同居生活は始まる
俺が学校から帰ってきても彼女はいなかった。
彼女は部活動をやっていないしそろそろ帰ってくるような時間なのに。
今日も彼女は学校でボッチだった。
学校に入ってきてからずっとボッチだ。
そういえば俺と付き合っていたときもボッチだった。
なぜあの時の俺は彼女と一緒にいなかったのだろう。
思い出せない。
洗濯物を取り込み畳む。
米を炊き、味噌汁をつくる。
干物を焼いておひたしをつくる。
我ながら少し渋い。
そういえば彼女が来てから久しぶりに誰かに食べてもらえるご飯を作ったような気がする。
彼女は絶対においしいって言ってくれるから、ご飯をつくることもいつもより楽しい気がした。
夜7時
ご飯をつくり終えていつもご飯を食べている時間になった。
でも彼女はまだ帰ってこない。
連絡をしようかとケータイを取り出したが──
しまった。
連絡先を知らない。
前に付き合っていたときは電話もメッセージアプリも交換していたのに。
そういえば消してしまったんだ、別れたときに。別れてから、いや彼女の過去を知ってしまってから距離をおいていた。
まさか困ることになるとは思っていなかったわけで。
どうしようか。
でも連絡する手立てがないわけで、もう待つしかないと思う。
諦めて待っていた時、家のドアが開いた。
彼女が帰ってきたのだ。
「遅くなっちゃってごめんなさい。」
入ってすぐ彼女はそう言った。
顔は赤くて半泣きだった。
「いや、別に。」
俺は半泣きな女の子相手が相手なのにぶっきらぼうな言い方しか出来ない。そんな自分が嫌になる。
本当はすごく心配したのに。
今でも心配してるのに。
何があったのかをすごく聞きたいのに素直に聞くことのできない自分がいる。
多分援交。多分援交だ。
なぜだか自分にそう言い聞かせていた。
「ごめんね。」
なんでそんなに謝るのか?
謝る必要はないのに。
「謝られても困る。」
俺はどうやら、あまのじゃくらしい。
俺は彼女に冷たいことを言ってしまった。
彼女にそんなこと言ったら傷つけてしまうとわかっているのに。
「そうだね」
彼女は泣き笑いをした。
頑張っている、頑張って笑っている。
そんな笑い方だった。
「飯、食う?」
「そうだね。」
今日は彼女はおいしいと言ってはくれない。
無言の空気の中、食事を終えた。
「お風呂入ったら。」
「ああ」
「あのごめんね。」
風呂へ行こうとしたらまた謝られた。
そんなに謝らなくてもいいのに。
何があったのかは気になるけど、きっと俺には関係ない。
関係ない。
関係ない。
関係ない──関係ない
関係ない。
関け──俺はなぜこの言葉を繰り返している?
アアアアア
思い出したくない。
頭がいたい。アアアアア
嫌だ。
自分がい──
「どうしたの?」
ハッとして我に帰る。
俺は頭を抱えて立ちすくんでいた。
なんか今の自分は変だった。
はあ。
疲れているのかも知れない。
「ああ。別に。」
「そっか」
風呂へ行く。
脱衣をして身体を洗い湯船に入る。
ゆっくりと浸かると疲れが湯に溶け込んでいく気がした。
はあ。
何度目かのため息をつく。
彼女がいると自分が変だ。
理性じゃないもので動いてしまいそうだ。
なんでだ──
ガラガラと風呂場の引き戸が開かれた。
っ!?
咄嗟にオレを隠す。
「一緒に入ろ」
裸の彼女がいた。
白い肌も大きな胸も恥ずかしげもなく披露をしている。
見てはいけない。
目をそらそうとするのだけど、見てしまう。
理由は俺が男で彼女は女だからだ。
「なにしてんの?」
彼女の行動の意味がわからない。
なんでこんなことするの?
男だから喜んでしまう。
だけど1人の人間として喜べない。
「雄二くんはいいよ。私の身体。」
意味がわからない。
だけどそんなこと考えている間に彼女は湯船に入ってくる。
「二人だと狭いね」
何て言って身体をくっつけてくる。
何をしているんだ、彼女は。
「辛いよ。」
そして彼女は泣き出した。
「私は邪魔だよね。せめてさ、私で遊んで。」
彼女は顔を近づけてくる。
どうし──
酒臭っ!
えっ?何で?
「酔ってる?」
「ふぇ~、そんなことないよ。」
確かに帰ってきたとき顔が赤かったような。
嫌、でも酔ってはいなかったはず。
「ねえ、抱いていいよ。」
「抱かないから。」
「雄二くんの身体はヤりたがってるよ」
まあ身体は反応してしまう。
男の子だから。
「違うから。」
「ホントに?」
っ!?
艶っぽい瞳で上目遣いをされた。
不覚にもドキドキしてしまう。
こんなに大人っぽくてキレイな顔になるとは。
さっきからその大きな胸も当たっているわけで。
理性を守らなければ...
これは少しやばいかもしれない。
「エッチして───ふがっ」
...。
寝た。
こんなにいいところで寝るか?普通。
え?寝たじゃん。
どうしよう。
とりあえず風呂から出そう。
裸。裸。
ど、どうしよう。
身体を拭くのか?
俺、そんな勇気ある?
でも俺は童貞じゃないし、大丈夫だ。
だってこのまま放置したら(湯の中に)明日には死んじゃうし。
俺ならいける。
ごめんなさい。
そーっとタオルを当てて、拭いていく。
胸、どうしよう。
ふにん。ふよん。
──って駄目だ。駄目だ。
理性が、つぶれそう。
下腹部とか駄目ですよ。
昔は触っていたのに。
駄目だ。駄目だ。
はあ。
身体を拭いたら、服を着せる。
下着を着けて──ってブラってどうつけるんだろう?
なんとか着けてこんどは俺のスエットを被せる。
「ん?」
彼女が声をあげたが、まだ夢の中らしい。
よだれがついていたので脱ぐってあげた。
なぜだか彼女は今日は無防備だった。
はあ。
**
部屋に戻って見たらテーブルに料理酒が倒れてあった。
中身は空だった。
ほとんど使っていないのに。
飲んだのか?
まさか俺が風呂に入っている間に料理酒を飲むなんてすごい衝撃。
それで酔っぱらって一緒にお風呂に入ったのか。
1人で考えていたらベッドから声がした。
「ごめん」
彼女は寝ている間も謝っていた。
二人暮らしは元カノと。月並みラブストーリー らむにくん @ramunikun
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