8. 抗生物質
実験の準備は着々と整いつつある。猶予があとどれくらいあるかもわからないし、早いに越したことはないので、タクミは早速抗生物質の精製に取り掛かった。抗生物質とはバクテリアに対して殺菌したり増殖を妨げたりする物質のことで、今日バクテリアの感染に対する治療で最も重要な医薬品だ。多くの場合、それはいずれかの微生物(バクテリア、古細菌、菌類など)によって生産されたものを指し、タンパク質であったりその他の有機化合物であったりで、またその作用機序も様々だ。ではどうやって抗生物質を生産する微生物を見つけるか、それは、実は案外簡単だ。もちろん彼は何という種類の微生物が実際の抗生物質精製に利用されているかなんて知らないし、よしんば知っていたとしても顕微鏡もPCRキットもないから同定することもできない。しかし、既知だろうが未知だろうが、disk diffusionテストを用いれば殺菌作用の有無を判定することはできる。これは、バクテリアを培養した寒天培地の上に適当な微生物を培養した寒天培地または液培地を染み込ませた紙の小片を乗せ、その小片の周囲でバクテリアが殺菌されるかどうかを観察するというもので、顕微鏡だのの機器がなくてもシャーレと寒天さえあればできるのだ。テスト用のバクテリアとして、舌の上から三種類の微生物を単離培養した。世界初の抗生物質であるペニシリンはアオカビから発見されたのだという知識をもとに、それっぽいカビを何種類も集めてきてそれぞれ単離培養し、テストした。しかしてそのうちの一株に殺菌の活性が認められた。しかし、それで少女の病気を直ちに直せるほど単純な話ではなかった。生体内での活性と副作用の有無、安全性を確かめるためにその菌株の培養液をろ過したものをマウスに投与したところ、毒性が認められてしまったのだ。
バルブをひねって小さなやかんに水を取った。先日完成した太陽光スターリングエンジンと揚水ポンプ、高置水槽は期待通りに動いてくれている。
そのやかんをアルコールランプの上に乗せて加熱した。アルコール蒸留所が稼働を始めてエタノールが供給されるようになったが、この世界にはまだ醸造アルコール用の作物はもちろん、家畜の飼料用作物すらないし、そもそも前近代的な農法なのであろう、作物の価格もお高いので、当然ものすごいコストがかかる。それなのになぜアルコールランプなどという贅沢な真似をしているかというと、実験室内では煤を発生させたくないからだ。菜種油のランプでも、煙こそ出ないものの、上に掲げた容器の底面にはすぐに煤がつく。お湯を沸かしたのは、もちろんコーヒーを淹れるためなどではない。
やかんから沸騰したお湯を500mlだけ広口のガラス瓶に取り、蕎麦に似た穀物の粉末を10gとアガー(寒天)8gを加えて蓋をし、時々揺すりながら15分間湯煎した。瓶を振ってアガーが均一に溶けているのを確認し、掌約80℃まで冷ましてからシャーレに薄くしいた。全部で19枚できた。このアガープレートの上で菌を培養する。いよいよ実験の始まりだ。
お箸ほどの細さのガラス棒の先をエタノールに浸し、火をつけて殺菌した。そのガラス棒で舌の上を何度か撫でて常在菌を付着させ、ガラス製の遠沈管(試験管の底を尖らせたようなもの)に取った蒸留水中で撹拌した。さらにその遠沈管をボルテックス(高速で振動するラバープレート)で液中の菌が細胞ごとにバラバラになるように攪拌した。ボルテックスの原動力は水力で、高置水槽から下されたパイプのバルブを開けると、そのパイプのポケットに内蔵された水車が回転してボルテクスを動かす。
得られた常在菌懸濁液をさらに1倍、10倍、100倍に希釈した希釈系列を作り、アガープレートの上に100µlづつ滴下した。それらを一枚づつ、一端を折り曲げて楽器のトライアングルのような形にしたガラス管を、舌を撫でた時と同じようにエタノールで殺菌し、滴下した菌懸濁液をプレート全体に均一に塗り広げた。
なぜこのようなことをするかというと、適当な菌株を単離培養したいからだ。ヒトの口腔内には様々な種類の微生物が生息している。それを上述の方法で固形培地上に塗り広げた時、懸濁液内の菌の濃度が適当ならば、菌が培地上で増殖した時にバラバラのコロニーが形成される。ここでいうコロニーとは、目で見えるサイズになった菌の集合体のことだ。食べ物や湿った部屋の壁や天井の隅などに生えるカビのコロニーが想像しやすいだろうか。普段目にするカビは大体が真核生物という、細胞内に核を有する種類のもので、一方で彼が培養しようとしているのは細菌(バクテリア)という、細胞内に核がない種類の微生物で、ケカビやアオカビ、コウジカビのようにフサフサしたコロニーは作らず、扁平なシートのようなコロニーを作る。
