末人たちに贈るあまりにも人間的なヤンデレ的悲劇の誕生

かつてイエスには12人の使徒がいたが、ニーチェには妹がいた。
『唯一真実のキリスト者』は使徒たちによって道徳に仕立て上げられた。
その道徳を憎み、本物のイエスを讃えようとした男がいた。
『この人』は妹によって第三帝国の道徳に仕立て上げられ損なった。
イエスは使徒たちによって復活したが、ニーチェを復活させようとした妹には奇蹟は与えられなかった。
使徒たちのうそは本物となり、ただ1人の妹のうそは本物になり損なった。
しかし、すれ違う兄妹の感情は確かに道徳を超越していた。
リースヒェンの『あこがれの矢』がうそをのせて末人達の心臓を射る。
ある意味でディオニソス的なニーチェに対してアポロン的なリースヒェンの二人が紡ぐ物語は不協和音にきしみながら一個の運命としての二つの悲劇的結末に至る。

このレビューの作品

うそつきリースヒェン