第5話 悪役令嬢はキュンキュンする

 あたくしが泣き止むと、クロは今までのことを話し出した。


「俺は気がついたらこの世界にいた。姿が変わっているので驚いてたら、出会った魔族達に魔王様と呼ばれた」


「魔族の国というのは聞いたことがありませんが、国があるのですか?」


「いや、国はない。魔王という存在は、世界が必要とした時に現れるんだ」


「世界が必要?」


 そんなことがあるのだろうか?

 光だけが強くなると、バランスがおかしくなるということなのだろうか?


 そういえば、あたくしが生まれ育った王国では、光属性だと喜ばれるが、闇属性は嫌われる。強い闇属性の人間は王国内に生まれることはないようだが、弱い闇属性の人間がいないわけではないのだ。


 闇属性を持つ人間に出会ったことはないから、噂でしか知らないけれど。


「前の魔王が聖なる力を持つ者に消されたあと、数百年も存在しなかったらしいが、ある日、俺が生まれた。魔族達は、俺なら聖なる結界を破ることができるとか言ったが、俺はそんなことをしたいとは思わなかった。なぎさ以外の人間に会いたいとは思わなかったし、人間達を支配したいとも思わなかったんだ。だが――」


 急に、クロがしゃべらなくなった。じっと、あたくしの首の辺りを見ているような。


「あっ!」


 そうだ!

 忘れてた!


 パッと、黒い首輪に触れる。


「寝ている時に調べさせてもらったが、転移封じの首輪だな」


「はい。これをあたくしにはめた神官にしか外すことができないようです」


「俺なら外せる」


「えっ?」


「魔王だからな」


「そうなのですか……」


「嬉しくないのか?」


「うーん、この首輪は邪魔ですし、好きでもないんですが、気持ちがついていかなくて……」


「そうか。何があったか、聞いてもいいか?」


「はい」


 あたくしはこの世界に生まれてから今までのことをすべて話した。クロが話してくれたのだから、自分も話そうと思ったのだ。


 乙女ゲームのことも話した。前世でも、クロに乙女ゲームの話はしていたし、なんとなくでも通じるだろうと思って。


 話を聞き終えたクロは、「お前が望むなら燃やしてくるが」と言った。


「えっと、もしかして王国を?」


「ああ。お前を苦しめた国など存在しない方がいい」


「いや、そんなことしなくていいです。それよりもこの首輪をお願いしたいのですが」


「いいだろう。首輪だけ消してやるから、怖いなら目を閉じていろ」


 首輪だけ消すって……。


「痛かったり、熱かったりしませんよね?」

「お前を傷つけるつもりはないから大丈夫だ」


 信じていいのだろうか?

 彼にそのつもりがなくても、魔王だし、不安だ。だけど、あたくしが頼んだのだし、ずっとこのままなのは嫌だ。


 覚悟を決めて目を閉じる。


「――いいぞ」

「えっ? もう?」


 驚いて目を開けたあと、ドキドキしながら首に手を当てた。


「ない……」


 顔を上げて、ベッドのそばに立つクロに視線を向ける。魔王の姿に戻っている彼は、首輪を持ってない。本当に消してしまったようだ。すごい。魔法みたい。って、魔法だろうけど。


 ハァー。

 大きく息を吐いた。なんかいろいろあって疲れた。


 そう思ったあと、ふと気づく。


「あの」

「なんだ?」

「魔王様なんですよね? クロと呼んでていいのでしょうか?」

「ああ、クロがいい。この名はお前がつけてくれた大切な名だからな」


 フッと笑って言うクロがかっこよくてキュンとした。

 猫の姿が可愛くて、この姿はかっこいいとか、まるでごほうびみたいだ。

 ああ、なんてしあわせなのだろう。


「なぎさ――いや、今はレイージアだったか」

「えっと、レイージアはもういいです。なぎさって呼んでください」

「そうか。なぎさ、俺はお前が好きだ。ずっとずっと、お前だけを愛してる」


 真剣な眼差しにキュンキュンして、とろけてしまいそう。身体が熱くてたまらない。


「これからずっと、俺のそばにいてくれないか? 嫌だとは言わせないが」


 何それ、怖い。嫌だと言ったらどうなるのだろう?

 言うつもりなんてないけれど。


「あの……」

「ん?」


 首をかしげないでほしい。猫じゃなくてもキュンキュンするから。


「えっと……あたくしも、クロが好きです」


 貴方が猫でも、魔王でも。


「そうか」


 フッと微笑んだクロの顔が近づいてきて、優しく頭を撫でられたあと、頬や鼻や唇や首にキスされてしまった。


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国外追放される途中の馬車の中で前世を思い出したんですけど 桜庭ミオ @sakuranoiro

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