口腔常在菌の懸濁液をボルテックスで激しく撹拌したので、懸濁液中では個々の細胞がバラバラになっており、そのため個々のコロニーは一つの細胞に由来する、小さな円形のものとなる。しかし、濃度が濃すぎると隣接するコロニー同士が混ざり合ってしまい、菌を単離できなくなる。そこで、いくつかの濃度の懸濁液を比較してちょうど良い密度でコロニーが生えたプレートを選ぶのだ。ついでに、コロニーの密度が懸濁液の濃度に比例することからそのコロニーが空気中から落ちた埃に由来するものではなく実際に口腔内から採取された菌であることを確かめるだとか、コロニーの色や形から採取した菌株がもともと口腔内のマイクロバイオームでどの程度の割合を占めていたのかを推測するということもできるだろう。科学実験では、この希釈系列というのは色々なところでよく使われる手法だ。
コロニーが斑点状に生えてくることを祈りながら、アガープレートを別室のインキュベーターに入れた。インキュベーターといっても、高い足のついたただの木箱だ。足の周りにも通気用の穴が空いた板が貼り付けてあって、その板の内側に小さなオイルランプ を置いておけば適当な温度に保ってくれる。ランプは大体5時間ほど燃焼を続け、その間インキュベーター内の温度を33℃前後に保ってくれる。本当はバイメタルサーモスタットや電熱ヒーターを使ってより正確に36℃に保ちたいが、まだ発電機は作れていない。
翌日インキュベーターの中を確認すると、果たしてアガープレートの上にポツポツと小さなコロニーが形成されているのが確認できた。懸濁液は100倍希釈のものでも十分な濃度だったようだ。が、ほとんどのコロニーが砂つぶのようなサイズにしか育っていなかった。夜の間にランプの火が消えて温度が下がったせいか、アガープレート中の栄養が足りなかったか。
培養中のアガープレートはとりあえずインキュベーターの中に戻し、ランプを再点火した。それから、ソバ粉の量を2倍にしてアガープレートを改めて作り、前回と同じように口腔常在菌を塗布した。バクテリアの培養に適当な培地の条件もまだ決まっていないので、これもソバ粉の濃度に関する希釈系列だ。
さらに翌日、ソバ粉2倍量のプレートではコロニーの大きさに実感できるほどの違いはなかったが、一日目のプレートの方がゴマ粒大のコロニーに育っていたので、そこから見た目が違うように思えるものを適当に三つ選び、テスト用の菌株とした。
次の六日間は培地の検討をした。選ばれた三種の菌株を、今度は様々な培地に塗布して菌が元気に育つものを探した。材料を変え、濃度を変え、塩を加えたりして、最終的には豆乳寒天培地が選ばれた。大豆に似た豆を水煮して潰し、布で濾した豆乳を一旦オーブンで低温で乾燥させ粉末にする。蒸留水100mlにこの豆乳粉末2g、塩1gを加えたものを菌培養用の液体培地とし、さらにアガー1.5gを加えて固めたものを固体培地とした(このように溶液の100mlに対して溶質の質量(g)の割合を質量/体積(w/v)で表したりする|豆乳粉末2%, NaCl 1% w/vのように)。
培養条件の探索における意外な副産物がこの豆乳であった。この街にもお米や麦に似た穀物のジュースはあった。おそらくそれらはお酒の原料にもなっているのだろう。一方で炭水化物よりもタンパク質に富む大豆をジュースにするという食文化はなくて、彼が屋敷のキッチンで豆乳を乾燥させる前に一部を取り分け、冷やして飲む姿を料理人たちは初め奇異な目で見たものだ。
ミルクがあまり飲まれないので(あるにはあるが、乳製品はバターやヨーグルトのような加工品の方が主流だった)、豆乳は彼らの新たな楽しみになった。
「で、屋敷の人たちの評判はどう?」
「うーん、半々かな。キッチン組は大体面白がってたけど、センセアさんとかはあんまり慣れない味だったみたい」
「ふうん?日本じゃ男の人よりも女性人気の方があった印象だけどね」
「まーそれは健康とか美容にいいってイメージがあったからね。大豆に含まれるイソフラボンが女性ホルモンのエストロゲンに似た働きするんじゃないかって。しかもそれで男性が飲むと性欲が落ちるだとか胸が出てくるだとかって、それはよっぽど大量に飲んだ場合だけど」
もちろん豆乳を一番積極的に飲んでいるのは彼と少女の二人だ。
「タクミさんは豆乳好きなんだ?」
「好きだがー?」
テスト用の菌株(以降テスト菌)と培地が用意できた。菌は液体培地で培養し、三日に一度新しい培地に植え替えている。できれば冷蔵か冷凍で保存したいのだが、まだ冷却装置は完成していない。定温度差スターリングエンジンは元気に稼働しているが、より温度差の大きいエンジンについては現在ドワーフ達が鋭意開発中である。
