安心保障

@ns_ky_20151225

安心保障

「なにか良い案はないか。地位身分に関わらず遠慮なく言ってみなさい」

 神様が集まった白狐たちを見回して言いました。

「あのう、もっと罰を厳しくしては? 参詣を怠るなどとんでもない事ですので」

 ある狐がそう答えると、別の狐が反対しました。

「しかし、今の人間は罰なんか与えたら信仰を変えてしまいます。外国の神だっているんですよ。あっちは愛だの何だの甘口だから取られてしまう」

「じゃあどうすればいい! 減る一方の信者を食い止め、信仰心をもっと集めるには?」

 さらに別の狐が問いかけました。それは神様も含め皆の胸に悲鳴のように響きました。


「では、もっとご利益を与えましょう」

 後ろの方から声がしました。皆がそちらを見ると若者でした。毛はまだ完全に白くなっておらず、野山を駆け回っていた頃の赤茶を少し残しています。

 神様は手振りで続きを促しました。

「例えばお百度です。数を減らしましょう。七十五度とか。そうすればまた信心してくれます」

「何を言う。我らは信仰心を糧にしておるのに祈りの数を減らすなどとんでもない」

 年上の狐が呆れと怒りが混ざった声で言い返しました。

「でも、月に一回のお百度より、二回七十五度踏んでくれたほうが合計は多いでしょ?」

 若者は臆する事なく言い返しました。神様は興味深く聞いています。

「お初穂も安くしましょう。その分は数で補えばいい」

「しかし、なあ……」

 年長者たちは首をひねっていますが、若者たちはうなずいています。神様はその様子を見て言いました。

「よし、一度試してみよう。期間限定でその若者の案を実行する。各々は夢枕に立ってご利益が手に入りやすくなったと伝えて回るように。うまく行かなかったらまた考えよう。今は行動あるのみ。さあ、行ってこい」


 神様が決定したのでもう誰も何も言わず仕事に取り掛かりました。その夜、人々の夢に白い狐や赤茶の混じった白狐が現れました。


「うまく行ったな。想定以上ではないか」

 あれから一ヶ月が経ちました。神様を含め、皆嬉しそうです。前年同月比で二倍の信仰心を集められたのです。

 その場で期間限定ではなくずっと続けると決まりました。


 この様子を見ていた他の神様も真似し始めました。人々の夢に白蛇や白鼠や白鹿が現れてご利益が得やすくなったと伝えて回り、その結果、神社でのお祈りが増えました。

 お百度も今ではお五十度になりました。おかげで子供やお年寄りでも願掛けができます。お初穂も出しやすくなったので不作の年でもそこそこ集まるようになりました。


 ある夜、赤茶の混じった白狐が満願の信者にお告げに行こうと宙を駆けていた時、同じように野生時代の毛色を残した白鹿とすれ違いました。


「おや、どちらへ」

 白狐は屈託なく声をかけました。若者は年長と違ってよその神様のお遣わしでもためらいません。それは白鹿も同じでした。

「お告げの帰りです」

「私はこれからです。お互い忙しいですね」

「ええ、五十度でいいですからね。そっちもでしょ? というか、そちらさんが始めたんですよね」

 白狐は白鹿の言葉にふわりと尻尾を振ります。

「はい。大当たりです。一人あたりは少なくても数を確保できればと思ったのがうまく行きました」

「でもねえ、このまま減らし続けていいのかなって思うんですよ。百だったのが五十、いずれは二十五にしなきゃならなくなるのかなって。そうなったら人数だけ増えても上がりは不足するし、一度減らしたものは増やせないし」

 白鹿は心配そうに首を振りました。白狐はぴょんと白鹿に近づいて言いました。

「大丈夫。安心して下さい。最終的には保障があります。我々は気楽でいていいんです」

 白鹿はまた首を振りました。今度は疑問の意味でした。白狐は言います。

「我々の一番偉い神様はどなたですか」

「それはもちろん天照大神様です」


「ほら……」


 白狐は得意げに尻尾をゆらめかせました。


「……つまり、親方日の丸ですから」


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