雑談と拝聴。

結婚してわりとすぐのころ。


私が夜ごはんの時に、夫も知ってるあるアナウンサーが自分と同郷なことがわかって驚いたって話をしたら、いつも私の顔をあまり見ない夫がチラッとこちらを見て、一部語気を強めて言った。


「そういう話、興味ない」


私は唖然とした。

いや、男の人が有名人、ましてや自分とまったく関係ない人のどうでもいい話をすることをあまり好まないことは、よーく知っている。

だけど、夫もそうだとしても、興味ないとハッキリ言ったりしないだろうと確信していた。


それに、男の人が本来どうであろうと、私はそういう話もしたい。真剣に聞いてくれないとしても、話すこと自体を咎めたりされたくないし、聞いてくれなくても、言いたい。

言える関係でありたいし、言える環境にしておきたい、ということでもある。


なので、これをいい機会として、私は勿体ぶって言った。

こういう話をするのが結婚というものであり、こういう話ができるのが夫婦なんだ、と。


当初から、夫は人付き合いが苦手で、ましてや誰かと暮らす(=結婚)って、どういうふうにしたらいいかイメージが湧かないなどと言っていたので、こういう件では私は若干優位にいるつもりで物を言う。


「あのね、いい言葉、教えてあげる。

私が興味ないこと言ってるなーって思ったら、とりあえず全部しゃべらせてから『ふぅーん』って言えばいいの。

ただ一言、『ふぅーん』って」


そう言ったら、夫は納得しない様子で言った。

「それって、いかにも上の空で、聞いてないって感じの返事じゃない?」


「興味ないって面と向かって言われたり、そういう話するなって言われるよりずっといいよ」と私は答えた。


「あのね、オンナはとにかくしゃべりたいの。

最悪、相手が聞いてないとしても、気持ちよくしゃべれたと思えれば、だいたい満足するもんなの」


そこまで聞くと、夫は解せないといった表情ながら「ふぅーん」と言った。



一方の夫は、自分のことをあまり話さない。

滅多に話題も振ってこないので、たまに自分からふつうの話をしてくる時など本当に貴重に思えて、それだけで私は幸せを感じてしまうくらいだ。

惚れるとは、かくも安上がりで弱い立場に置かれるということなのだ。



さておき、そんな夫なので自分からは意見もあまり言わない。

こちらから意見を求めても、明確な答えが返って来ないことも。

ある時、私がいつものように「どう思う?」と訊くと、

答えに窮したあげく「わからない。ふだんからよっぽど興味があって考えてることじゃない限り、たいていは自分には意見というものがない」と言った。


「人が熱く自分の主張を語るのを見ると、あぁ、自分は空っぽだなぁと思う」のだそう。


いや、そんなに大げさに考えなくても。。。


たぶん、その場で思いついた感想が言えないのだ。


真面目というのか、融通がきかないというのか、テキトーに流せないというのか、変なところで責任感が強いというのか。

いつだったか、「仕事がら、裏の取れてないことを不用意に口にできない」と言っていた。


そんな夫から見たら、私はさぞ、その場のノリだけで思いついたことを無責任にペラペラとダダ漏れさせている人なんだろう。いや、それが雑談だと思うんだけど。


今でも、夫はカジュアルな雑談(←どーでもいい話、とも言う)はあまりしない。

そして、私のする話が夫の興味のない話であればあるほど、そうとわかった時に「拝聴させていただきます」って感じで、一瞬姿勢を正す(身構える?)。


それが可笑しくて、そのたびに私は「この人、いい人だなぁ」って思う。

夫婦はそういう話でもしたり聞いたりするもんだって私が言ったのを、律儀に守ろうとしてくれてるのだ。


ちなみに、どういう話だと夫がノッてくれるのかというと、

第一にはやっぱり、音楽とか科学とか、夫の得意分野の知識を披露するような話ということになる。

質問するとすごく詳しく教えてくれるので、私の方は勉強になって助かる。

そのへんは、私が夫に惚れた理由の一つでもあるのだ。

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臆面もない日々ー私たち夫婦の物語ー たまきみさえ @mita27

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