次は抗生物質を生産する菌株の探索だ。微生物は互いに食う食われるの関係だったり、あるいは同じ餌を求めて競争する相手であったりするので、ある種の微生物は他の微生物を殺したり増殖を阻害したりする化学物質やタンパク質を分泌したりする。例えば酵母の作るアルコールや酢酸菌の作る酢酸は他の微生物の増殖を抑制するが、これらもそういった競争のための戦略なのかもしれない。というのは、一部の酵母は酸素の存在下でよりエネルギー効率の良い好気呼吸を行い、アルコールを産生しなくなるが、一方で多くの酵母は酸素の有無に関わらずアルコールを生産し続けるのだ。ただし、ヒトがアルコールや酢酸を除菌に利用できるのは限定的で、食料の保存か、外傷の消毒ぐらいだ。体内のバクテリアを滅菌できるだけアルコールを摂取しようとしたら、確実にアルコール中毒で死亡する。抗生物質は微生物が産生する化合物やタンパク質のうち、バクテリアにだけ特異的に効き、かつヒトに対する副作用がないようなものを指す。
世界で初めて発見された抗生物質、ペニシリンの話は有名だ。ペニシリンは英スコットランド人の研究医のサー・アレクサンダー・フレミングにより1928年に発見された。当時フレミングはロンドンのセントマリー病院(現在はインペリアルカレッジの一部)でバクテリアのブドウ球菌を用いて研究を行なっていた。彼はすでに、バクテリアの増殖を阻害するライソザイムをヒトの唾液中から発見するなど、確立した研究者であったが、しかし実験室はあまり綺麗ではなかったらしい。夏休みの間もブドウ球菌の培地をラボの隅の作業台の上に置きっぱなしにしており、休みが終わってラボに戻ってきた頃には培地にカビが生えていたという。
このように、試薬や培地に意図しなかった物質や微生物が混入することをコンタミネーション(日本ではよくコンタミと略される)といい、普通であれば実験には使えないとして即破棄されるのだが、フレミングはこの時そのコンタミしたプレート内でカビのコロニーのすぐ近くではブドウ球菌のコロニーが破壊されており、しかしカビのコロニーから遠く離れた場所にあるブドウ球菌のコロニーは無事なことに気がついた。フレミングは早速そのカビを培養し、それが病原性のバクテリアを殺菌する物質を生産していること、そのカビがアオカビの一種であることを明らかにした。アオカビはアオカビ属(英語でペニシリウム属)に属するカビの総称で、ペニシリンという名前もその属の名前から取られた。このコンタミという実験の失敗から、それをそのまま失敗として捨てずに、世紀の発見につながった話は、科学研究においてはあらゆるものに対する注意深い観察が大事なのだという訓話としてよく紹介されている。
この話に倣い、彼はまずアオカビから抗生物質を精製しようと考えた。実は、詳しいところは次次回の話で述べるが、結核菌にはペニシリンは効かないので、もし少女が患ったのが肺結核であったのならペニシリンを精製できても治療は望めないのだが。ともかく彼はアオカビっぽい見た目のカビを探した。アオカビはごく身近なカビで、例えばミカンに生えてくるのがそうだ。しかしカビの種類は莫大で、アオカビ属だけでも300種以上が知られており、未発見のものはもっと多いだろう。ペニシリンを生産するのはこのアオカビ属の中でも一部だけだ。ちなみにフレミングがペニシリンを発見したのはPenicillium chrysogenumという種からだった。
手のひらや足の裏、ドアノブ、キッチンの流し、部屋の隅、庭の池、傷んでしまった食材、生ゴミ、その他カビのいそうなあらゆる場所で、綿棒で表面をこすったり埃を集めたりして、それらを懸濁した液をアガープレートに塗布した。だいたい二日間の培養で、それらのアガープレート上に様々なカビが生えてきた。白いの緑の黒いのオレンジの、絨毛の長さも違うし、プレートの上を這う菌糸の模様も違う。顕微鏡で見てみたら微細構造はもっと色々違うのかもしれないし、たとえ見た目が同じであっても違う種かもしれない。
得られた様々な菌のコロニーの小片をアガープレートから下のアガーごと切り出し、テスト菌を密に塗布したアガープレートの上にその小片を移植した。もし移植された菌が抗生物質を分泌しているならば、移植片の周囲の抗生物質が拡散している範囲ではテスト菌が増殖できず、テスト菌のコロニーが形成されない領域が観察されるはずだ。この手法はdisk diffusionテストと呼ばれており、現在でも普通に使われている。
テスト用のアガープレートはインキュベーターの中へ、移植片を切り取った後のプレートに残された他のカビのコロニーはアガーごとシャーレから剥がして廃棄用の缶の中へ。シャーレを70%エタノールで洗い、さらに廃棄缶と一緒にオートクレーブに入れて滅菌処理をした。オートクレーブというのは、簡単に言えば大きな圧力鍋で、高温高圧で微生物を殺菌したり、あるいはタンパク質を失活化させたりする。シャーレを次回使う時に前回の実験で入れられていたものの残留物があると、それが実験に変な影響を与えるかもしれないのだが、ただ洗って見た目綺麗になっているだけでは不十分で、オートクレーブで念入りに滅菌しなければならない。
