これはつまり、なんですか?
名詩さんと出かけた次の日。今日は部室に来ていた。というのも弐闇先輩に呼び出された。話したいことがあるからとか言っていた。何の話か予想がつかないけど、何か大事な話があるんだろう。
「文化祭のことですか」
「いや、それは違うね。今回は別件さ。ほら、日曜日会ったじゃないか」
「そのことですか。会いましたね、でも何かありましたっけ」
「ほら、無理をしているって言うじゃないか。その辺りどうなのかなと思ってね。とりあえず座るといいよ」
「はい」
部室にある長机に。弐闇先輩のちょうど反対側に座ろうとしたら止められた。
「わざわざ遠い所に座らなくてもいいじゃないか。隣に来るといい」
「いやでも」
「でももへちまもないよ。ほらこっち、隣に来るといい」
「わかりました」
これはなにを言っても聞いてくれそうにない。おとなしく座った方が話も早く進むかな。
「それで何なんです」
「いやぁ疲れてるっていうから、癒してあげようかと思ってねぇ」
「癒すって、わぷっ」
「私はそれなりに胸がある方だと思うんだがどうだろうか」
急に弐闇先輩に抱きしめられた。香水なのかいい匂いがって!
「もがふがんん!」
「聞こえないなー」
なんで逃げれないんだ、弐闇先輩の方が力強いっていうのか。やばい、藻掻けば藻掻くほど、胸の感触が顔にあたって。
「なんで逃げれないか教えてあげようか?」
弐闇先輩の言ってることが理解できなかった。だってこの言い方じゃ、本当は逃げれることになるからだ。じゃなければこんな言い方はしない。
「疲れてるんだよ。もちろん日常生活とか、バイトをするには問題ない範囲でだろうけど。こうして抱きしめられて、いざ逃げ出そうとしたときに本来出せるはずの力が出せないくらいにはね」
そんなはずはない、と言いたいけど。この状況がそれを否定している。だって実際俺は逃げれないでいる。藻掻いても藻掻いても、弐闇先輩からにげれない。だから、本当だと思うしかない。
「理解できたなら、休むといい。今日はバイトは休みなんだろう?家に帰ればどうせ家事をして休まないんだ。部活の時間くらいは、休むこと。これは部長命令だよ。返事」
「わかり……ました」
逆らいようがない。弐闇先輩にこうして事実を突きつけられたんだから。
「じゃあ、そこのソファーで寝るといい。私が膝枕をしてあげるから」
「いや、そこまでしなくても」
「読書は膝枕しながらでもできるし。君も枕がないと寝れないと思うんだけどね」
部室のソファーは背もたれはあるものの、ひじ掛けがない。自分の腕を枕にすればいいだけだけど。それじゃあ休まらないって弐闇先輩は言いたいんだと思う。
「お願いします」
「素直なことはいいことだ」
弐闇先輩が、ソファー座って。その膝の上に頭を載せて横になる。仰向けだと弐闇先輩の胸が目に入って。見ちゃいけないと、横を向いた。お腹とは逆の方、部室が見えるように横になった。
「別に私の胸やお腹を見てもよかったんだけどね。初めてじゃ仕方ないか、そのまま眠るといいよ」
弐闇先輩の膝の感触が、弐闇先輩の体温が。眠気を増幅させていく。静かな武士府に響くページをめくる音が、息遣いが心地よい音に聞こえてさらに眠くなってくる。
依存させたい彼女達は、逃げる彼を追いかける 幽美 有明 @yuubiariake
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