無限の宇宙(そら)に。

きつねのなにか

無限の宇宙(そら)に。

「大吉、ねえ」


アタシは電子で出来た神籤みくじを引いてそう呟いた。

もう、なんだってサイバー化しているこの世界でも、運試しってのは滅びないらしい。

因みに神籤にはこういう言葉がめでたく載っていた。


「他人のために尽くすとなおよし」


なにが他人だ、自分のために生きちゃいけないのか。


私の仕事は潜憶士せんおくし

潜憶士ってのは対象の生物が持っている記憶に入り込み、邪魔な記憶を消すのが仕事内容さ。

誰にだって嫌な記憶はあるだろ、それをアタシら潜憶士が潜って取り除いてやるのさ。


自分にその記憶を移すことによってね。

勿論その記憶はアタシにこびりついて離れない。

嫌な記憶がどんどん蓄積する。


十分、十分他人のために尽くしていると思わないかい。


これでも運試しの神籤さまは他人のために尽くせと、自分のために生きなさいとは言ってくれないのかい。

首を絞められた気分だよ。


今日も数件の嫌な記憶を取ってきた。こんなときはあそこに行くに限る。



そこは何の変哲も無い、ただの四角い部屋さ。

でも最高の部屋。1人になれる、殻に閉じこもれる、嫌な記憶を思い出すことも無い。


上を見上げれば何の変哲も無い天井、だけど想像するだけ全ての宇宙そらを見ることが出来る。


横を見れば唯の壁、でも黄昏空の遺言のようなが私を照らしている。


この部屋は狭い、でも無限の宇宙そらが広がっているのさ。


「この部屋だけは、私だけの世界」


なんて呟いて潜るここは宇宙そら


私の仕事は無限の宇宙うちゅうに潜り込む仕事。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無限の宇宙(そら)に。 きつねのなにか @nekononanika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