また、廃棄缶を滅菌する理由は、それそのまま実験に不要になった余分な菌を殺すためだ。現代社会では、科学実験は研究者自身および周囲の人間、環境の安全のため、厳しいルールが課せられている。例えば実験に用いた動物は実験が終わった後、野に放つことはもちろん、死骸を生ゴミに出すことすら禁止されていて、原則として専門の業者に処理をお願いしなければならない。カビやバクテリアなどの微生物もそのまま燃えるゴミに出すのは禁止で、必ず滅菌処理をしなければならない。研究者や学生が大腸菌の培養液を滅菌もせずに下水に流したなんて事件が起きたら(実験に用いられる大腸菌は実験しやすい種、系統が選ばれていて、あるいは改変されていて、自然環境ではまず生きていけないだろうが、それでも)、注意されるでは済まず、そのラボは向こう10年は微生物を使った実験ができなくなるだろう。
もちろん今タクミのいる世界にはそのようなルールはないし、培養していたカビもそこいらから集めてきたものなので、そこまでする必要はないのかもしれないが、万が一その中に病原性のものがいて、実験の廃棄物が感染源にでもなったらまずい。シャーレの滅菌のついでにできることだし、用心するに越したことはないだろう。
意外となんとかなるものだ。オートクレーブの加熱10分、保温20分、冷却20分という時間制御も、機械式タイマーを作るまでもなく、ただ薪の量をちょうど良い加減にするだけだった。インキュベーターも、夜就寝前に一度油を注ぎ足しに来れば良い。
実験が始まって、彼が毎日休みなくラボにこもるようになったので、また少女から心配事を言われる羽目になった。
「ねぇ、今日で何連勤だか、数えてる?」
その日は朝からラボで実験をしていて、お昼にも少し遅れてしまい、明日からはラボの方にお昼を届けてもらおうかなどと考えながら屋敷の居室に戻ったら、少女も昼食を食べずに彼を待っていた。
「あー、いや、うん。ほら、バクテリアも生きてるからさ、毎日面倒見てやらないと、全滅しちゃったら二度手間だし」
そういえば昨日も夕食時に実験は忙しいのかと聞かれた。
「ちゃんと休みとらないと、タクミさんまで体壊しちゃうよ」
まだ14連勤ぐらいで、ブラックな会社に捕まった哀れな社畜と同じくらい、というのは当然言い訳にならない。社畜は遅かれ早かれ健康を害される。
「うん、ごめん、ありがとう。気をつける」
「私のためにお薬作ろうとしてくれてるってのはありがとうだけど、それでタクミさんまでなんかの病気になっちゃったら、私ヤだからね」
多分少女はずっと気を揉んでいたのだろう。
「でも、今んところ順調だよ。パソコンなくてもなんとかなるんだねぇ。それ言ったら、抗生物質の発見は戦前で、そん時はまだ計算機ってなかったんだからね」
しかし、そんなことを言ってごまかそうとしても、少女はガンダムの排気のようなため息をついた。
「……じゃあ、五日に一回は休みましょう?私も日中ずっと一人なのは寂しいです」
ここの言葉にもそれなりに慣れてきて使用人たちともよく喋るようになっているから、寂しいというのはどちらかというと彼を休ませるための方便だろう。危機感の違いというよりは期待値の違いなのだろうか。また、彼も焦りから冷静ではなかったのかもしれない。
「うん、そうしよっか。ありがとね」
休みを取ることは重要だ。集中力が上がるというだけでなく、休日に合わせた週ごとのスケジュールが決まるため作業の効率化がされる。研究者が休みをしっかり取る国はイギリスとフランスだろうか。フレミングが夏休みをしっかり満喫していたことは上にも紹介した。
彼の仕事内容も機器の開発から試薬の調製や菌の培養にシフトしつつあるので、これからはルーチン化も可能だろう。今彼は、抗生物質生産菌株の探索の他に、各種試薬の調製と、それからいまだに開発中のいくつかの機器の様子を見に各工房に行ったりもしている。
資金はあるので他人に任せられる部分は任せたいが、しかし安全管理と、それ以上に条件管理のために実験の肝となる部分は全て彼自身の手でやりたい。器具の滅菌を念入りにやることは上に紹介したが、そのほかにも培地の組成や培養温度など、実験の結果を左右しかねない要因はいくつもあるし、それらの要因がなぜどのように影響を及ぼすのかを理解していないと注意しようもない。そして、それらを理解するためには初等から高等教育までの、現代社会では十数年間もかけているような教育が必要であるし、当然この世界にはその水準の教育を受けた人間はいない。
