文字を通じて叩き付けられる極彩色のグラフィティ

SF。企業広告としてのグラフィティアートをぶつけ合う未来社会のお話。
面白かったです。アイデアや設定そのものの持つ力はもとより、それをここまでしっかり書き切ってしまう筆力が凄まじいです。
企業が国家としての役割を果たす世界。広告掲載可能な平面が〝領土〟のような価値を持ち、そのために変化する戦争というものの形態。
考えるだけでもわくわくする強烈なアイデアを、最低限の説明だけでしっかり納得させてしまう。きっとその気になればまだまだ掘り下げることが出来そうな設定を、でも一番おいしい希少部位だけ使うかのようなこの贅沢。そして、その上で繰り広げられる、王道ど真ん中の娯楽小説。最高でした。
個人的にはディストピア要素というか、ディストピア要素のさりげなさと容赦のなさが大好きです。きっちりエンタメの王道をゆく物語の筋のわりに、節々に顔を出す必要以上に無常でハードコアな世界観。ソイレントグリーン……人権の無くなったヒト脳髄……極彩色の世界の影に、でも確かに存在するくすんだ色。社畜のブラック。とても美しい描かれ方でした。