諸々あって2回も留年した末、なんとか卒業までこぎ着けた大学生の“俺”は、元同級生で現在ニートな友人、三好と『マイムクラフト』なるゲームを、あろうことか大晦日の夜に並んでプレイしている。唐突に我に返る彼。しかし状況が一変することはなく、彼と三好は自分を顧みて、薄暗い予感しかない先を思うのだが——その絶望は鮮やかに一変する!
弱者男子がやるせない年末を過ごすだけのお話? ちがいます。ひと言で言ってしまえば最高の友情ドラマです!
登場人物であるふたりは共に、自分がダメな奴だと自覚しています。大晦日というその年最後の特別な日だからこそ、ことさらに噛み締めるわけですね。その有様を綴るだけでもドラマになるところを、著者さんは転じるのですよ。自分のダメさに沈む三好くんを、“俺”くんが最悪なダメさを爆発させながら蹴り起こすという急展開で。
ダメなのに熱い、熱いのにリリカルな読後感をくれる本作、きっと今年の心残りを抱えるあなたを許し、先へ向かわせてくれますよ!
(「行く年と来る年と」4選/文=高橋 剛)
大晦日、留年大学生とその元同級生の無職が、テレビゲームに興じながら通話するお話。
いわゆるモラトリアムを主題とした、暗闇の中でもがきながら前に進もうとする人たちの慟哭でした。
大学生活の終わりと、その先に待ち受ける社会人としての人生。子供の殻を破って外に出なくてはいけない、その未知の世界に対する恐怖。学生らしい視野狭窄と、絞り出した叫びの初々しさともどかしさ。剥き出しの青春そのまんま、という感じが本当に好きです。
ゲーム内世界の使われ方というか、読んでいるうちについ一方的に見出してしまった〝意味〟が面白かったです。今まで彼らの生きてきた『学校』という環境、その箱庭的な構造との対比なのかと思いきや。むしろその逆、これから彼らの進むべき先、手探りで進むしかない暗闇の道を象徴していた、という。ミスリードかそれともただの誤読か、いずれにせよそこが気持ち良かったです。最後に射した一条の光と、その正体を示す伏線(というか予告)も含めて。
同様に、マンションや引っ越しの存在も。タイトルの軽い印象とは裏腹の、迫力のある青春物語でした。
大人ってなんだろう。どうやってなるんだろう。きっと僕らはいい感じに成長して、いい感じに学校に行って、いい感じの仕事につき、いい感じの人と出会って、いい感じに死んでいく。
そう思っていた。
そしてそれは全くの誤りであった。
周りにたくさんいた大人たちはそれ相応に普通であるために努力をしていた。すごい人物に見える人達はきっとものすごい努力をしているのだろう。そう考えると眩暈がした。
ポケモンみたいに、いつかレベルが上がって進化できるような、そんな簡単じゃなかった。
これは、大人になることの難しさと、別の人間の視点からそれを見た時のお話。みんな違って、みんなすごい。
すごい人へのなり方なんてわからない。それでも進むしかない。壁に挑み続けるしかない。
壁を掘り続けろ。