初恋の行方
目が覚めると見慣れた自室の天井が目に入った。窓から入る日の光が眩しい。どうやら夢を見ていたようだ。淡く、甘酸っぱい初恋の一幕。
あの大阪旅行の数日後、航大は大阪へと旅立った。私たち三人はそのまま高校を卒業し、それぞれの道を歩みだした。
克海はスポーツインストラクターになるための資格を取るために上京。今は東京の大学で頑張っているらしい。大学に行くだけならそんなに遠くに行かなくてもあったのだけれど向こうに行った方が仕事にしやすいとのことで高校卒業と共に行ってしまった。
灯は雑誌編集者になるために京都に行った。克海と違って近いのでちょくちょく会って近況報告をしあっている。最近彼氏ができたらしく前に会った時に散々惚気られた。
当の私はと言うと二人とは違って実家からでも通える地元の大学に進学した。全てはあの夜の約束を守るため。いつでも彼をこの町で受け入れるため。
例の彼…航大とはあれから連絡を取っていない。と言っても定期的に彼の妹から色々と話は聞いている。向こうで頑張っているらしい。別にこちらから連絡しようと思えばできたもののそれはしなかった。
今連絡を取ったら多分私は彼に会いたくなってしまうだろう。それに何より向こうで頑張っている彼のことを邪魔したくない。
そういうわけで彼とはあれから一切関わりがない。
今頃どうしているんだろう?そんなことを考えながら朝食のトーストを口に放り込む。今日は大学が休みなので、服でも見に行こうかと思い家を出た。春の暖かい空気が心地いい。家の近くの公園ではもう桜が咲いていてこの前ご近所さんと一緒に花見をした。
坂を下るとすぐにいつもの海岸線が目に入る。今日は遠くの貨物船も見えていい日だとつくづく感じさせられる。
気分も上がって段々と軽やかになってきた足取りでバス停へと向かう。
停留所に設けられた小さな青いベンチにはいつも通り誰も座っていない。
ベンチに座って本を読んでいるとやがてバスが来た。プシューという音とともにバスのドアが開いたので本をしまって目を上げると降りてきた男性と目が合った。
「み、海結、久しぶり…」
その男性は体つきこそ大きくなっていたものの、顔つきと声は間違いなく航大のものだった。私はとても驚いて声すら出せなかった。
「ほんとはこれから家に行こうと思ってたんだけどさ、ここに…」
彼が最後まで言い切らない内に私は涙を流して彼に抱きついた。そうすると彼も優しく抱き返してくれた。
「ずっと待ってた…もしかしたらもう忘れられてるかもってすっごい心配だった。」
彼はニコッと笑って、
「心配させてごめん。でもこれからは絶対どこにも行かないから。」
ほんと?と聞くと彼はうなずいて私にキスをした。
数年ぶりに彼と見た海はあの頃と同じ様に輝いていた。
灰色の町 音河 ふゆ @1zn_fe
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