第11話 開花
七月も中ごろ。高校生活初めての夏休みを目前に、学校では大掃除の時間である。セミは鳴き、太陽は照り付け、夏の始まりを強く感じる。そんな中、頭の中には風夏との花火大会が輝いている。
別に花火大会に誘われたからって、校内で風夏との絡みが増えたわけではない。どちらかというとかおるんとの絡みが増えたくらいだ。風夏とは、話してもいない。けど、それは校内での話だ。放課後に携帯を開くとメッセージが来る。この関係がずっと続いている。高校生活は定期試験があるから、勉強内容を教えるのも定期的に入るがそれでも生産性のない会話をしている。
ほんとにただの男友達としか思われていないんだろうなと掃除中に考え、悲しくなる。しかし、俺も女友達としか思っていないなと考える。男女の友情が時折話題となるが、成立すると肌で感じている。
こんなくだらないことを頭の中で考えていると掃除の時間も終わりを迎え、海老山のおもしろくない話を聞くことになる。
「明日から夏休みだが高校生としての自覚をもって、警察沙汰になって人に迷惑をかけないようにしてくれ。後、文化祭の準備で夏休みに学校に来るときは、制服で来るように。」
夏休みが終わり少しして九月が始まると文化祭が始まる。その文化祭のことを決めたのは、今から一週間前の事だ。
「今から文化祭でなにをやるか決めたいと思います。」
総合の時間に、陽気な女子二人が黒板の前に並び、進行する。1年生は物販が基本という事でなにを売るかの話し合いである。クラスに協調性が無く、それぞれ近くのグループで盛り上がり、言葉を走らせるだけ、話し合いなんて進まない。俺も当然その輪の一人だが進行する気のない陽気な女子二人にも腹が立つ。
腹が立つなら自分がまとめればいいと思うだろうが、あまり人に干渉したくもないので、その態度を表にも言葉にも出さず輪の中で身を潜める。陽気な女子が適当な案をいくつか黒板に書き始めた。「たこ焼き、焼き鳥、焼きそば、パンケーキ」
火を通さないといけないという説明をしていたなと初めてここで実感した。しかし、その選択肢になるとこれほどにも似たような食べ物しか売れないことに気付く。だんだんとめんどくなくなった男子からのヤジが飛ぶ。
「この中から多数決で良いですか~。」この声にも少し腹が立つ。案も出さないのに、勝手に仕切り始めてなんなんだと。しかし、俺は身を潜める。いくら陸上競技大会で活躍したからと、面倒なことは避けて通りたい。息をしているか定かではないくらい影を潜める。こんな形で、多数決により、俺たちのクラスはたこ焼きを売ることになった。
一週間前の出来事だが、まだ少し思い出すと腹が立つ。もう既に文化祭に良い印象はない。しかし、来るものは来てしまう。この夏休みの期間を使って、看板や施設の塗装などを作成しなければいけない。しかも、外で行う俺らの「たこ焼き」は、室内で枠組みを作成し、文化祭前日に外に出さなければならない。
部活を言い訳になるべく参加するのは辞めようと感じていた。海老山の発言の後に、陽気な女子が集まる日時を伝えていたが、印象に残らなかった。俺は、何も話を聞いていなかった。陽気な女子が話をしている間に、俺は風夏を見ていたらしい。らしいというのは、誰かにそのことを伝えられたという訳でなく、俺が自分自身で、気付いたのだ。意識していたわけではないが、今週の土曜日に一緒に花火に行くからなのか、目で追う機会が少し増えた気がする。
目で追うだけではない、メッセージを見たかどうかを確認するようにもなっていた。しかし、これが好きという感情ではないことはわかっていた。かおるんに一目惚れした入学式当日のような心の高揚はないからだ。花火大会を待ち遠しく感じているから、こんな感じなんだと俺は自己解決した。
俺は、花火が好きだ。別に、夜空に輝く光がきれいだからとか、星空の背景に介入する強い存在感が良いとかではない。ただ、本当に何となく好きという感情が沸く。これが、花火が人から好かれる要素なのではないかと一人でふけている。夜に眩しく表れる花に、人々が夢中になる。夜空に火花を咲かせようと考えた人は、天才だなと再確認しているとホームルームが終わっていた。
帰り支度をしているとメッセージが入る。明後日まで、迫った花火大会の集合時間を決める連絡である。花火大会は19時に始まるので、それまでに花火を見るのに良いスポットを探さなければまらない。20分間空に舞い上がった後、一斉に人々がその場所を後にする。夜ご飯を食べるのであれば、少し早めに集合するかなど、自分の頭の中で、いろいろ考えた。とりあえず、俺は、「一緒に夜ごはん食べる?」とメッセージを返した。
花火大会に近くに何の食べ物があるのかをネットで検索する。都会だからなんでもあるなと感心して、花火が見える良いスポットの近くにあるレストランを見ながら何を食べようか考えてみる。ハンバーグとかおいしそうだなと考えているうちに、風夏からメッセージが返ってきた。
「食べないけど」
未来 ここあ。 @ryuryu88
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