第3話 差出人不明の手紙

 久しぶりにお手紙を書きます。

 歌穂さん、お元気でしたか?


 社会人はつらいとのこと、よくわかります。私も組織のために自分を曲げたり本音を言えなかったりすることがあり、つらい経験をしました。一度は辞職も考えましたが、上司に説得されて泣く泣く踏みとどまりました。当時はなぜ解放してくれないのかという憤りもありましたが、私の能力を高く買っているからこそのことだったと知り、のちに和解しました。今では、戦友のような仲です。不思議です。


 逃げずに戦うべきだとは言いません。逃げることが最善なら、そうすべきです。大切なのは、1人でもいいから味方がいることだと思います。会社でなくても、家族や友人でもいいのです。相談したり愚痴をこぼす相手が1人いれば、とりあえず人は生きていけると思います。


 SNSにいろいろぶちまけて発散するのもそれなりに効果はあるかもしれませんが、親身になってくれる人ばかりではないので注意してください。「ラメン大好きっ子の友」というアカウント、歌穂さんのでしょう? この前偶然見つけました。歌穂さんからの手紙をもらったことがないのに状況が手に取るようにわかるのは、そういうわけです。(私はエスパーではありません。)情報を扱う職種の人間として言わせてもらいますが、個人が特定できる情報はみだりに公開しないほうが無難です。


 かなり説教くさくなってしまいました。すみません。どういうわけか歌穂さんを見ていると心配で、お母さんのような気持ちになってしまいます。母の顔など知らずに育ったのに、不思議です。


 さて、(本題はここからです)、前述の上司とともにこの数年間進めてきたプロジェクトが、いよいよ山場を迎えます。詳しい内容は機密事項なのでお話しできませんが、この成否が人類にとって大きな転換点となるといっても過言ではありません。


 もしもプロジェクトが成功したら、いっしょにラメンを食べに行きましょう。もちろん、私のおごりです。



 地球より愛をこめて

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地球より愛をこめて 文月みつか @natsu73

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