日常の隣、ふと迷い込んだ先にある小さな異界

地方都市で迷子になった大学生男子が、不思議な少女に出会い道案内してもらうお話。
かなり序盤から話の全容がうっすら見えるタイプの物語です。意外性や急展開で興味を惹きつけるのではなく、しっかりと時系列順に話の筋を追う、とにかくシンプルでストレートなお話。飛び道具に頼らない姿勢が心地いいです。
話の筋はそのものは対話劇、主人公と少女の心の交流のような趣です。ある種のファンタジー要素を含んだ「ちょっと不思議」なお話ではあるのですが、核となる題材の選択と、その広げ方が興味深いです。
民族学的な伝承を軸に、地方都市の歴史やそのありよう、そしてそこで生活する人間の皮膚感覚、等々。街という大きな括りから小さな個人への接続というか、それぞれの話題に通底する流れの、そのどこかゆったりとした雰囲気が魅力的です。
最初から最後まで安心して読める、とても優しいお話でした。