エピローグ

 バレンタインデーに俺と友火は恋人同士になり、この事はすぐにクラスの生徒たちに知れ渡る事となった。

 手を繋いで二人で帰ったり、お互い名前の呼び方が変わったりと数日間見ていれば気付くことではあるが。


 クラス内では話題の中心になってしまい、男共からは嫉妬からの怨嗟えんさの声、意外な事に女性陣からは祝福の声が上がっていた。

 友火に惚れている男子も多かったので他の女子にライバル視されることも度々あった。その友火に彼氏ができた事で彼女を諦める男子が増えたからだろうと推測される。


「それにしても冬人と友火さんがカップルになるなんて一年前には想像もつかなかったよ」


 大介が俺も頑張ればイケたかなぁ? とか言っている。


柳楽やぎら、お前には無理だったと思うぞ。秋月とはあまりにも不釣り合い過ぎるな」


「誠士、お前も辛辣しんらつだなぁ。少しはお世辞とか言えないのかよ」


「大介にお世辞言っても調子に乗るだけだからな」


「冬人……超可愛い彼女ができたからって調子に乗りやがって……羨ましいぞ! 爆発しろ!」


「まあまあ、柳楽くんも話は面白いし何より友情に熱いですからね。きっと良い人見つかりますよ」


「桐嶋ぁ……リア充のお前に言われるとなんかなぐさめられてるみたいで腹が立つな」 


「柳楽くんはそうやってヒネくれてるからモテないんだよ! うちのクラスの女子の間では、柳楽くんてチャラそうだし浮気しそうで無理って言われてるよ」


「春陽……そっちのクラスで俺はそんな評判なのか……?」


「そうだね、ぼくのクラスの男子生徒の間では、いつも女子の尻を追っ掛けてる奴、って言われてるかな」


「ぐはっ! 歩夢……お前たちのクラスで俺の評判は最悪なんだな……さすがの俺でも傷付くぞ」


「でも、ほら柳楽先輩って雰囲気だけはイケメンだから大人しくしてればモテるかもしれませんよ?」


「なんか言い方がちょっと引っ掛かるけど美冬ちゃんはちゃんと見てくれてるな。俺なんてどう?」


「大介、俺の可愛い妹を口説こうとするなよ。お前だけは絶対に認めんぞ」


「相変わらず冬人先輩わぁ、シスコンですねぇ」


「ちょっとアンタたち少し静かにしなさい! 電車の中で迷惑になるでしょ!」


「秋月先輩、怖いですぅ。アノ日ですかぁ? ヒステリー起こさないでくださいよう」


「ア、アノ日って……ち、違うわよ! 夏原さんも静かにしなさい」


「はあい、冬人先輩貸してくれたらぁ大人しくしまぁす」


「それは却下!」


「秋月先輩はケチですねぇ。減るもんじゃあるましぃ」


 この騒がしい面子を引き連れて俺たちは秋葉原に向かっている。

 何を隠そう今日は友火の本の発売日なのだ。平積みされているのを見に行こうと大介の提案でこうしてみんなで電車に揺られている。


 春陽と夏原は今までのように、とはいかないが皆んなで集まって遊びに行ったりするようになった。夏原と友火は相変わらず仲は良いとは言えないが。


 平日の放課後なので全員制服なのだが、このメンバーは目立つことこの上ない。その上、騒がしいときた。俺からも静かにするように釘を刺しておかなければ。


「友火の言う通り静かにしろよ。学校に苦情がきても知らないぞ」


「なあにが“友火“だ彼氏面しやがって、このリア充め……冬人、もう一回くらい爆発しろ!」


「柳楽くんの負の感情が凄い! もっと油を注ごう!」


 春陽が面白がって大介という炎に油を注いでいる。お願いだから静かにしてください……。


 大介のお陰で目的地まで収集はつかず騒がしいまま電車から降りた。同じ車両の皆さん騒がしくしてゴメンナサイ。


「友火、どこに見に行きたい?」


「冬人が決めたとこなら私はどこでもいいよ」


「はぁぁ、名前で呼び合ったりして見せつけてくれるねぇお二人さん。ラブラブじゃないっすか」


 大介が秋葉原に到着してからも騒がしい。学校に置いてくればよかった。


「やっぱり最初は“コミックうまのあな“からがいいと思うよ」


 そんな訳で歩夢の意見を採用しコミックうまのあなから偵察しに行くことにした。



 店に到着し俺たちは早速ラノベの売り場へと向かった。それにしても大所帯の俺たちはハッキリいって目立っている。


「なんかドキドキしてきた……」


 友火が緊張した面持ちで売り場を見回している。自分の本が並んでいるのだから俺たちには分からない緊張感があるのだろう。


「友火一緒に探そう」


 俺はそう言って友火の手を引き新刊コーナーへと手を繋ぎながら歩みを進める。


「あ、あった! 冬人、あったよ!」


 自分の小説を発見した友火が喜びの声を上げた。本は新刊コーナーに平積みで置かれていた。

 発売前から注目度も高かった為、この店ではかなりの冊数を仕入れて、タペストリー付き限定版まで売っていた。


「本当に並んでる……友火の書いた小説が」


「ううん……私じゃなくて私たちで作った小説だよ」


 二人で作った作品……その事を考えると胸が熱くなる。本当にここまで来たんだ。


「そうだな……俺たち二人の物語だもんな」