「こんなことで無双したくなかったわー」
他に物理学化学生物学と実験のあれこれ、科学哲学を理解している人間がいないのだから、彼一人しかいないのだから、無双という表現は間違いはないのだが、ワラワラと湧き出る敵NPCをバッタバッタとなぎ倒すアクションゲームではないのだし、協力マルチプレイで楽ができるならそうしたい。プロの研究者にキャリーしてもらえるなら是非そうしたい。実のところ彼だって修士課程を修了して食品会社に就職した会社員でしかなかったのだから。無双したところで褒められるわけでも、キミハエイユウダとかキャーステキーカッコイースキスキチュッチューとか言われるわけでもない。
頼れる人がいないし、機械による自動化もできないから、休日でも朝昼夜に三回インキュベーターのランプの交換をしなければならないが、それくらいは許されるだろう。この街では五日を一週間とし四日平日一日休日になっているので、それに倣ってスケジュールを組むとどうなるか。植菌してからコロニーが形成されるまで、その菌の増殖速度にもよるが、一日から四日かかるとしよう。アガープレートにテスト菌を植菌してテスト対象のコロニーの小片を移植して一晩培養し、翌日に増殖阻害領域の有無を確認するから、disk diffusionテストができるのは週の一日目から三日目まで。そのほかに、毎週二日目はガラス工房へ、三日目はエンジンを開発中の鍛治工房へ、四日目は樹脂の加工を行なっている工房へ、四日目は遠心機やコンプレッサーなどを開発中の別の鍛治工房へ様子を見に行く。がとごと揺れる馬車にも慣れた。また、空いた時間には各種試薬の調整もある。簡単な化合物の合成でも、小規模な窯の中の、高圧にもできない、穏やかな条件下でできる方法を模索しなければならないから、一筋縄ではいかない。
そして、実験用のマウスの飼育。上にも書いた通り、殺菌作用を示すからといって抗生物質とは限らない。アルコールかもしれないし、酸性や塩基性の物質かもしれない。また、何がしかの有機化合物やタンパク質性のものであったとしても、ヒトにも影響するようなものであったら、それがあまり好ましくないような副作用であったら困る。というわけで、得られたものがバクテリアだけに効果的に効き、治療に利用できるものかどうかを確かめなければならない。
無傷で捕らえられるよう、折り返し付き金網カゴを作って屋敷のあちこちに設置した。罠にかかったマウスもラットも元いた世界のものと見分けがつかなかった。マウスには申し訳ないが、ぬるま湯でザブザブと洗い、天日干しにして、できる限り清潔にした。木箱に金網で蓋をし、工房からもらってきた木屑を敷いて、給水器と餌入れを置いた。餌は毎日、掃除は週一。これに関しては、使用人の手を借りた。元々は屋敷の馬や猫などの世話を担当していた男で、初めこそ害獣たるネズミの飼育に戸惑っていたようだったが、すぐに慣れて、名前を付けて可愛がりだした。愛玩用ではなく実験用なので、実験に使った個体は殺処分するしかないので、タクミは情を移さないようやんわりと忠告した。
次の休日、朝食後にバートルにその日は居室で過ごすことを伝えると、初め驚いたような顔をして、それからニッコリと笑って頷いた。そして、インキュベーターのランプを交換して部屋に戻る彼に、こっそり、
「スズ様は最近よくタクミ様のご様子をお聞きになっていたんですよ」
と、教えてくれた。
「そうだったんだ。いや、どうもあの子には随分心配をかけてしまったみたいで」
苦笑いを浮かべたタクミに、バートルも似たような表情を返した。
「実のところ、私共も申し訳なく思っていたのです。魔法ではないとおっしゃっていたので、もう少しお手伝いできるかと思っていたのですが」
どうやら使用人達の目にも彼は忙しなく働いているように映っていたらしい。聞くところによると、街の内外の一般の住民はともかく、上流階級の人間は、領地経営だろうが宮仕えだろうが、あるいは趣味の工作裁縫料理造園その他だろうが、そこまで忙しく働くことはないという。当然といえば当然だ。しかし、実験も各種機器の開発も元の世界の知識ありきのもので他人に手伝ってもらえない部分が多いし、少女の病状が今後どうなるともわからなくてはのんびりもしていられない。それでも、材料の買い付けやその他の渉外などをしてくれているのは使用人達だ。
「今でも十分に助かってるよ。いつもありがとう」
抗生物質生産菌の探索を始めてから十日、ようやくdisk diffusionテストにポジティブな菌株がとれた。次は、その菌株が生産しているものが抗生物質なのか、それともエタノールや酢酸のようなものなのかを調べる。まずはpHを測定したいが、そのためにはpH指示薬とpH標準液が必要で、少なくともpH7-8とそれ以上か以下かを判別できなければならない。下に彼の行った各種の試薬の調整を述べるので、クラフト系ゲームの実況だと思って読んで欲しい。
