃんに話しかけている。今日もクロちゃんはすやすやと安らかな寝息を立てていた。たまにニヤニヤしたり辛そうな顔をしたりするけど、なにか夢でも見ているのかな? その頭を優しく撫でると、クロちゃんが生まれてからこれまでの日々が私の中に思い起こされる。生まれた時のことや、初めて魔法を見せてくれたこと。一緒に訓練したこと、他にもいっぱい…。クロちゃん、まだ5歳なのに無理させちゃってごめんね…。


「ぐすっ…くろちゃぁん…起きてよぉ! クロちゃんとお話したいよぉ!」


 クロちゃんの手を握りながら泣いていると、誰かが部屋に入ってきた。


「リューネ、やはりここにいたのか」


「あなた…」


 クロちゃんが眠ってからは毎日顔を見に来てるから、何処にいるかなんて分かっちゃうよね。日頃のクロちゃんの世話はフィリスちゃんがやってくれているけど、時間があるときは私がやってあげるようにしている。そしてお仕事が忙しい合間を縫って父親である彼もたまに様子を見に来てくれていた。


「クロードは必ず目を覚ます。俺達の子供がそんな簡単に死んでしまうはずがないだろう? 今は…クロードが目覚めるのを信じて待ってあげよう」


「ぐしゅ…うん…」


 




~フェリシア視点~


 ダンジョンから帰ってきたクロくんが眠り続けてあっという間に3年の月日が経ちました。私は12歳になり、王都の魔導騎士学園に合格して、これから向かわなければなりません。クロくんを置いて王都に行くのは心苦しく辛いです。でも、クロくんは自分に出来ることを精一杯やって、今こうして眠りについていると聞きました。なら私も、今自分に出来ることをしてこようと思います。クロくんのように、大切な人達を守れるような人に私もなりたいから。


「行ってきます、クロくん。起きたらいっぱい遊ぼうね」


 クロくんのおでこにキスをして、これからの勇気を貰ってから部屋を出る。クロくんが起きたら、格好良く成長した私を見てもらうんだ!







~クロード視点 in 虚数空間~


 この虚数空間というところは本当に何もない。唯一あるのは神殿のような形の一軒家。その中には机と、贖罪のために毎日欠かさずやるための写経と反省文のための道具一式。あとは簡易ベッドとお風呂とトイレとキッチン。食材とかはどこからか自動で補充されているので問題なく過ごせている。というか今の俺って魂だけなんだから食事とかっているのかとも思ったが、そこは創造神様の気分次第なのかな?


 今日も日課の写経と反省文を書き終え、女神様への祈りを済ませてから準備を整えて外へ出る。外といっても神殿の外はどこまでも続く真っ白い地面が続いているだけで何もない空間だ。空は何故か一面幾何学模様で、ずっと見ていると目が痛くなってくるのであまり好きじゃない。そんな何もない空間で1人の男が座禅を組んでいる。俺の気配に気付くとすっと立ち上がり、こちらに近寄ってきた。


「日課はもう終わったのか?」


「えぇ、今日もよろしくお願いします。デストラーデ師匠」


 彼はデストラーデ師匠。創造神様が用意してくれた贖罪の眠り中に戦う修行相手だ。どうやら彼も神の1柱らしいのだが、創造神様に命じられてこの虚数空間に来たらしい。わざわざ俺のために申し訳なく思い謝罪したが、本人曰く、神にとっては5年なんてあっという間だし、ボーナスも出るから結構美味しい仕事なんだそうだ。神もサラリーマン制度を導入してるのかな?


「それじゃ始めようか。昨日は50%で一本取られたから、今日は70%の力で行かせてもらうよ」


「わかりました。負けませんからね!」


 そんな感じで今日の修行が始まる。デストラーデ師匠はとんでもなく強い。今日まで1000回以上戦って勝率は1割にも満たない。それも手加減されまくってこれなんだから結構凹んでしまう。しかし、戦ってるうちに俺の力もどんどん上昇していて、やっと70%の師匠と戦えるところまでこぎ着けていた。


「このぉ! 【魔法融合】発動! 『轟天爆雷テスラバースト』!!」


「発動が遅い。そんなに時間をかけていたらいくらでも殴る時間があるぞ!」


「ぐはぁぁぁああああ!!」


 毎日毎日格上の相手と戦えることに充足感を覚えながら、今日も限界いっぱいまでボコられていく。でもこの調子で強くなっていけば、5年以内に本気の師匠と戦えるかも知れない。それを目指して日々精進だ。


「…よし、今日はこの辺にしておこうか。今回の反省点をしっかり纏めておくんだぞ。ただ戦うだけなら誰でも出来る。その戦いの中で何を見出すかで成長の度合いが変わってくるからね」


「…ふぁい。ありがとう……ござい…ました…」


 8時間たっぷりとボコボコにされたあと、師匠に一礼してその身を魔法で回復してから神殿の中に入る。今日の反省点はかなり多い。身体強化の練度が足りない。反応速度も全然追いついていない。魔法の発動が遅い。そもそも魔法が当たらない。他にも多数。これらを改善していかないとデストラーデ師匠(70%)に勝つことはできないだろう。


「さて、飯食ってから自主練開始だ!」


 食事後、反省点を改善すべく外で自主練を開始する。デストラーデ師匠は俺との修行が終わると自分の家に帰っているので、今この虚数空間には俺しかいない。今の俺は魂だけの存在なので、特に寝る必要性がない分こうして鍛錬の時間が取れるのだ。

 

 しかし、改善点を解消すべく色々試しているが、やはり最初はうまくいかないもんだ。でもそれだけやり甲斐もあったりする。


「くそっ、こんなんじゃ全然足りない! もっと、もっと集中しないと!!」


 今日のデストラーデ師匠の動きを参考にして対抗策を組んでいく。ここに来てから今日まで毎日同じことの繰り返しだ。師匠と戦って、自主練して戦術を組立て、翌日また戦ってそれを試して修正し、そしてまた試して改善点をまとめて修正してまた試す。毎日やってると普通なら飽きるかもしれないが、俺の場合は【魔法創造】がある分戦い方がどうとでも変化することが出来るので結構楽しめていた。


「よっし、次行ってみよう!」



 …もっと頑張って強くなろう。もう二度と先生達を…大切な人を失うことのないように。



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