満月の夜に兄と妹のヒトミは何を見たか?

山岡咲美

満月の夜に兄と妹のヒトミは何を見たか?

 「おにいちゃんヒトミこわいよ」

妹が真っ暗な部屋の中で怯えている。


「大丈夫、お兄ちゃんが化け物なんてみんなやっつけるから」

兄の震える手の中には安っぽい万能包丁があった。


「ダメ、おにいちゃん!いかないで、みんなしんじゃう!」


「大丈夫だよヒトミちゃん、ヒトミちゃんは絶対守るから、絶対だから!」


「ダメだよおにいちゃん、みんなしんじゃうみんなしんじゃダメ!」


「落ち着いてヒトミちゃん、お兄ちゃん外へ出て助けを呼んでくるから、ヒトミちゃんは屋根裏部屋に隠れて居るんだ」


「イヤ、おにちゃん、いっちゃダメ」

妹は必死に兄を止めます。


「ダメだよ…ヒトミちゃんここに居るだけじゃ助けは来ない、だから…」

妹は必死に兄の服にし噛みつきます


「おにいちゃんいかないで…」


「……」

こんな所に1人に出来ない。


「解った、お兄ちゃんに着いておいで、でも絶対に大きな声を出しちゃダメだ、ヒトミちゃんも死にたくなだろ?」

兄は妹を見つめ真剣に諭します。


「うん…」

妹はふ震え歯をカチカチと鳴らしながら兄の服を掴んだままそう言いました。


「まず外へ逃げるか、リビングか離れの電話で警察呼ぶんだ、あとパパとママの部屋にスマホが有るかも」


「しなない?」


「うん、上手くやれば誰も死なない」

兄は妹を抱きしめ勇気を奮い立たします。


「ヒトミ、がんばる」

妹は小さいながらも決意を固める。


兄はゆっくり屋根裏部屋の扉を開ける、下へと続く狭い階段から廊下が見える、灯りは点いていない。



ここは2人がパパとママと住む古い洋館だ。



「月明かりで何とか見えるけど…ブレイカー落としたの失敗だったかな?」

兄は屋根裏部屋へ逃げる際バスルームの前にあるブレイカーを落としていた。


「行くよヒトミちゃん」


「…うん」


兄と妹は音をたてない様にゆっくりゆっくり階段を降りる。


「あいつがいる…!」

兄の言葉に妹は強く兄の服を掴む。


「女の方だ、廊下を歩いてる」

兄の目に普通の人間の体に天井まである頭が乗っている化け物が見えた、魚眼レンズで歪んだ様な顔をしている。


「オトコナンコテシウドンヤチイニオノルイニコドエネ」

化け物は訳の訳の解らない言葉を発している。


「ママ?」

妹が覗き込もうとする。


「ダメだ!」

兄は慌てて妹の口をふさぐ。


「ンヤチイニオノタツヤチシウドコドハンヤチミトヒエネ」

化け物は周りを何度も何度も見る。


「ぼくらを捜してる?」

兄は手にした包丁を握り締める。


「おにいちゃんダメだよ」

妹はグイグイ兄の服を引っ張る。


「ヨワルケアノルイニヤヘンヤチイニオエネ」

化け物が兄の部屋に入っていく。


「ヒトミちゃん今のうちだ階段を降りるよ」

兄は妹の手を引き階段を降りる、速足だが音はたてずにだ。


「このまま玄関から逃げる?それともリビングの電話で警察を…」

兄は階段の下で考える。


「階段に罠を…」

それは稚拙な罠だった。


「これで降りた時に解る筈だ」

兄は階段下の観葉植物と手すりの下の方を遊んだあとそのまま手すりに掛けて居た縄跳びで結んだ。


「だいじょうぶかな?」

妹は不安そうに罠を見つめる。


「電話だ!」

昔は壁で仕切られて居たであろう改装されたキッチンとダイニングそしてリビング、そしてその部屋のキャビネットの上にワイヤレス式の固定電話が置かれていた。


「おにちゃんけいさつでんわするの?つかまるの?」

妹は階段がある方を振り返り何か心配そうにしている。


「あれ?何で?何で電話掛かんないんだ?」

兄は混乱している。


「電話ちゃんと光ってるのに」

固定電話はワイヤレスでも本体に通電していないと使えない…。