紫色のレタスみたいな葉菜や果実の表皮をエタノールで湯煎して色素を抽出した。アントシアニンは植物の液胞中に蓄えられている水溶性の色素で(修飾によって様々なバリエーションがある)、pHに応じて色が変わる。酢酸と水酸化ナトリウム水溶液を使って様々なpH値を試したところ、酸性溶液中では赤色、塩基性溶液中では青色を示すことが確かめられた。
酢酸は醸造した酢を蒸留して得た。水酸化ナトリウムについては、まず石灰岩(炭酸カルシウム)を加熱して二酸化炭素を放出させた生石灰(酸化カルシウム)を得た。この生石灰に水を少量づつ加えて水酸化カルシウムを、さらに水(試薬を調整する際用いるのは蒸留水)を加えて溶かし水酸化カルシウム水溶液を得た。また、トロナという灰色のガラス光沢のある鉱物(炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの複塩)を水に溶かして炭酸ナトリウム水溶液を得た。この水酸化カルシウムと炭酸ナトリウムの水溶液を混合すると、カルシウムイオンと炭酸がくっついて炭酸カルシウムになるが、炭酸カルシウムは水に難容性なので沈殿し、上澄みに水酸化ナトリウム水溶液が得られる。正確な計算ができないから混合された液中のカルシウムイオンとナトリウムイオンの量は同じではなく純粋な水酸化ナトリウム溶液ではないが、それでも塩基性溶液であることには違いないし、液中に残ったカルシウムイオンは空気中から溶け込んだ二酸化炭素と反応して沈殿していくだろう。
ところで、ナトリウム(元はラテン語)は英語と仏語ではsodium(発音はソディウム)、独語ではnatriumで、サイエンスは基本英語なので、薬品のラベルも論文の表記もsodiumの方。日本の理科教育でもナトリウムとかカリウムじゃなくてソディウムとポタシウムって教えて欲しい。多分そんなに混乱起きないんじゃない?
抽出した色素がpHに依存して色を変えることは確かめられたから、次はどの色が酸性、中性、または塩基性を示しているのかを知りたい。なのでリン酸緩衝液を用意した。リン酸は水溶液中で、H_3PO_4, H_2PO_4^-, HPO_4^{2-}, PO_4^{3-}の四形態をとり、それぞれの解離定数はおよそ2.1, 7.2, 12.3だ。すなわち、pHが7.2よりも小さい時は2価イオンはプロトンを結合し、大きい時は1価イオンがプロトンを放出するので、溶液中に1価と2価のイオンが有る限り、pHはおよそ7.2に保たれる。酸性にしたリン酸緩衝液に強塩基性溶液を少しずつ加えていくと、しばらくpHは2.1付近に保たれ、あるところで急激に上昇し、またしばらくは7.2付近に保たれ、またあるところで急激に上昇し、そしてまた12.3付近で保たれるという風になる。しからば、ただの水とリン酸緩衝液で、水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ加えた際の色の変化を比較することで、途中の緩衝作用が起こっている時の色がpH7.2付近に対応しているのだとわかる。
リン酸はリン鉱石と硫酸を反応させて得た。硫酸は、空気と蒸気を吹き込みながら硫黄と硝石を燃焼させて調整した。これは鉛室法と呼ばれる古い方法で、現在は使われていない。硝石の燃焼および硫酸との反応によって窒素酸化物が、窒素酸化物と水の反応により硝酸と亜硝酸が生じる。硫黄の酸化により二酸化硫黄が、二酸化硫黄と硝酸の反応により硫酸水素ニトロシルが、硫酸水素ニトロシルと亜硝酸の反応により硫酸と窒素酸化物が生じる。また、二酸化硫黄が窒素酸化物に参加されて三酸化硫黄が生じ、三酸化硫黄が水と反応して硫酸が生じる。これら複数の反応が並行して起こり、結果として、窒素酸化物が二酸化硫黄の酸化と水との反応を触媒するような過程となる。途中で発生する各種のガスは普通に有毒なので、基本閉じた系内で反応させるのだが、そのチャンバーを完成させるのには随分と時間がかかってしまった。実は、硫酸の調整にはリン酸の他にも、ある重要な理由のため、彼は熱心に取り組んでいたのだが(ヒント:鉛)。
リン鉱石と硫酸を反応させると、鉱石中のカルシウムイオンと硫酸がくっついて沈殿し、代わりにリン酸が溶け出す。リン鉱石とはリン酸塩を含む鉱物のことで、豊富に採れるのはカルシウムイオンを含むアパタイトのグループ(Ca_5(PO_4)_3(F,Cl,OH))を含む堆積岩だが、組成によって見た目も様々で、探し出すのに苦労したし、実際に反応させて、溶液が緩衝液として働いているのを確認するまではそれがリン鉱石だという確信も持てなかった。