「うん、そうだよ……」


 友火は目に涙を浮かべている。俺も今にも泣きそうだった……でも俺が泣いたら友火も泣いてしまう気がする。しんみりする事ではない。明るく笑って喜びを分かち合いたい。


「うわぁ! これが友火さんの小説だね? 自分の本じゃないけど感慨深いものがあるね。よし! ぼくは限定版買っちゃう」


 同じ書籍化作家として歩夢くんも初めて本を出した時の事を思い出したのだろう。


「歩夢くん、わざわざ買わなくても献本があるから」


「友火さんいいんだよ。こういうのは買う事に意味があるし、喜びを感じるものだよ。ぼくもフレンドリー・ファイヤのファンだから応援の為にもちろん買うよ。本は発売から一週間の売り上げが勝負だよ。その売り上げで重版や続刊が決まるからね」


「そういう事だからもちろん私も買うからね」


「歩夢くん、春陽……ありがとう」


 友火の涙腺がそろそろ崩壊しそうになってきている。泣くなというのは無理があるかもしれない。その時は俺が支えればいいんだ。


「僕もこうして実物を見てると感無量ですね。友達の小説が本になるなんて誇らしいです。もちろん僕も書いますよ。Web版とどう違うのか楽しみです」


 元々、フレンドリー・ファイヤのファンの桐嶋くんは作品を追っているからWeb版も全て読んでいる事だろう。


「これが友火さんの本かぁ……本屋にまで並ぶ小説を書くなんて凄えな。尊敬するよ。もちろん俺も買わせてもらうよ。なあ誠士? お前も買うだろ?」


「柳楽、当たり前じゃないか。大切な友達が書いた本だぞ。それに俺は小説は大好きだからな。たまにはラノベも読みたくなるんだよ」


「しょうがないですねぇ、不本意ですけどぉ私も売上にぃ貢献しまぁす。印税入ったらぁ何か奢ってくださいよぅ。十倍返しでねぇ」


 なんだかんだで夏原も本の発売の事は気にしていたようだ。照れ隠しで見返りを求めるフリをして遠回しに応援するのは何とも夏原らしいな。


「みんな……ありがとう……こうやって本を出せたのもみんなの協力があったからです……グスッ……本当にありがとう……うぅ」


 友火が感動のあまり我慢できずに泣き出してしまった。


「ほら彼氏の出番だよ」


 そう言って春陽は俺の背中を押した。


「友火、よかったな……本当によかった。嬉しいよな。みんなが祝福してくれて……だからいっぱい泣いていいぞ」


 俺は友火の肩を抱き寄せ泣き止むまで頭を撫で続けた。


 俺はコミックうまのあなで限定版を買い、その後も他の店の限定版を買い漁った。


 その後ひと通り大型店を巡り、俺と友火を残して他の面子は先に帰っていった。記念すべき本の発売日に気を遣ってくれたのだろう。


「そんなにたくさん買わなくてもよかったのに……」


 複数の店で買った限定版や特典付きの小説がかなりの数、俺の手元にある。


「まあ、いいじゃないか。特典付きは好きなイラストレーターとかのグッズもあるし俺としては欲しい物を買っただけだよ」


 収集グセがあるので、これでまた部屋に物が増えてしまうけど、これは記念すべき宝物になりそうだ。


「それならいいんだけど……」


 友火はあまり納得していないようだ。まあ、同じ本に一万円以上使ったしな。申し訳ないと思っているのだろう。


「ほら、これは俺と友火と二人で作った子供みたいなもんだから、いくつあってもいいだろう?」


「ふ、二人で作った……こ、子供……」


 あ、なんか言い方がマズかったか。友火は顔を赤く染め固まってしまった。


「そ、そういう意味じゃなくて例えだよ。ほ、ほら共同作業でって」


「こ、子作りは共同作業……冬人は、そ、そんなに私の子供が欲しいの? まだ高校生だし私たちには少し早いよ……」


 あ、なんか話を聞いてない気がする。勝手に話が進んでる。


「で、でも冬人が望むなら……が、頑張るから……ね」


 な、何を頑張るんだ? 友火が暴走気味だ。

 まあ……いつかはそういう日が来るかもしれないけど今はまだダメだよな。本当はしたいけど。


「友火、そろそろ正気の戻れ。もう遅いし帰ろう」






 発売日から十日後、小説の重版と続刊が決定した。


 時期を同じにしてフレンドリー・ファイヤが美少女の女子高生だという噂がSNSで囁かれるようになった。



 ―― 終わり ――



―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


このエピソードでこの物語は終わりです。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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【完結】小説投稿サイトの作品にファンアートを描いたら、学園一の美少女にやたらと相談されるようになった件 ヤマモトタケシ @t_yamamoto777

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