「これスマホと違って電気いるんだ」

兄はどうするか考える、ブレイカーを上げたら電話出来るけど化け物に気づかれる。


「………ヒトミちゃん」

妹を見つめ、兄は決意します。


「お兄いちゃんこれ持って電気つけに行くけど、ヒトミちゃん1人で外へ逃げれる?」

兄は妹の目を見つめ真剣に話す。


「ううん、ヒトミひとりイヤ、お兄ちゃんといる」

妹は兄から離れないつもりだ。


「ダメか…ヒトミちゃんまだ小っちゃいし…そうだ!放れの電話なら電気 別かも?」

兄は父が仕事に使ってる放れの電話なら使えるかもと気づく。



ガラン!!!!



「ノルストコナンコテシウドイナヤジビトワナモヒレコニナ」

兄の仕掛けた罠だ、化け物が降りて来たと兄は思った。


「ヒトミちゃん逃げるよ!」

兄はリビングから裏庭に出る。


「ノルテツヤチツガマニウホナンヘガシアママテツマ」

足を引きずる音がする。


「……」

妹はうしろを気にしながらも兄に付いていった。


「放れだ、パパは?灯り点いてるけど…」

そこは、2人の父が造ったロッヂが在った。


「鍵、鍵閉めなきゃ」

兄は振るえる手、包丁を持ったまま鍵を閉める。


ロッヂは思いのほか静寂の中に在った。


「ママのスマホだ!」

兄はロッヂに入ったら直ぐあるソファーテーブルの下に母のスマホが落ちて居るのを見つける。


「119って履歴がある、救急車?パパかママが怪我したの?…でもおかしいよコレ?20分も前に電話してる…何で来てないの?警察は?」


「ヨモヤシウユキユキワイナテツイハニツサイケンヤチイニオヨブウヨジイダ」

化け物が鍵の掛かって居た筈の扉を開けてそこに居た。


「イサナセカマニママハトコノパパワイナライイパンシ」

化け物は足を引きずりながらもここまで2人の事を追って来て居たのです。


「ママー!!!!」

妹が叫びます。


「ヒトミちゃん!逃げて!!」

兄は妹の襟首を引っ張りうしろへと逃がし、真っ直ぐにドアの前に立っている化け物に向かって走り、包丁をお腹へと深く深く刺しました。


「ママー!!ママー!!ママー!!!!」

妹はその場で跳び跳ねながら半狂乱でママ、ママと泣き叫びます。


「大丈夫!大丈夫だよヒトミちゃん!ママのスマホで警察に電話するから!!」

化け物はうずくまったまま動けないでいます。


「警察ですか?ぼくのウチに化け物が出たんです!!」

兄は真っ先にそう言った、警察も普通ならそんなふざけた電話は信じないだろう、しかし真夜中に子供の声の通報、そして小さい女の子の「ママ!」と叫ぶ声、警察は真剣に話を聞いてくれた。


「パパに電話…」

警察にはそのまま繋いで居てと言われたが兄は怖くて怖くて父のスマホに電話を掛けた。



「リリリリッ!リリリリッ!リリリリッ!」



「パパのスマホの着信音がする?」

ロッヂの奥に有るキッチンの方からだ…兄はキッチンへとそっと歩く…。


「パパ?」

そこにはキッチンの床に横たわる血まみれの父の姿があった。



「どうしてパパが…?」



「警察です、開けて下さい、入りますよ!」

警察がロッヂに入って来て惨状を目にする。


「どうしたんです!何があったんです!」


「待て!刺されてる!」


「30代女性、腹部に刺し傷、凶器は家庭用万能包丁!」


「刃物は抜くな!救急車!救急車を早く!」


「妹さんとお兄ちゃんを確認!」


「怪我は無いかい?お兄ちゃん」


「オイこっちもだ!男が首を切られてる!」



「お嬢ちゃん何があったの?話せる?」

放心常態の兄に代わり小さな妹に警察が話を聞く。






「おにいちゃんがパパとママをころしたの」






満月の夜に兄と妹の瞳は何を見たか?

                 END

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