紅葉色(ニ)
「…ふんふん…へぇ!劇って感情込めないとやっぱ観客に伝わらないんやな!…それで!ゆずのこと白雪先輩はどう思ってるんですか!?やっぱ一年でぽやぽやしてるゆずのまんまですか!?」
関西弁を隠し切れないなまりになまった言葉で目をキラキラと輝かせている架燐が、桜子さんに質問攻めにしている。
「こ、こら、架燐!さくら…白雪先輩が困ってるじゃんっ…!て、てか!ぽやぽやって!」
必死に架燐を桜子さんから引きはがそうとするが、架燐は完全に白雪先輩に釘付けだ。
まぁ無理もない話かも…私も演劇に入って部活の先輩として接するまでは遠い人に見えてたから…はしゃぐのもわかる気がする。
「そんなことないわよ、揺河さん、部活中練習の時はハキハキセリフ言うし、動きも感情に合わせて動いてくれるし、うちの部では優秀だわ。…でも確かに休憩中はぽやぽやしてるかも…ふふっ」
何かを思い出したかのように桜子さんは笑う。手を口元に当て華奢に笑う姿は、何度見てもやはり美しい、いや麗しいが合っているだろう。
女子学園の皆が噂し、女性としての憧れのまなざし、それでいて成績も優秀であって先生からも絶賛される私の初恋の人。
そしていまや恋人…その事実が本当に夢かと思うほどに、私は架燐がいる横で桜子さんに見とれてしまっていた。
「揺河さん?」
「ゆず?白雪先輩が見つめてなにぽや~っとしてるん?まぁ見とれる気持ちはわからんでもないで」
いつのまにか私の方を二人が見て、架燐はうんうんとうなずいていた。
私はハッと我に返る。無意識に桜子さんを見つめていてしまったのだ。そのことに気付いたころには桜子さんは架燐の斜め後ろからニヤニヤと私を見つめ返していた。
おそらく自分にホの字で見とれていることに勘付いているのだろう。
「へっ!?ぁ…あう……」
赤く熱く染まる顔を手で覆い、指と指の間からみた桜子さんの表情はこれまでになく満足そうに笑っていた。
――…キーンコーンカーンコーン…
そのあと五時限目が移動教室なのを思い出し、架燐と二人で向かおうとしたとこ、
やっぱり二人の時間が欲しい気持ちで少し名残おしく思いながら振り返るとまだこちらを見送っていた桜子さんと目が合った。
“ また放課後、ね ”
口パクでそう伝えられ、思わず口角が上がり大きく何回かうなずく。
私は放課後の二人の時間を心待ちにルンルン気分で午後の授業を受けにいった――。
七月は華の病 薺 佑季 @nazuna-t
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