かんぜんちょーあく
naka-motoo
ぜんをすすめてあくをこらしむ
「えー、賛成多数で『
議長の発声と同時に立ち上がり四方八方に向かって礼をする首相。
続けて一年生議員がおもむろに立ち上がる。
「ではこれより大先輩である議員の皆さんには『孤独の山』へ移動していただきます」
ざわつく議場。
「沢田議員。なにを言っているんだね」
「新部センセイ。この国民生活に根本からの転換を迫るような法案を成立させたわけですから決定した方たちが自ら率先して行動していただかないと」
「な、なにを言っておるのか!どうして私が『孤独の山』へ行かなくてはならぬのか!?」
「センセイはお幾つですか?」
「そ、そんなことはどうでもよかろう。私は早くこの法律の施行準備をせねばならん」
「で・す・か・ら!まずヨボヨボのアンタが行け!っつてんだよ!」
「なんだと!貴様ぁ!」
「ほらすぐキレる。年はとりたくないわねえ」
「まあまあ沢田議員」
「なんですか、総理」
「新部センセイはこれまでの議員活動を通じて大きく国政のために尽くして来られましたよ。それを考えれば労をねぎらうことこそあれ『孤独の山』へ送るなどそれはあまりでしょう」
「総理はお幾つですか」
「なんですって?」
「総理も行っていただかないといけません。『孤独の山』へ」
「私が居ないと国民が困るだろう?」
「いえ。別に」
総理不在で政治が進んだ。
ただ、それもひと月と続かなかった。
「高齢者の定義を変えます」
ざわつく議会。
「何を、どう、変えるのかね」
「高齢者の年齢を引き下げます」
「何歳に・・・」
「40歳以上。これを例外なく高齢者とします」
「私は若い」
「でも私よりも若くない」
孤独の山とは、姥捨て山のことだった。
山は
40歳以上の人間が押し込められ、最初は熊や山犬、狐狸等が手頃な餌を確保できると襲いかかって来たが、要は地面の面積を埋める老人たちの体躯の数的優勢が圧倒して生態系を崩し尽くした。
だが、それでも充足できない。
老人たち自らの餌を。
共喰いが始まった。
だが思い起こしていただきたい。
例外なく40歳以上が山に居るのだ。
欲すくなきひとたちは自らの命を譲るかのように静かに餓死か凍死をし、残った餓鬼どもの食糧となることに甘んじた。
欲深き老人どもは下山をも試みた。
が。
ドゥグラタタタ!
「ぎぃやぁあああああ!」
山の麓との境界の手前100mまで漸近したものどもは肉の塊と判断され、AIと銃器を搭載したドローンに全員駆逐された。
日本は国土の7割が山林だという。
そしてその山々は本来山の神々が治安したまう神聖なエリアなのだ。
決して倒木してはならぬ神木や神秘の沼がそこにおわす静寂の地であるはずだった。
だが、無秩序に延命のみの技術を発展させたノーベル賞受賞者どものおぞましき研究の結果もはや『天寿』ではなく平均寿命という数値データでしかなくなった命は、この国土を荒廃させた。
「燃すか」
被選挙権も18歳に引き下げられたまだ20歳の首相が下した山に火を放つという『法案』は可決され、日本初の女性首相となった彼女は高齢者福祉政策に英断を下したと後世に評されることとなる。
国土の半分が燃えた。
そして、同時にこの国の平均年齢が30代にまで一気に若返った。
訳のわからぬ海外の格付け機関による日本国債の格付が一気に世界のトップに躍り出た。
ただ、単なる弱小ロビイスト組織と成り下がっていた環境問題の国際的活動家たちからは非難を浴びた。
「大量の二酸化炭素を発生させたのみならず膨大な森林を焼失させた」
不思議なことに老人どもを焼き殺したことへの責任については世界の誰も触れなかったが。
これに呼応した20歳の女性首相の国連でのスピーチはたった一文。
「
私利私欲・自己実現。
こういうことを基に古の、『老親に対する扶養義務、舅・姑に対する扶養義務』や、『どこか遠くの助けたい人間を助けるのではなく、嫌いだけれども助けなくてはならぬ身近な人間を助ける』ということに心身を砕くひとたちの努力をないがしろにした一連の施策は、この世に修羅場を自ら作り出した。
いわばそれは『地獄』を人間自らが自分たちで勝手に生み出してしまうというおぞましき所業であった。
その政治的・経済的・道義的結末を導き出した我らは。
全員、閻魔大王の前に出向いた時、ホンモノの地獄に堕ちた。
かんぜんちょーあく naka-motoo @naka-motoo
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