ともかくこうしてpH指示薬とpH標準液としてのリン酸緩衝液が用意でき、そしてその指示薬はpH7付近で青よりの紫色であることが確かめられた。これで滅菌作用が酸や塩基によるものか、また、タンパク質や高分子化合物であったとして、それが中性溶液中で活性を維持するかを確かめることができる。なぜここまでpHにこだわるのかというと、彼の目的が肺炎の治療用の抗生物質の精製だからであって、例えばある菌株がタンパク質製の抗生物質を生産していても、それがヒトの体内で活性を失ってしまっては意味がない。血液はリン酸を含んでおりpHは7.4前後だ。
Disk diffusionテストでポジティブだった菌株を遠沈管に取った液体培地に植菌し、インキュベーターの中で振とう培養した。絶えず培地を揺らすことで、菌は底に沈まず、液体全体で最大限増殖させることができる。一晩培養したら、培地の色が不透明な褐色に変わっていて、変な臭いもするようになっていた。
遠沈管を遠心機に入れて、ハンドルをぐるぐる回した。遠心機とは、試料をセットしたローターを高速回転させて強大な遠心力をかけ、その試料内の成分を分画する機械だ。遠心分離により、比重の重い成分は回転の外側、すなわち遠沈管の底へ、軽い成分は回転の内側、遠沈管の上方へと分画される。超遠心機では半径数センチのローターを毎分数十万以上回転させ、100kG以上の加速度を与えることができる。もちろんそこまでのものは作れないが。このようにローターは運転時ものすごい大きな回転運動エネルギーを持つので、バランスが悪いと回転軸が曲がり、ローターの軸を折って、そしてローターがものすごい勢いで吹っ飛ばされるので大変危険だ。遠心機がガタガタ揺れ出したり、金属同士が激しく擦れる音がし出したりしないかドキドキしながら、だんだんにギアを切り替えて回転速度をあげていく。
腕をパンパンにさせた甲斐あって、概ね菌を遠沈管の底に沈めることができた。沈殿を掻き立てないよう静かに上澄みをピペットで吸い出し、ビーカーに開けた。今度はそこからシリンジに吸い上げ、そしてシリンジフィルターをセットした。シリンジフィルターは平たい駒のような形をしたフィルターカートリッジで、円盤部分にフィルターが収められている。軸は管になっており、一端をシリンジに接続し、シリンジから液体を押し出せば、液体はフィルターを通されて軸の反対側から出てくる。シリンジは注射器と和訳されるが、本来は管とピストンの部分を指し、その先端には必ずしも針が付くわけではない(注射器は英語ではinjector)。このフィルターを使って液体中の菌を完全に取り除こうというわけだが、菌のサイズだって微細なものであるから、厚紙や素焼きレンガの薄片など色々と試してみた。フィルターの目が細かいということはそれだけ抵抗も大きいということで、培地の上澄みを押し通すのにはまた一苦労だった。
得られた上澄みはわずかに酸性に傾いていたので、これを中和した。この液体を紙の小片に染み込ませてdisk diffusionテストを行い、結果がポジティブならば、中性溶液中で殺菌作用を持つ物質が存在するということになる。一晩の培養ののち、果たして紙片の周囲には、生きた菌のコロニーが乗ったアガロースの小片のときほど広くはないにしろ、確かにテスト菌の生えていない領域が認められた。ついでに、ろ過された上澄みの内部では新たに菌が育っていなかったから、フィルトレーションできちんと滅菌できており、紙片上で新たに菌が増殖して何かを生産したわけではないということも確かだ。
「さてここまでは思い描いていた通りだ。だけど順調だってわけじゃないぞ。これが抗生物質だって保証はないんだ」
そう独り言をつぶやく。この世界に来て、言語の解析を始めてから間も無く少女と一緒に作業するようになり、実験の準備を始めてからも職人や商人、山師などといつも誰かと一緒に仕事をしてきたが、実験が始まり久しぶりに一人きりの時間が増えた。相談できる相手がいないと、自分がどこかで間抜けな考え違いをしているのではないかと不安になる。
サイエンティストは博識だと一般からは思われがちだが、必ずしもそうではない。確かに研究には多量の知識が必要だが、別に全部覚えていなくても、調べる方法と、内容を理解し、かつその知見の妥当性を判断できればいいのだ(ちゃんとした科学雑誌に載っている論文だって間違っていることもあるので、誰がどこで発表したかだけでなく、内容そのもので判断しなければならない)。彼だって特別記憶力のある方ではないし、基礎的な知識はともかく鉱石の見た目などはほとんどうろ覚えだったから、実は上に述べた各試薬の調製も倍以上の失敗を含む試行錯誤の末の結果だ。それだけの失敗を経ていれば、彼でなくとも慎重にそして懐疑的になっただろう。
