そして僕はまた配信する。
「すみません。ここに赤い本ってありますか?」
「いいえ」
「そうですか」
次の日も、また次の日もラウムがいる悪魔の本を探しにあちこち探しまくった。ラウムを呼びだせるあの赤い本がきっとどこかの町にあるはずと本屋や古本屋。時には翼を広げて隣町の図書館にも足を運んだ。
「ここにもない」
だけどどこにもあの願いを叶える赤い本はなかった。
ラウムが言ったようにあの本をもう一度見つけるには運がからんでいる。そもそも僕がラウムがいる本を見つけたこと自体運が良かったらしいと以前ラウムから聞いたことがある。
「悪魔と契約して願いを叶えることなんて一度っきりの人生で最高のことなんだから」
だけどもう一度運があってもいいじゃないか。
二軒目、三軒目、四軒目とありとあらゆる本を扱うところを探し求めた。けど結局ラウムを呼びだせるあの赤い本はどこにも見つからなかった。
ラウム、一体どこにいるんだ。とぼとぼと翼をたたんで家の近くに降り立つ。ラウムを探しにあちこち探しているうちにどんな狭い場所でも離陸も着陸もできるようになっていた。
そのまま家に入ろうとした時、一羽の大きなカラスが塀の上に居座っていた。
「ラウム!?」
「カァ」
カラスは僕を見ると鳴き声を発するだけで、毛づくろいを始めた。悪魔は人間界にいるときは動物に変身して契約をすすめると聞いたからもしやと思った。でもやっぱりそんなことないよね。
家に入り自分の部屋に戻ると、ベッドの上に転がりスマホで自分のチャンネルを見るまたチャンネル登録者が増えていた。
ラウムとさよならしたあの動画はいっぱい拡散されたようで、チャンネル登録者はもう数千も増え、この勢いなら万は越えるかもしれない。でもこの数字と願いを叶えてくれたいじわるで良い悪魔はもう僕の隣に居ない。
もう、ラウムと会えないんだな。
「どうせならラウムと一緒にいられますようにって願えばよかったな」
目の奥がじくじくしてきて、帰りのコンビニで買ってきた缶コーヒーを取り出してプルトップを開けた。ラウムが好きだって言った黒いもの。どうしてコーラを買わなかったって? ラウムとの思い出が余計に思い出してしまうからだ。
コーヒーの独特のにおいが缶からただよってきて、僕は一息に飲む――ことはできなかった。
「うぇ、苦い」
コーラのペットボトルよりもはるかに小さいコーヒーを半分以上残った状態で口から離してしまった。でもおかげで涙がでてきた。まったくコーヒーのおかげだ。
「こんなものが好きだなんて、ラウムの味覚にはついてこれないよ」
「ふふん。悪魔の味覚についてこれないなんてまだまだね」
「だってこんな苦いもの絶対飲めっこない……ラウム!?」
窓を見ると丸刈りともう一匹見慣れたカラスがいつの間にか侵入して、ラウムの声を発していた。ラウムの仮の姿だ!
「なんで、なんで戻ってこれたの? もしかしてもう新しい契約結んだの!?」
「違う違う。グラシャと同じく契約したい人探していたの。カナタが空を飛ぶ動画に影響されて、自分も飛べるんだって自作の翼を作る馬鹿な人間がいたら教えてやろうと思って探していたところなの」
「相変わらずいじわるだなラウムは、こんなすぐに会えるのなら一言声でもかけてもいいのに」
「出てきた場所がカナタがいる町とぜんぜん違う場所に出ちゃったのだから。そしたらたまたま丸刈りちゃんが私を見つけてカナタが落ち込んでいるって教えてくれたの」
ああそうか、あの時飛んでいったのはラウムを探しに行って見つけてくれたんだ。ぴょこんとラウムを連れてきてくれた立役者はどうだと胸を張って僕のベッドの横に座り頭をこすりつけてくる。
「丸刈り、ラウムを連れてきてくれてありがとう」
「そういえばカナタこの子なんで丸刈りって男の子みたいな名前で呼んでいるの?」
「そりゃ頭が丸刈りみたいだからだけど、男の子みたいな名前ってただのカラスでしょ」
「いやカラスにもオスとメスもいるから。というかこの子メスだし、気づかなかったの?」
メス? つまり、女の子!?
「それにこの子。カナタのことが大好きでいっつもそばにいたたたたた!! ばらすなってそうでも言わないとカナタ飛ぶことしか頭にない馬鹿だし」
馬鹿っていうな! ってちょっと待って! 大好きって言わなかった!? つまりいつも僕の周りにいたのはただ単に僕のことが好きだから追いかけていたわけ!? うそでしょ!!
「鳥にモテモテだね鳥人間のカナタ」
「僕は鳥人であって、鳥人間じゃない! あと鳥にモテてもうれしくないよ!」
「コラ、鳥の好意をむげにしないの。嫌われたね丸刈りちゃん」
「クワワ!」
「痛い!」
カラスの姿のまままたラウムが丸刈りに突かれている。
僕は笑った。願いが全部叶って、笑った。
***
今日の天気は晴れ。気温18度と秋にしてはとても気持ちの良い温度。そして風向きは南東の方角に3メートルに向いている。状況よし。
一通りの情報を頭の中に入れてスマホの画面をのぞきこむ。最近僕のチャンネル登録者がだんだん増えてきて、配信時のコメントも増えてきている。みんな僕が空を飛ぶのを、空に興味を持ってきてくれている。そんなみんなの期待に、人類が空を飛ぶまでの道のりを切り開いた人たちのために、空を生きる鳥たちに恥じないように。
僕は今日も飛ぶ。
『みんなこの間のフライト応援ありがとう! でも鳥人KANAはまだまだ空を飛ぶからね。次の鳥人KANAの挑戦。今日は東京スカイツリーまで単独で飛んでみせます!! 応援よろしく!!』
あくまで自分の翼で飛びたい~悪魔から与えられた翼で実況配信する~ チクチクネズミ @tikutikumouse
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