第10話 二人目の妻 二人目の母
龍造が初めてのお役目からアンナと共に戻って来ていた
「やらかしたの、龍造」
笑いながら龍元が話しかける。
龍元と源治は、施設に関わる全ての軍関係者や政府の人間と施設を知る全ての人間の記憶を改ざんしてくれていた。
何万という人々の記憶操作を一時間とかからず済ませていた。
一族のリミッターから解放された時の能力の高さは、まさに別次元のものだ。
龍造も本来であれば施設内の人物に対しそれで良かったのだが、アンナのためにも痕跡は残したくなかった。
その事を判っている龍元の気遣いだろう。
「アンナさん、こんなろくでもない男だがよろしく頼みます。龍人は可愛いがの。ほっ、ほっ、ほっ」
「ワカリテイマス」
まだ日本語は上手く話せないようだ。
まず本殿に行き、お清めをする。
御神体を奉る神室の前まで行き、外からテレパスで挨拶をする。
(本日よりお世話になります。アンナと申します、よろしくお世話になります)
ヴオン、ヴォンと御神体が唸る。
アンナを受け入れてくれたようだ。
拒否されたならば、2,3日は目覚める事が出来ない程弾かれただろう。
「アイサツ、オワラリマシタ(挨拶、終わりました)」
龍元と龍造に報告する。
龍造の弟である源治は、ネイティブアメリカンの研究の為、現地へ行っている。
お役目はそこから果たしていた。
「アンナ、話しておかなければいけない事がある」
「タツトコトネ(龍人の事ね)」
「そうだ。タツトは母ソフィアがいなくなったのは自分のせいだと思い込んでいるようだ。そのためかソフィアの死を受け入れられずにいる。そして自分の殻の中に閉じこもってしまった。最近はさらに深くなっている」
「ワタチモオナジダタ(私も同じだった)ワタチノママトチテハツチゴトネ(私の母としての初仕事ね)」
まだテレパスで会話した方が良さそうだ。
心を通す会話にすることで、より通じ合える事もある。
新婚なのだからそのあたりも許されるだろう。
(来て早々で申し訳ないが、僕では上手くいかなかった)
(ううん、大丈夫。私にはもう家族は出来ないと諦めていた。でも、あなたが、あなたたちが家族になってくれた、家族にしてくれた。龍人は私の可愛い子供。ソフィアさんからもお願いされた。必ず龍人の母親になってみせるわ)
あの時の光、やはりソフィアの残存思念。
見守ってくれているんだ。
龍造はソフィアの思い、そしてアンナの思いに胸が熱くなった。
ソフィアを愛している、今でも。そしてアンナも同じように愛している。
誰がなんと言おうと、それは真実だ。
龍造は素直にそう言える。
龍造はアンナを連れて龍人に会わせる。
「龍人、この人が今日からおまえの母親となる。アンナ、この子が龍人だ。」
自分がそこに居るより、二人きりにさせた方が良いと思えた。
「タツト、キョオカラアナタノオカアサマニナリマス、アンナデス。」
変な発音の言葉を話す女性だなと龍人は思ったが、何の興味も持てなかった。
黙っているとアンナという女性がいきなり龍人を抱きしめて
「アナタトカゾクニナレテ、トテモウレシイデス。」
といって龍人の頬にキスをしてきた。
何の反応もせず、龍人は自分の部屋に戻ってゆく。
(龍人は心を閉じてしまっている。昔の私よりも深く。このままではいつか闇に飲み込まれてしまう)
過去の自分を龍人の中に見た気がした。
(大丈夫、ソフィアさん。私に任せて。私なら龍人のママになれる。約束する。大事な私の家族、そして私の子)
アンナは閉じた龍人の心の中に母を求め、涙を流している姿を見た。
ソフィアの姿と自分の姿を無意識に重ねた事も。
一ヶ月近く経った頃にはアンナの深い愛が龍人を包み、龍人は立ち直っていた。
お互いの存在があってこその二人になっていた、真の母子になっていた。
アンナは大きな幸せの中にいた。
多くの家族とともに。
愛、継ぐ (告げ守の一族) キクジヤマト @kuchan2019
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