いつかの二人暮らし

藤原くんは一人暮らしらしい。

学校ではボッチの私にもその情報は入ってきた。

一人暮らしなら彼女を家に入れれるのかな。

そんなことを考えた。


学校が終わった。

今日は熱海さんの家に泊まれる。

良かった。今日はご飯が食べられそうだ。

「ただいま。」

「お帰り、飛鳥ちゃん。」

彼は私の偽名を呼んだ。

この人はニートだ。

だけど貯金があるらしく私をいつも泊めてくれる。

「飛鳥ちゃんが学校行ってて寂しかったよ。」

唇をなめ回しながらそう言う彼はすごく気持ちが悪い。

「私も熱海さんに会えなくて寂しかったです。」

上目遣いでそう言う。

そんなことこれっぽっちも思ってないのに。

顔を見るだけでも吐きそうだ。

もう慣れたはずなのに。

熱海さんといるのは辛かった。

彼女がいないからかいつでも家に泊めてくれたし、私に優しかった。

けど本音をいえば無理だった。


何日かあと藤原くんを屋上に呼んだ。

「藤原くんのことが好きです。付き合ってください。」

そういった。

別に彼のことは好きじゃない。

嫌いじゃないけど。

だけどうまくいけば家に泊まれるかもしれない。

男子高校生なんてみんな彼女を欲しがってる。

そういうもん。

だからOKしてくれると思った。


そして予想どうりのOK。

事情を話したくないから今すぐ彼の家に泊まるのは無理だけど、付き合ってけば泊まってもいいよね。

そう考えて今日も熱海さんの家に泊まった。


しばらく熱海さんの家に泊まり、学校に行って、藤原くんとデートして、また熱海さんの家に帰る...そんな毎日だった。


けれど熱海さんにバレてしまった。

藤原くんとデートしていたことが。

よるに家を追い出された。

夏とはいえ寒かった。

本当にどうしようって考えた時に藤原くんに電話した。

「もしもし、藤原くん?」

「何?」

「今日泊めてくんない?」

「どうしたの?」

「お母さんとケンカしちゃって...」

嘘じゃない。1年とはいわなくてもずっとくらいケンカしぱなっしだ。

「いいよ。今どこ?迎えに行く。」

藤原くんも優しかった。

それが申し訳なかった。


何日か藤原くんの家に泊まった。

何日も藤原くんの家に泊まった。

何ヵ月か雄二くんの家に泊まった。

何ヵ月も雄二くんの家に泊まった。


雄二くんはいつも家に泊めてくれた。

ご飯もついでだからって言ってつくってくれた。

すごく優しかった。

けど、お金がなかった。

お金は貰えないから。

そんなのワガママだなって自分でも思う。


けど、お返しをしてる。

そう思っていた。


社会人と違って高校生どうしの同居は罪にはならない。

だから相手の負担は少ない。

実際、雄二くんが私に負担したのはご飯のお金くらいだった。


そして私は体を許していた。


これで私はお返ししているつもりだった。


***

お金がないならどうするか。

働くしかない。

その時の私のなかの働くはエンコーだった。

親の許可が不必要なアルバイトは決して多くないし、予定が不安定だからシフトもいれにくい。そもそも学生のアルバイト代なんてたかがしれている。

私はその程度のお金じゃ生きていけない。


土日だけでもいい。

履歴書もいらない。

お金も結構貰える。

体を許すのになれてしまった私にとっては天職だった。


そもそも居候している私が何にお金を使うかといえばピルだったり整理用品、学校で使うものだとか男性があまり買わないものだったりする。額としてはそこまで大きくない。

実際雄二くんの家に泊まっているうちもそれは必要だった。

でも誰かの家に泊まれないときなんてよくある。その時はネットカフェにとまったりご飯を買わなきゃいけなかったりして結構お金がかかる。

つねにお財布にお金がある状態でいないと明日生きていけるかもわからないのだ。

お金が必要だった。

だからエンコーをした。

援交をするしかなかった。

必要以上にからだを触れられた。

気持ち悪いおっさんに迫られることもあった。

でもお金のためだと思って我慢した。

耳元でささやかれる『可愛いね』っていう声が嫌すぎた。

気持ち悪い。

汚い。

やめたかった。

だけど、お金がないよりはましだった。


その日はちょうど田中さんに遊ばれる日だった。

お金には少し余裕があったけど貯めておきたかったからエンコーすることにしたんだった。

「こんにちは!みおんです。」

「よろしくね。」

げへげへとした気持ち悪い50代のおじさん。

ハゲ散らかした頭は醜くて生理的に受け付けそうにはなかった。

「カフェ行こーよ!」

「いいよ」

そういって手を絡めようとしてきた。

「手、繋ぐのは3000円だよ!」

「わかったわかった。」

手汗がべたべたして気持ち悪い。

でも我慢してカフェ行ってそのあとカラオケも行った。

カラオケ行こうって言われたとき襲われるのかなって思ったけれど、それはなくて本当に良かった。

「恋するフォーチュンクッキ~♪」

ノリノリで歌っているおじさんに合わせてあげていた。


そのあとこう言われた。

「ホテル、行こ」

気持ち悪い。 

吐きそう。

でも笑顔で

「いいよ。10000円ね」 

って言った。

嫌だ。

でも行きたくないなんて言えない。


手をつないでホテルまで歩くことにした。


「おい!」

誰かに話しかけられた。

振り返ると雄二くんがいた。

「雄二くん!?」

最悪。

いくら好きではないとは言え彼氏の前でおじさんと手をつないで歩くの見られちゃったよ。

雄二くんに振られるかもしれない。

そしたら今日泊まるところはない。


場所を変えて話すことにした。


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