エピローグ③:清谷陣太
簡素な会議室で清谷陣太は上司である小山田部長と向き合っていた。
それほど広い部屋ではないが、2人しかいないためにどこかガランと感じられる。
口を開いたのは小山田だ。
「本当に、辞めるのかね。」
口調には率直に陣太を惜しむ気持ちが表れている。
「はい、いままで大変お世話になりました。最後に、職場をお騒がせしてしまって申し訳ありませんでした。」
陣太が頭を下げる。
「いや、確かにあの動画は部内で騒ぎになってしまったが、君の行い自体は誰に恥じるものでもなかっただろう。」
小山田の言う動画というのは、数週間前に動画投稿サイトにアップロードされたもののことだ。
内容は、陣太が通勤電車で痴漢を叩きのめした時の一部始終。
再生回数は大したことが無かったのだが、運悪くその存在が職場の中で広まってしまった。
小山田の言ったとおり、女性を助けたこと自体は誰に非難されることのない行動だったものの、その時のチ○コを勃起させての変態アクションに一部からかなりの拒否反応があったのだった。
「いえ、やはり私がいると働きにくい方もいるようですし、私自身も少々いづらいですから。」
「そうか、次の仕事は決まっているのかね?」
「はい、幸いにも声をかけてくださる方がいて、そちらでお世話になろうかと。」
「それならよかった。次の職場でも頑張ってくれ。」
小山田が立ち上がって右手を差し出してくる。
「はい、いままでありがとうございました。」
握手に応じ、一礼して会議室を後にする。
その後で自分のデスクとロッカーに立ち寄り、手早く私物をまとめる。
段ボール1つ分の荷物を抱えて玄関に向かうと、そこに桃山姫子が立っていた。
「清谷さん」
申し訳なさそうな表情の姫子に対して、陣太はへらっと笑いかける。
「お疲れ様。桃山さんにも世話になったね。」
「すいません。私、何にも出来なくて」
「そんなことないよ。ずいぶん、助かった。次の職も決まってるから、心配しないで」
動画が騒ぎになったとき、姫子は陣太のことを擁護してくれた。
焼け石に水の場面も多かったが、理解者がいることに陣太はかなり慰められたのだ。
「でも、」
「まあまあ、勝手な話だけどさ。俺、桃山さんのことは一緒にハイ○ースの奴らと闘った戦友みたいに感じてんだよね。」
「戦友、ですか。」
ピンとこないのか、首をかしげる姫子に陣太はうなずきを返す。
「そう、貸し借りなしの対等な仲間って感じかな。だから、謝ったりはあんまりしてほしくなくて、その代わりにさ。」
「なんですか。」
「また、俺が困ってたら助けてよ。俺も、桃山さんが困ってたら出来る限り助けるからさ。」
「なるほど、分かりました。」
笑顔になる姫子。
陣太はそれを見て「やっぱりおっぱい大きいな。」と思ったが、なんとか邪念を打ち消した。
代わりに荷物を地面に置き、右手を差し出す。
「じゃあ、またどこかで。いままでありがとう。」
「ええ、なにか困ったことがあったらいつでも呼んでください。」
そんな風に本日2度目の握手を交わし、陣太は職場を出た。
通い慣れた通勤路を荷物を抱えて歩く。
天気は良く、日差しは暖かい。まるで散歩でもしている気分だった。
いつもショートカットのために通り過ぎている児童公園に入ると出口に1台の車が停まっているのが見えた。
(約束通りだな)
などと感心しながら歩いて行くと、2mほどの距離で後部座席のドアが開いた。
「時間通りね。まあ、社会人としては最低限のマナーといったところかしら。」
そう言って笑みを浮かべたのはご存じ、女王様系性闘士の九院麗華だった。
「お疲れ様です。お迎えありがとうございます。」
頭を下げる陣太に麗華は乗車を促した。
「さあ、乗ってちょうだい。私たち、“
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
陣太が乗り込むと、運転席に座っていた下部恵夢がなめらかに車を発進させた。
「以前に伝えたとおり、今日はこのまま性闘士同盟の支部で仲間との顔合わせをしてもらうわ。大丈夫よね」
性闘士同盟、それは世の陰で悪逆の限りを尽くす
「はい、もちろんです。」
答える陣太の声に迷いはなく、その拳はこれから待ち受ける戦いの日々に備えるかのように、固く握りしめられていた。
陣太たちの戦いはこれからだ!!
ご愛読、ありがとうございました。
性闘士セイヤ @hey-g
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