次に、得られた上澄みが抗生物質かどうか、医療に応用できるかどうかを確かめるため、有効な濃度まで濃縮する必要がある。冷却機と真空ポンプがあればフリーズドライングして粉末にして、濃度を何g/100mlという風にもできるが、あいにくどちらも完成していない。試しに溶液を沸騰させたら殺菌作用は失活した。しからば常温で、アスピレーターで減圧して緩やかに溶液を蒸発させ、十分な濃度に濃縮するのがいいだろう。
アスピレーターとは流水を利用した減圧機で、液体の流れる流路が途中で細くなり流速が増すため、ベルヌーイの定理により圧力が低下し、その細管部分に接続した吸い込み口から気体または液体を吸い込む。構造はただのT字管なので作るのは簡単だったが、その一見不思議な作用によって職人たちを大いに驚かせた。しかし彼の他に需要はない。
十分な濃度は少なくとも生体に投与したときに殺菌作用のある濃度で、できるなら安全性を調べるためにその生体に毒性を持つような濃度まで濃縮したい。しかし彼には薬剤開発の経験がなく、どのようなお作法があるかも知らなかったので、とりあえず、体重20gのマウスに0.1ml注射するとして、ほぼ同体積の20mlの液体培地に0.1ml溶かしたときに殺菌作用を示す濃度を最低限の目標に濃縮することにした。
沸騰させなくても、常温でも抗生物質はだんだん変性して失活してしまうかもしれないので長々と濃縮もできない。一晩蒸発させて、液量がおよそ10分の1になり、200倍希釈しても殺菌作用が認められたので、希釈系列を作ってマウスに皮下注射した。マウスは健康なもので、疾患モデルマウスというわけではないから、薬の効果があるのかどうかはわからない。わかったのは、濃い濃度の溶液を注射されたマウスの皮膚に炎症反応が起こったということだった。コントロールとして用意した、菌を培養せずに遠心してろ過して蒸発させた液体培地および生理食塩水を注射したマウスでは炎症は起こっていなかったから、注射器のせいということもないだろう。炎症が起こらないくらいに薄めた溶液を同体積の液体培地に加えてテスト菌を植菌したら増殖してしまった。
その日の夕食は鶏の香草焼きに根菜のサラダ、玉ねぎとベーコンのスープ、ビスケットのようにカリッとしたパンだった。普段はハムやソーゼージなどの加工肉が多く、未加工の肉の料理は久しぶりであったから、彼も少女もよく食が進んだ。少女は病を発症してから少しだけ食が細くなってしまったが、それでもちゃんと食べている。
「この鶏おいしいねえ」
「ね、サラダの酸味とよく合ってる」
塩っ気のきいたお肉の脂をサラダですっきりさせ、さらにそこへ果実酒を流し込む。
「っくはぁ」
とろけた溜息をもらしたタクミに、少女は微笑みながら小首を傾げて労りの言葉をかけた。
「お疲れですか、ハカセ?」
「うーん、一進一退。そんな簡単じゃないね。ということは、順調であると言える」
得られた培地の上澄みに殺菌作用があって毒性がなくてそのまま治療に使えてそれで少女の肺炎がたちまち治るなどと、そんな都合のいい展開を期待していなかったわけではないが、生物現象というのはマルチファクターで、簡単にいかないということも日本にいた時から身にしみている。ここまでは思い描いていた通り、順調だ。
「明日は一日ゆっくり休んで、明後日からまた続き」
ようやく実験が始まって、バクテリアを培養し、そのバクテリアを殺菌することのできるカビを探し、そしてそのカビを培養して殺菌作用のある溶液を得ることができた。マウスの皮膚に炎症反応が出てしまったのはきっとマイコトキシン、すなわちカビの生産した毒性の二次代謝産物のせいだろう。マイコトキシンには熱に強いものも多く、それでカビの生えてしまった食材は加熱しても食べることができなくなってしまう。アオカビ属のカビもマイコトキシンを生産することが知られている。
しからば次は、抗生物質とマイコトキシンの分離だ。なんとかして両者を化学的に分離することができれば、培養液をろ過しただけの溶液から抗生物質を精製することができれば、治療に使えるかもしれない。ペニシリンも、発見された後、しかしフレミングは生化学者ではなかったので精製することはできなかった。1940年になってオックスフォードのハワード・ウォルター・フローリーのチームによって単離され、やっと医療に応用できるようになったのだ。
「そういえば、明日ってなんか予定ある?」
「明日、別に何もないけど?」
「そう、じゃあ、ちょっと外出てみない?川沿いの並木の花が綺麗に咲いててね、それで先週車椅子を頼んだんだけど、今日の夕方ちょうど納品されたんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます