かぎろひ

作者 宗像弘之

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★★★ Excellent!!!

万華鏡のように様々な顔を見せる淀川。
そこには太古の昔から現代まで途切れることなく流れている歴史という記憶がある。

悠久の刻の中、わたしたちが出あう風景は一瞬に等しい。
定年を迎えたご夫婦が、「母なる淀川」のほとりを歩き、その目で見つける小さな幸せ、今だからこそ出会える人々の笑顔をまるで一編の詩のように語られています。

一年という長さがより貴重と感じられる時間の中で、限られたほんの数瞬だけ垣間見える「かぎろひ」を記憶に焼き付ける情景がこれまた美しいです。

★★★ Excellent!!!

 この話を読んだとき、社会人経験も浅い僕は、定年退職した人生の先輩である宗像さんに、一つの物事の見え方をご教示頂いた気がした(人生観と言いたいが、少し大げさかもしれないと思ったので、こちらにした)。
 作中で、宗像さんの世代は仕事が人生ということが書かれていた。僕たちの世代は、ワークライフバランスという言葉があるように、会社に人生を捧げるのは何か違うという空気の中で育った。そのため僕たちの仕事とプライベートの間には、きっちり線が引かれ、仕事終わりや休日は仕事仲間と何をするでもなく、ただ、自分の趣味に没頭し、自分の世界を楽しんでいる。

 宗像さんが定年退職をし、奥様から淀川の散歩を提案されるまでの空白期間、文中には深く掘り下げられてはいないが、筆舌に尽くしがたいものがあったのではないかと推測する。僕は宗像さんではないので完璧に理解できるとは口が裂けても言えないが、僕も空白期間を経験し、何者でもない時期を味わったことがある。この模索の時期というのは、空虚でもあり、大変苦しい。

 話は脱線してしまったが、宗像さんが淀川の散歩を始めてから、今まで傍にあったはずの淀川の顔が、段々と見えてくる。
 季節が変わるごとに彩りも変わる、多種多様な花々。どこからか聞こえてくる鳥の声。そして、人や生活様式は時代とともに変わりつつも、それでも変わることなくそこにあった淀川沿いの生活。

 かぎろひなどの素敵なイベントも淀川では見るが、一番大事だと思ったのは、淀川が中心の生活でありながら、仕事や趣味だけに没頭しているだけでは見えてこないものが、自分の最も身近にあるということだ。

 陽の光を活力とし、すれ違うたびに挨拶する仲の淀川沿いの住人や、淀川の主、季節が変わるごとにこちらに見せる顔を変える自然。そして十二月の心の中がしんと静まり返る冷たさの中で見るかぎろひの美しい描写。これがあったから、… 続きを読む